第十一話 実験のはずが大事件っス
「こっちの方には、フツウの家も残ってるんですね」
「この周辺だけでも昔は八十万人ぐらいの人が住んでたのよ?」
金曜の朝、御笠大尉の引き継ぎが済んですぐに、実験に出発しました。
後ろからは車が何台もついて来ていて、早坂サンは機材車に乗ってマス。
「八十万人ですか……ちょっと想像できないですネ」
「四年前……。第二次攻防戦で奇襲攻撃をしかけられた時に、放棄をしてしまったのよ」
「放棄……ですか。じゃあ、ここにはもう誰も戻って来ないんデスカ?」
「場所によっては軍都に組み込まれたんだけど、海に近いところは危険なのよね」
「それだけの人が、帰る家をなくしてしまったんですネ……」
家はたくさんアルんですけど、誰も住んでいないだなんて、寂しいですね。
「あの時の事を思い出すと、眠れないような夜もあるのよねぇ……」
わたしがいて魔法を使っていたら。そう考えるのはごう慢ですね。
けど……もう、そんな人を増やさないように頑張るですから。
「お山の中に入っていくですか?」
「ええそうよ。もうすぐ見えて来るはずよ……」
車は坂道をゆっくりと上がっていったです。
「わぁ……とてもキレイな場所ですね……ココ。はだしで走れ回れそうですよ?」
ほぼ頂上まで登り着くと、木々の間に広々とした原っぱがあるところに出たです。
「ゴルフ場の跡地を利用して、小型の無人偵察機の飛行場にしているのよ」
「あぁ……木の棒を持って、ブーンって振るスポーツですネ?」
「あはは……それちょっと違うわよ? 今度説明してあげるわ」
「さぁ着いたわ……管制室はこっちよ」
車が近づくとゲートが左右に分かれていったです。まるで秘密基地みたいです!
「あ、分析部の水谷中尉じゃないですか。お久しぶりですね。山口以来ですか?」
「なんだ、計画部も呼ばれていたのかね。今回の件だが、何か聞いているかね?」
「さぁ……画期的な索敵システムだとしか。画像・地理部の石原も来ていますよ」
「どこも部長級の人間は来ていないようだし、たいした事はないんじゃないか?」
「どうですかね……この計画は内調と第二分析室の御笠大尉の肝いりですからね」
「少しでも状況が改善されるならいいが。まぁお手並み拝見といったところかね」
車から降りて建物の中に向かっていると、後ろから話し声が聞こえて来たです。
口々に勝手な事を言っているみたいで、ムッとしたですけど、我慢をするです。
「テステス……。それではお集まりの皆さんに、若干の事前説明をさせていただきます」
三十分ほど準備をしたあと、御笠大尉がマイクを手にして、説明を始めたです。
「五年前のイエローストーン大噴火により、電荷した火山灰が、成層圏に到達しました。衛星の大半が墜落し、少数の無事な衛星も通信が困難なのは、ご存じの通りの状況です」
わたしにも説明してくれているんでしょうか、御笠大尉はちらりとこっちを見たです。
「残された衛星は、現在もデータを収集し続けているのは、ご存じの事だと思いますが、そのデータを、特殊な装置と人材を媒体とする事により、受け取る事ができるのです」
御笠大尉の説明を耳にした人たちは、驚きと反発の交じった表情を浮かべました……。
「限定的にですが、リンクする事が可能となるのは、静止軌道上にある二つの衛星です。ひとつは関東。ひとつは四国を、指向性をもった装置により範囲に収めているのです」
その言葉に、説明を聞いた人たちはざわつき、周囲の人たちの反応を確かめ合っているようでした。
「では関東をカバーしている衛星の、索敵が可能となる圏内を説明させていただきます。北は佐渡島の手前。東は福島まで。西は名古屋。南は太平洋沿岸を広くカバーします」
「四国をカバーする衛星は若干能力が劣りますが、関門海峡と豊予海峡を監視下におき、中国地方の日本海側沿岸を。南は日向灘から土佐湾まで。東は大阪湾をカバーします」
御笠大尉が続けざまに説明する間、みなぼうぜんとした表情を浮かべていたんですが、一番危険な場所をカバーできる事を知って、一様に喜びの表情を浮かべてくれたです。
「詳細は機密ですが、いくつかの制限がありますので、常時使える物ではありませんが、貴重な哨戒機や無人偵察機に、決して劣らぬ有効性を、理解して頂けると思います」
「昨年秋に打ち上げた二つの衛星には、ソフトウエア的な改修しか行っていませんので、費用としては、ほぼかかっていない事を、内調の初瀬氏に代わってご報告いたします」
「そんなものを内閣情報調査室が、ろくな予算も確保せずに、構築したと言うのかね?」
いっしょに来た中で一番偉そうな人が目を丸くして、御笠大尉に近寄っていったです。
「えー……質問については実験終了時に時間を取りますのでご容赦願えますでしょうか。これから申しあげる事に関しては、最上位の機密情報となりますのでご注意ください」
御笠大尉は一拍おいて誰もがうなずいたのを確認して、わたしに合図をして来ました。
「それでは、ほかに発見されていない貴重な技能をもち、この計画を可能とした人物……内調から出向している、イアルローネ・アインス・ミストーク中尉を紹介いたします」
わたしは、早坂サンが作った特殊な装置を手にもったまま、ぺこりと頭を下げました。
「彼女へのいかなる接触も、情報本部長の通達書により、禁止させていただきます――。そろそろ時間も良さそうですね。恐れ入りますが、第二管制室から見学をねがいます」
「回線への接続ができたのでかけてみてください。ベルトがきついようなら調整します」
「ハイ……問題ないみたいです……」
見学の人たちが部屋を出て行くのを見届けてから、特殊な装置を頭につけてみたです。
まだ電源が入っていない事もあって、ほぼアイマスクをかけたような状態でした……。
「すでに航続距離が八十キロほどの、中型の無人偵察機が離陸して南に向かっています。では、現在の電波状態などの情報を、航空支援部の高橋少尉に説明していただきます」
「高橋です。本日の成層圏の火山灰濃度は低めですが、太平洋岸では電波障害が発生し、プリプログラムにより飛行中ですが、レーダー基地を介して制御が復活する予定です」
この基地の技術官さんが、マイクを持って解説してくれました。
「衛星とのリンクには持続時間と、回復するまでの時間がありますので、無人偵察機が、予定地点に近づいた時点で、中尉に開始するように指示します。あと五分少々ですね」
「無人偵察機の制御が復活しました。いつでも、映像を表示する事が可能となります!」
技術官さんが、マイクを手にして興奮気味に、何かを操作していました。
「それではリンク開始しますです」
わたしは装置の側面のスイッチを操作してから、早坂サンに合図を送りました。
何の通信もしていない事がバレると大変なので、細工をするのだそうです……。
「リンクは成功してマス……。いま、予定した地点に狙いを定めています……」
本来装置をのぞくと映像が見えるんですけど、術の邪魔なので真っ暗にしてマス。
「いま、その海域に一隻の大型輸送艦が接近しているはずですが、確認はできますか?」
御笠大尉は、管制の画面を見ながら聞いて来たです。
「エト……上空から見えましたです。コンテナをたくさん積んでるです……」
「それではコンテナがはっきりわかるまで、分解能を上げてみてもらえますか?」
「…………ハイ……見えてマスです」
「では、最後尾に一回り大きいコンテナがあるはずですが、その色は分かりますか?」
「最後尾……ウシロのハシですね……。色は茶色で、上に人が二人乗っかってるです」
「それではUAVの画像がそろそろ届くはずです……」
少ししてガラス窓の向こうの人タチが、音はしないですが騒いでるのが見えたです。
「はい……映像で確認できましたね。これだけでは仕込みではないかと疑われますので、別の場所も調べてもらいましょうか。南ですと、どのあたりまで調査が可能ですか?」
「煙が出てる大きめの島が見えてるです。西側に灰色のお船も、いくつか見えますです」
「伊豆大島ですね。それより南だとどうでしょうか?」
「ホカに四つぐらい島が見えてるです……エト……この島……大きいおわんが見えます」
「レーダー基地のある御蔵島(みくらじま)ですね」
「えー……では、高橋さん、無人航空機は伊豆大島まで進出が可能でしょうか?」
「高橋です。そうですね……。大島空港で回収するのなら可能になります」
「では、隣で見学をされている方々……。誰でもいいですので大島空港に電話をかけて、滑走路のそばに、何か大きい物体を配置するように、指示してもらえますでしょうか?」
「リンクが可能な時間は後十分もないですが、準備は整ったでしょうか?」
「準備完了のようですね……では、中尉……お願いします」
「ハイ……」
隣の偉い人に準備させたのなら、不正だって思われないって事ですネ?
「北側から進入するような感じで分かりますかね? 北側だそうです……」
「拡大してマス……これ何ですカ? 黄色クテおっきな車にゴロゴロが二つついてマス。あっ、運転席の人が窓から、身を乗り出して茶色い帽子を振ってくれていマスね」
わたしがそう報告すると、隣の部屋の人タチは、オーバーなアクションで驚いてました。
「UAVも進入をお願いします。あ、見えて来ましたね。これはロードローラーですか? 帽子の色までは、さすがに分かりませんが……ハイ。え、茶色で間違いないですか?」
ガラス窓ごしにジェスチャーで会話をしているですけど、うまくいったみたいですネ。
「どうやら、納得していただけたようですね……イアルローネ中尉……お疲れさまです。UAVも貴重ですので、そのまま着陸してくださって結構です。ご協力感謝します!」
御笠大尉がそうしめくくると、部屋にはほっとした空気が流れたです。
「あの煙が出てる山は何ですカ?」
「あぁ、三原山ですね。現在でも活発に活動をしている火山ですよ」
まだ持続時間が五分ほどあったので早坂サンに聞いてみました。
「そうですかぁ……なんだか怖いですね……」
わたしはいったん一段階ズームアウトしてみたです。
(いまの敵意のような感覚……こっちの方角デスカ?)
ごくまれにですけど、そういう事がわかる事があるので、調べてみるです。
「きっとこれです!」
発見した艦隊が発する敵意の量に、わたしは反射的にズームアウトしてしまったです。
「御笠大尉! ミクラジマの南からイッパイイッパイ、グンカンが来てるですよ?」
もしも敵だったら大変なので、あわてて立ち上がって叫んで知らせたです。
「えぇ? そんな予定ありましたか? それにコースが航路と違うはずですが」
御笠大尉は驚いた表情で係員の人に問いかけてました。
「調べてみますです……エト……とてもチッチャイですけど空母が見えるです」
「えぇっ? こんなところに空母? もう日本の領海内なのに」
御笠大尉に報告すると、この部屋の人も隣の部屋の人タチもあわて始めたです。
「ズームしたです……中央に空母……その回りに、小型のお船が、三十隻ぐらいいるです。えーと……煙が出ている島に向かってるみたいです!」
「小笠原諸島の基地と連絡はつきませんか? えぇっ? 通信断絶ですか?」
「アァ……持続時間が切れるです……パッシブに切り替えていいですか?」わたしは小声で早坂サンに聞いたです。
「先ほどまでの分解能は得られなくなりますが、高高度からの監視を続ける事が少し可能なようですので実行してもらいます。皆さんはただちに関係各所に連絡をねがいます」
こうして、後に第三次攻防戦と言われた戦いの発端に大きく関与する事になったです。
御笠・早坂の、ワンポイント・無理のありすぎる設定講座
御笠:「イエローストーンが噴火して火山灰が成層圏ってどんだけ」
早坂:「核の傘がなくなった事にするためだけにムチャしやがって」
御笠:「無線誘導も不可。火山灰で天測的にも誘導できないのよね」
早坂:「ふふん。要するにアレっスね。ミノ○スキー粒子的な……」
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