26(第二章 完)
26
「りっぞーとたーのしーむへーいわーなくーにも
しーごとーがなくっちゃやってーけない
いつかいつかーとゆーめみーるけーれどー
なーんとっかすーるのーでせーいいっぱーい」
無数の白い柱が、濃い青色をした空にまっすぐと延びている。
なかなか壮観ではあるものの、やっぱりどこか寂れている感は否めない。
その寂れた空間に、陽気な歌が響いている。
リゾート楽しむ平和な国も
仕事がなくっちゃやってけない
いつかいつかと夢見るけれど
何とかするので精一杯
気の抜けるような節を付けて歌われているものの、彼女は本気だ。
本気でこの国の未来を真剣に考えているし、本気でこの国を愛している。
「パーチェ、エイリー、改めて本当にありがとね」
立ち並ぶ白い柱の中央には、大きな池。
そこには無数の蓮が浮いている。
エレナの——こんなに幼い女の子の、唯一の遊び場だ。
その池の前で、エレナは何度目か分からないお礼を言った。
「パーチェとエイリーのおかげで、この国も何とかなりそうだよ」
とても、大ケガを負ったとは思えない笑顔だ。
見てるこっちまで幸せな気分になる。
だからこそ、この笑顔に言わなきゃいけないのは、ごめんじゃなくて、
「ありがとう。こちらこそ」
これだろう。
謝罪の気持ちは、これから行動で返していけばいい。
「セーレットはこれから、どんどんすごい国になっていくからね! ホテルが超満員でも、あたしがお城に泊めてあげるからいつでも遊びにきてね!」
「絶対、またくるよ」
きっと、セーレットは復興していくだろう。
こんな立派な国王がいるんだ。しないわけがない。
「エレナ姫。イザドラさんは今、どちらにおいでですか?」
「あー、イザドラさんねぇ、事件の後処理に追われてばたばたしてるよー。あたしも勉強して、負けないようにしないとね!」
俺も、負けないようにしよう。
もちろんこの旅は、ロリ姫様達にキスをしにいく旅ではあるんだけど、新しい目標ができた。
俺は、一人の少女を笑顔にすることができたのだ。
これは、本当に価値のあることだ。
月並みな言い方をすれば、生きてきた甲斐があった。
俺は、これからも小さな女の子を笑顔にしたい。
そのための旅という口実は、ちょっと綺麗すぎるだろうか。
※
「じゃあ、気を付けてね」
しばらくの雑談の後、エレナは少し寂しそうに言った。
「あたしね、パーチェとエイリーが羨ましいよ。あたしも、世界中旅してみたいもん」
「まぁ、そうだよね……」
俺だって自分がエレナの立場だったら、俺とエイリーを羨んだだろう。
今は俺は、贅沢をさせてもらってるのだ。
なら、存分に甘えよう。
今までの人生、甘えてこれなかったんだ。多少は許されるだろう。
「エレナの分まで、色々見てくるよ」
「約束ね! あ、アスク行くならバザールでランプ買ってよ! あたし、あの綺麗なランプ、すごいほしいの!」
「バザール? ランプ?」
俺が首をかしげると、
「アスクの観光名所にバザールと呼ばれる巨大市があるのですが、そこでは名産品として編物や織物、チャイグラスやランプが売られているんです」
と、エイリーがすらすらと教えてくれた。
「へぇ……」
何か、どれも値が張りそうだな……。
「よかったら……買ってほしいな」
あざとくないギリギリのラインで、小首を傾げて上目遣いでおねだりしてきた。
オッケーオッケー、ランプぐらいいくらでも買ってやるわ。
「分かった。百個ぐらい送るから、部屋中ランプだらけにしてよ」
エレナは笑って、
「そんなにいらないよ」
と俺の肩を叩いた。
「一個でいいの。本当に小さい、安いのでいい。だから、パーチェが一番可愛くて綺麗だと思ったのを買って?」
「分かった。約束するよ」
「本当に?」
「ビーバッグを倒すって約束も、ちゃんと守ったでしょ?」
「あはは、確かに」
※
「では、そろそろ参りましょう、姫」
「うん、分かった」
エイリーの助けを借りて、グルの背中に乗った。
エイリーも軽やかに俺の後ろに飛び乗る。
「エレナ姫。お世話になりました。イザドラさんにもよろしくお伝えください」
「うん。リベロさんが来るって言ったらめちゃくちゃ緊張してたよ」
別にあんなオッサンが来るぐらいで緊張しなくていいのにな……。
いや、でもまぁ、あれでも一応一国の国王だしな……。
「お土産、楽しみにしてるね! あたしの分まで世界を楽しんできて!」
こうして、俺とエイリーはセーレットを後にした。
※
何か、引っかかる気がする。
※
パーチェとエイリーがセーレットの王宮から走り去っていくのを、イザドラは自室から眺めていた。
事件の後処理に追われてじたばた——など、していなかった。
「また、花が咲きましたね」
静かに呟いて、花の浮かんだお茶に口を付ける。
「お祖父様……この世界の意思は、必ずや私が統べてみせます」
静かに、しかし秘めた熱い決意を隠そうともせず、イザドラは部屋に飾られた写真に目を向けた。
写真の中で、コルトゥーラの初代国王、アルジェント・ヴィルフレドが静かに座っていた。
浮かべられた花が、怪しく光る。
第二章 完




