3話『愛したから治せないのではなかった』
「どうしてエネラルがここに……」
地下神殿で神託の調査をしている中――
私はエネラルに再会した。
「身体の傷は……」
「リシェルの祈りのお陰で、何とか動けるようにはなったよ」
それが、私を気遣った嘘だと直ぐに分かった。
「いえ、私は何も――どうか、ご自身のお身体をお大事に……」
あんなに酷い傷が簡単に治るはずがない。
無理だけはしてほしくなかった。
「リシェル……」
「近づかないでください」
エネラルがいつものように優しく接しようとするが、私はそれを拒否した。
「私は殿下の傍に居てはいけないのです」
「……何故?」
「神託に書かれていたのです。私が殿下の傷を癒せなかった理由が――」
「傷を癒せなかったからといって、リシェルが傍にいてはいけない理由にはなりませんよ」
「ですが……聖女であるにも関わらず、私は何の役にも立てませんでした」
「もしかして――リシェルが聖女だから、俺が君の傍にいたと思っているのですか?」
「……違うのですか?」
「幼い頃からずっと一緒にいて、いつも楽しかったから俺はリシェルの傍にいたんですよ。だから……そんな寂しいことは言わないでください」
「わかりました……」
そんな風に思っていてくれたなんて知らなかった。
「――ところで、どうして地下神殿に?」
「実は……古文書の神託に矛盾があることに気づいてしまったのです。それで神殿の地下に調べに来たのですが――」
その時だった。
突然、祭壇裏の壁が崩れ落ちた。
「リシェル!!」
エネラルが私を抱き寄せた。
近距離。
目と目が合う。
「ご自身の身体を一番に考えてください……」
「君だけは傷ついてほしくない」
その腕は震えていた。
自分の傷口が開いていることさえ忘れて。
「殿下……」
そんなことを言われたら、また期待してしまうじゃないですか……
崩れた祭壇の壁裏には通路が隠されていて、その先には小さな部屋があった。
そこには古びた机があり、一冊の日記が置いてあった。
『初代聖女の私記』
「これは、初代聖女の日記の写しのようですね――」
日記を開く。
『私は王を愛してしまった』
『だから私は、奇跡を失ったと思っていた』
日記には、初代聖女が王を愛していたことが綴られていた。
しかし、真実が書かれているはずの最後だけが焼かれていた。
「ここでも真実は隠されているのね……」
誰かが意図的に燃やしたのだ。
その時、エネラルの胸の黒紋が日記に呼応して赤黒く光り出した。
「い、いまのは何ですか!?」
「遂に、見られてしまったか……」
エネラルが口を開こうとすると――
「その日記を渡してください」
ダズエルが現れた。
「……ダズエル神官長?」
その後ろには神殿騎士がいる。
「どういう意味ですか?」
「その記録は、多くの人を不幸にします」
神殿騎士と対峙するため、エネラルが私の前に出た。
「彼女には触れさせません」
騎士達が剣を抜く。
緊張が漂う。
ダズエルは少しだけ苦笑いをした。
「殿下まで巻き込むつもりはありません」
そう言って、ダズエルは騎士達に剣を下げさせる。
そして、帰り際、意味深な言葉を残した。
「初代聖女と同じ過ちを犯してはなりませんよ」
本当に悪人なら、あの場で力ずくで奪っていたはず。
私はダズエルが黒幕だと疑っていたが、違うのかもしれないと初めて思った。
「じゃあ……誰が神託に手を加えたの――」
最後のページから、焼け残った一枚が落ちる。
そこには――
『愛したから治せないのではなかった』
と書かれていた。




