第十三話 ステキじゃないサプライズっす
「ローネ……ローネや……。おや、どこにもいないと思ったら……また、こんなところで魔法の練習かい?」
「あ、おばしゃん……だって……わたしだけ、うまく使えないんでしゅから……」
「お師匠と呼べと言ったでしょう? それにわたしは、大叔母だって説明を……」
「違いがよくわからないでしゅ……どうして練習をしたらいけないんでしゅか?」
「それは……おねえさんたちとは、年季が違うんだから、同じようにできるわけないのよ?」
「それが分からないでしゅ。村では、かけっこでも負けたことがないんしゅよ?」
となりのアマネーにも、そのとなりのイシュケルにも、となりのとなりの……。
「どう説明したらいいかねぇ。あんたの産まれたばかりの妹が、あっと言う間に……」
わたちの方がおおきいのに、どうして言う事を聞かないと、いけないでしゅか?
「それにわすれちゃいけないのよ……ミストークの力は祝福なんかじゃないって事を――」
あぁ、そんな事をいってたでしゅね……だれかが覚えててくれるなら、べつにワタシはかまわない……でしゅから。
「ローネ……ローネ……」
わたしは、ほほにぽたぽたと落ちてくる、熱いしずくに打たれて目をさましたでしゅ。
どうやら車の後部座席で、アコさんにひざまくらをしてもらっていたようです。
「良かった……ローネが目を覚ましたっすよ、大尉!」
「本当? 良かったわぁ……心配したのよ? ローネ」
「アレ? どうして、泣いてるでしゅか? アコさん……」
顔を真っ赤にして、くいしばるようにして涙を流していたのは、アコさんでした……。
「何言ってるんスか! ばったり倒れて、呼んでもゆすっても、起きなかったんすよ?」
「あぁ……大島の左から、回り込もうとするお船がいたっしゅよ? 大丈夫でしたか?」
「ちゃんと聞こえたわよ。ローネの報告がないと、民間人の乗った船が危なかったのよ」
「そだったですか……本当に……よかったでしゅ……」
「そんなの、ちっともよくないっすよ……心配したんだからぁ!」
「ごめんなさいです……アコさん。大丈夫ですから!」
「病院に向かおうとしていたんだけど、その方がいいわよね?」
「あ、寝てれば治るですから、大丈夫です……。ちょっと拡大をしすぎただけで」
「よく考えたら、敵が来ないか見張る程度ならともかく、無理をすれば疲れて当然よね」
「のどかわいてないっすか? ポ○リがあるっすよ?」
「そういえば、ずっと水を飲んでなかったですね」
「夢を……みていましたです……。ワタシに……妹がいた事を思い出したです」
「えぇっ? ローネって、ひとりっ子じゃなかったんスかぁ?」
「そういえば、家族構成とか聞いてないわよね……」
「妹が産まれた事で、修行に出ることになったので、名前しか知らないんですけど……」
「そうだったんすか……きっと、ローネに似てるんでしょうねぇ」
今ごろになって、お師匠の言葉の意味に気づく事ができたです。
「じゃあ、頭を起こして飲むっすか? ゆっくりっすよ? ローネ」
心配をかけてしまったせいか完全におねえさんになってマス。
「んっ、おいしいです……からだに染み渡って行くようです」
「というか、早坂……。ローネの体調管理は、あんたがしてくれてるものと」
「本当にすみません。自分は熱中すると、回りが目に入らなくなるもので……」
「あの……伊豆大島の戦況は……どうなったんでしょうか? 避難できました?」
「百里基地のパイロットが先導となって、大量の戦闘機を連れていったそうっす」
「いつも伊豆大島で訓練をしている、名物パイロットだそうね。助かったわよね」
「はぁ……そうですか。無事で本当によかったですよ」
ようやく張り詰めていた精神をゆるめる事ができたんですが……おなかも鳴っちゃいました。
「おなかもすいて来ちゃったんすね? おにぎりがあるっすよ」
「もう、お昼すぎてるんですネ……じゃあいただきます」
アコさんは、ワタシがおにぎりをほおばるのを、ずっと横から見てたです。
「ごちそうさまデシタ……このサケって魚はおいしいですネ」
「あ、向こうの世界にはサケがいないんだ……よかったっす」
「そんでまぁ、ローネの重要性は、じゅうぶんすぎるぐらい、上に理解されたわ」
「ですよねぇ。この車の前と後ろに、黒塗りの車がいるんすけど、護衛なんすよね……」
「そうなんですか? ワタシたちを、守ってくれてるんですよネ?」
お二人の言葉が、必ずしも楽しそうではない事に、気づいてはいたですけど。
「いろいろと、おまけもついて来ちゃったのよね。情報本部に着いてから説明するわね」
いつの間にか車は見覚えのあるビルの中へと入っていったです。おまけって何です?
「いまふとんを持って来るっスから、おとなしく座ってるっすよ? ローネ!」
大尉はどこかに報告に行き、その間ワタシたちは、第三会議室で待機する事になったです。
(おとなしくしないとですか……瞑想でも、するです)
「ミストーク……アデルテール……ジュシュリム……でしたよネ?」
魔法を使ったあとには瞑想をする習慣があるんです。
門を守って旅だった、血族の先人の名を詠唱するしきたりがあったですね。習いはしたんですが誰も詠唱しないから、忘れかけていました……。
「ふわぁ……昼間眠ると、夜眠れなくなるんですけど……」
わたしは、柔らかいおふとんにくるまって、ごろんと横になりました。
「ふふっ……。じゃあ、自分とお話でもするっすか? けど、そろそろ」
そういえば、この足音は御笠大尉ですネ。
「あら、起きてたの? 戻るのが、遅くなっちゃったわねぇ……。ローネ」
なんだかわたし……御笠大尉の、娘さんか何かみたいですね。そんな愛情に包まれたです。
「いいから横になっててちょうだい……軽く説明するわね」
「ハイ……。あ、おまけがついてくるとか言ってたですねぇ……」
「まず一点。わたしたち三人は、今回の功績が認められて、一階級づつ昇進したのよ!」
「そうなんっスか? 自分が中尉になって、ローネが大尉で、御笠大尉が少佐っすか?」
早坂サンも、この事を知らなかったようで、目を丸くしていました……。
「ローネは特務大尉って事になったけどね……。実質は同じと言っていいわね」
「それって、旧軍時代の制度っすよね。国防軍で復活っすか」
言っている事がよく分からないですけど、ワタシも昇進したんですか……。
「ローネは元一般人だから、正規の軍の教育を受けていないからって事なの……」
「あーなるほど。大尉としての待遇ではあるけど、ローネに指揮権は回って来ないんすね」
「アノ……御笠大尉は、市ヶ谷にいかなくても大丈夫なんですか?」
「じゃあ、もう一点を言うわね……。私は分析部長になって、情報本部に残留よ」
「マジっすか! じゃあ実質的に、第一と第二を統括するっすか!」
「廃止された、分析部長職を復活させてくれたのよ」
「じゃあ、第二分析室の室長も、事実上御笠大尉が兼任になるんっスかねぇ……」
「さらにもう一点……。早坂が、第二室長代行って事になるのよ」
「ほえー……。そうなんスか。まぁ、やる事はいまとあんま変わらないっすね」
「けど、忙しくなるんですよね? だいじょうぶなんですか?」
「んでもって、一番頭が痛いのがね……入って来なさい!」
御笠大尉はこめかみをひくひくさせながら、叫びました。
「どうもー……本日から、お世話になります。御笠少尉です!」
「ちょっ、ちょまっ……。東大法学部を出ておいて、なんで国防軍にいるんっすか?」
「ローネは知らないわよね……。私の弟の純一よ」
そのサプライズには、開いた口がふさがりませんでした。
「ミストーク……アデルテール……ジュシュリム……イアルローネ」
「あら、アイルローネ……。そんなの覚えても、別にいい事ないのよ?」
だって……。誰かがローネおばちゃんの事を、覚えていてあげないと……。いつか、帰って来た時に、寂しい思いをするじゃあ……ないでちゅか……。
御笠・早坂の、ワンポイント・ロリババァ講座
御笠:「報告書にそんな事は何も書いてなかったのにローネったら」
早坂:「魔法を使い続けると、年をとらないって事なんっすかねぇ」
御笠:「人によっては、天国かもしれないけど、遠慮願いたいわね」
早坂:「ローネが魔法を学んでいたところはロリババァの巣窟すね」
主人公が イアルローネ
めいっ子が アイルローネです。
向こうの世界では十数年経っている設定ですね。
ざっと四倍の月日が流れているんでしょう。




