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「も、もしもし」
『おー、パーチェか。俺だ』
どいつもこいつも『俺』としか言えないのか、と思ったけど、これはもう名前を聞くまでもない。
アルジェント・リベロからの着信だ。
「お忙しいところ、すみません。今日はお話ししたいことがありまして——」
『そうかそうか。ニュース観たぞ』
——ビキッ、と。
表情が固まる。
最悪の、事態だ。
間に合わなかった。
俺が言うより先に、バレてしまっていた。
「あの、それは、遅れた理由は、その、」
エイリーに助けを求めるように視線を送ると、
『間に合わなかった? 間に合わなかった? 間に合わなかったんですか?』
と激しく口パクしてくるだけだった。
俺はいよいよ、沈みこむような絶望の中で、完全に観念した。
「すみません、私の勝手な判断で、一国の国王に取り返しのつかないケガを負わせました」
横で、エイリーが息を殺している。
次の国王の言葉を待っている——
『——よくやったよ』
「……へ?」
『事情はニュース観てだいたい分かった。どうせこんな感じだろ?』
リベロ王は、まるで俺達の行動をずっと横で見ていたかのように、行動だけじゃなくて心の動きまでも完全に言い当てた。
俺達がセーレットに着いてからエレナの片腕がなくなるまでの流れは、ほぼ完璧に合っていた。
前のように肺活量の暴力で話していないから、エイリーには話が伝わっていない。
だから俺の驚く顔を見て、ただ不思議そうな顔をしている。
『まぁ、俺の子どもなんだから、マスターのいない霊獣くらいぱぱっとノーダメージで倒せや……っていうのが本音だが、』
少し間が空いて、
『俺の子ども達として、恥ずかしくない一件だった』
リベロ王は、静かに言った。
認められた安心感か、許された安堵からか、涙が溢れてくる。
『今、横にエイリーもいるんだろ? 代わってくれ』
いきなり泣き出した俺に怯えつつ、エイリーは電信を受け取る。
その時、何か設定を触って、俺にも会話が聞こえるようにしてくれた。
『おー、エイ——』
「——申し訳ありませんでした!」
エイリーは電信を両手に持って大きく頭を下げる。
「私が付いていながら、パーチェ様を危険な目に遭わせてしまったばかりではなく、エレナ王に大ケガを——」
『あー、いい、いい。エイリーの知らないところで、パーチェが独断で助けるって言っちまったんだろ? ならしゃあないし、そのパーチェの独断も、俺は間違ってると思わねぇしな』
「そ、それでも、エレナ王が、ケガを、腕が、私は、どうすれば——」
だんだんと声が潤んでくるエイリーを、リベロ王は笑う。
『はっはっは、これぐらいで泣いてるようじゃあ、お前も修行が必要だな。そのまましばらくパーチェと旅してこいよ』
「も、もちろんそのつもりですが——」
『ならいい。あ、でもさすがに事が事だし俺が挨拶に行かねぇとまずいだろうから、エレナ王と……えっと、従者の何さんだっけ?』
「イザドラ・オーティス氏です」
『そうそう! その人! いつでもお伺いするんで日程決めてくれって伝えといてくれ』
「は、はい、かしこまりました」
『じゃあ、パーチェに代わってくれ』
鼻をぐすぐすしながら電信を渡してくるエイリーから受け取って、再び出る。
「代わりました」
『とりあえず、エレナ王の腕のことは気にすんな。エレナ王一人だったら間違いなく腕どころじゃ済まなかっただろうし、お前らが助けたことで、セーレットはどこの属国になることもなく、これから復興してくだろう』
そうだ、属国——
イザドラが言っていた、その最悪の手段を取ることなく、事態は終息したのだ。
『エレナ王が人として負った代償はあまりにでかいが、国王が国を救うために負った代償だと考えりゃあ、安いもんだ』
だから気にせず旅を続けろ、と国王は言った。
『で? 次はどこ行くんだ?』
あれ、何て言ってたっけ?
えっと……あ、そうだ。
「アスクワーディです」
『おぉ、アスクか。もうそろそろ藍風祭の時期だな。結構でかい祭だからついでに見てこいよ』
やっぱり、結構有名な祭らしい。
ちょっと楽しみになってきた。
『それと、あそこの国王のイゼル王は、ウィンドのパワーで精霊級だからな。お前もパワーの能力者として色々勉強してこい』
精霊級——
ついに、ビーバッグを除くと初めて精霊級の能力者と会うことになるのか……。
妖精、霊獣、精霊、精霊王、属性神王と続く、三番目のランクなわけだ。
いったいどんな人なんだろうか。
『じゃあ、引き続き色々と世界を見てこい。今度はヤバいことになる前に一声かけろよ。じゃあな』
それだけ言うと、電信は切れてしまった。
「はー……」
何だか、ようやく肩の荷が降りた。
よし。
何か、色々吹っ切れた。
反省も懺悔も、始めたらキリがない。
どれだけ謝っても、許されるものじゃない。
でも、エレナ自身が許すと言ってくれて、リベロ王も許してくれているのであれば——
このもやもやを抱えながら旅をするのが、俺達にとっての罰であり、償いなのかもしれない。
「エイリー。エレナのことは本当に申し訳ないと思うけど、私達は先に進もう」
エイリーは不思議そうな顔をしている。
「これから私達が強くなってエレナを、それとこの世界も守れるぐらい強くなればいいと思うんだ」
都合のいいことを言ってると自分でも思う。
でも、俺は今、自分のこの考えに納得している。
「だから、アスクに行こう」
俺がそう言うと、エイリーは少し驚いた顔をしてから、
「えぇ、どこまでもお供致します」
と微笑んだ。
その笑顔を見て、どこまでも一緒にいたいと思った。
※
「はぁー……もう、何かさぁ……」
パオロの家から少し離れたところで、リベロはうなだれるようにしゃがみこんだ。
「ああいう時ってちゃんと叱った方がよかったんかな……でもなぁ……それで恐縮して無難な旅もしてほしくねぇしなぁ……」
そして、電信端末で頭をこんこんと叩きながら、珍しく悩んでいる。
「正直なぁ……一国の王宮の人間が、国王に許可取らずに勝手に他国の国王に約束するなんつーのは言語道断だし、エイリーがいながら何やってんだって話だし、でも俺も事前にパーチェやエイリーに教えといてやるべきだったし、それでも一国の国王に大ケガ負わせちまったわけだし……」
かといって、無難な旅だけは絶対にしてほしくない。
それだけは間違いない。
「……そうだな」
リベロは頷いて、立ち上がった。
自分だって、あの”忌まわしい故郷”を出てから世界中で好き放題暴れまわったんだ。
確かにあの時の自分には『王族の人間』というステータスはなかったけど、王族だからといって自分の子どもにだけ『大人しく旅をしろ』とは言えない。
というより、パーチェも、言ってしまえばエイリーだって自分が育てた子どもなのだ。
俺の育てたあいつらが、大人しく無難な旅なんてするはずがない。
これからも、絶対に何かやらかすだろう。
「……まぁ、子どもの失敗の尻拭いをするのも大人の仕事か」
帰ったら、セーレットに出かける準備をしないとなぁ、と城に向けて歩き始めたリベロは、
「げっ、お前、いたのかよ……」
近くの木陰にプリートを見付けた。
木の根を這わせて、ずっと前からそこにいたかのように座っている。
「あらあら。自分の妻に『げっ』だなんて、酷いですねリベロさん」
いつも通りにこにことしながらプリートは立ち上がる。
それと同時に、木の根はきらきらと輝いて消えた。
「何か、お考えですか?」
「いや……国王の仕事も何となく分かってるつもりだし、能力者としての知識もあるつもりなんだが、親っつーのはいつまで経っても分からんもんだなぁと思ってな」
「大丈夫ですよ、」
珍しく難しい顔をしている夫の手を取り、プリートは微笑む。
「私達の子どもだもの。きっと大丈夫」
その笑顔を見て、リベロはプリートと出会った時のことを思い出した。
そうだ。あの時も、この笑顔に俺は救われたのだ——
「……まぁ、そうだな」
それだけ言って、リベロはその手を握り返した。
あとは、あいつらがうまくやるだろう。
たまには、人を信じてみようじゃないか。
そして二人は、城に向けてどちらともなくゆっくりと歩き出した。
続く




