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挿絵(By みてみん)


      22


「あ! パーチェいらっしゃい! ……ってそんな暗い顔しないでよ」


 あれから三日後。

 面会の許可が降りて、俺とエイリーとイザドラさんの三人で見舞いにいった。


 エレナはあの時大量出血をしていた上に魔力を使い果たしていたから、命がかなり危ない状態だったらしい。

 だけど、近くにいた人達からすぐに魔力を補填してもらえたことで、何とか命をつなげたようだ。


「ねぇ、パーチェもエイリーもさぁ、そんな顔しないでってばぁ!」


 少し怒ったように、残った腕でベッドをぱんぱんと叩く。


「これは、あたしがセーレットのために恩返しができた証なの!」


 これ、と言いながら、半袖の病院服から出ていない腕を指差す。


「だから……まぁ正直不便だけど、全然辛くないよ!」

「ごめん……なさい……」


 エレナの笑顔を見て、エイリーはその場にしゃがみこんだ。

 両手で顔を覆って、静かに泣き始める。


「もー! それをやめてって言ってるの! そこは『ごめんなさい』じゃなくて『すごいですね!』って誉めてくれなきゃさぁー!」


 ぱしぱしと軽くエイリーの頭を叩きながら、


「でも、あたしのせいで、パーチェにもエイリーにも、イザドラさんにも、辛い思いさせちゃったね。ごめんね」


 と、少し静かに言った。


「私があの時エレナに無茶なことを言わなければ……こんな……」


 俺のせいだ。


 俺は女の子が大好きで、可愛い笑顔が見たくて、幸せになってほしい。

 なのに、何でこんなことになってしまったんだろう。


「ごめん……ごめんね……」

「あーもーパーチェまで! あはは、仕方がないなぁ、よしよし」


 エレナは一つの手で、泣き付く俺とエイリーを交互に撫でながら笑う。


「辛い思いさせてごめんね。でも今あたし、本当に幸せなんだよ」


 それだけは本当。

 本当にありがとう。

 そう言ってから、エレナも少しだけ、泣いた。


      ※


「エレナ様。今回の件は、本当にご立派でした」


 例の花を浮かべたお茶を人数分淹れながら、イザドラは静かに微笑む。


「でしょでしょ! すごいでしょ! あたし、役立ったんだよ!」

「えぇ、本当に素晴らしいご活躍でした。この目で直接見ることができなかったのが残念です」


 ちなみにビーバッグが町で暴れていた頃、その連絡を受けたイザドラは大忙しだったらしい。

 各地に避難の指示を出したり、病院の受け入れ状況を調べたり、観光客の出身国へ安否の連絡をしたり……いくらエレナが国王とはいえ、実際に手を動かしているのは大人なんだなと改めて実感させられる。


「本当は、姫がケガをされたと聞いてすぐに病院に来たかったのですが、事件の対応に追われていまして……申し訳ありませんでした」

「許さないよ!」


 ぷい、とエレナは分かりやすくそっぽを向く。


「え?」

「リンゴ!」

「……はい?」

「リンゴ剥いてくれないと許さない!」


 エレナはちらっとイザドラの顔を見て、すぐにまたぷいと視線を反らした。

 イザドラは面を食らった顔をしてから、


「……ふふふ。あらあら、急に甘えん坊さんですね。国王様」


 くすくすと笑いながらリンゴを手に取る。


「いいでしょ! リンゴちょうだい!」

「はいはい、ただいま」


 笑いながらそう答えて、イザドラは楽しそうにリンゴを剥き始めた。


「ウサギさんカットだからね! それで、ちゃんと食べさせてくれないとダメだよ!」

「えぇ、えぇ。ウサギさんですね。かしこまりました国王様。仰せのままに」


 何だか心なしか、エレナとイザドラの距離も近付いた感じがする。


      ※


 イザドラの淹れてくれたお茶を飲む。

 この国にきた時も飲ませてもらったけど、やっぱり頭がスッキリするし、ほっとする味がした。

 それを飲みながら、改めてイザドラが今のセーレットの状況を話してくれた。


「今回の件で、セーレットは再び世界中から注目されることになりました」


 俺のカップにおかわりを注ぎながら、イザドラは言う。


「八皇機関が世界各国に呼びかけて、セーレットへの旅行を斡旋してくれるそうです」

「それはすごい……」


 エイリーが息を飲む。

 八皇機関って『八皇一鬼』の人達の集まりってことだよな……。

 そんなすごい人達がもう動いてるのか?

 そんなうまくいくものなのか?

 何かやたらととんとん拍子な気がするけど……。

 俺がそう思っていると、


「パーチェ様が不思議に思われるのも無理はないのですが……」


 イザドラが、何だか微妙な表情で雑誌を手渡してきた。

 というかこの世界、雑誌とかあるんだな……。


 表紙を見ると、大人向けのゴシップ誌のようだった。


「これは?」


 俺が訊ねると、


「読んでみてください」


 と、やはり微妙な表情で促してきた。

 言われた通り、しおりの挟んであるページを見ると、


「あぁー、なるほど……」


 納得した。

 やっぱり、どこの世界も美少女は絶対正義なんだな……。


 ページ一面にエレナの笑顔と『国のために隻腕になった国王! あどけない美少女スマイルで世界を虜に!』という見出しがでかでかと踊っている。

 何か、俺の元いた世界に似てるな… …。


 ニュースでちょっと有名になった女の子が可愛かったりすると、ネットとかで話題になる感覚に近い。


「何か照れるよねぇ……美少女だなんて、とーちゃんにもかーちゃんにも言われたことないや」


 と言いながらも、えへへぇ、とあながちまんざらでもない感じで笑うエレナは間違いなく可愛い。


「この国は、ビーバッグのせいで失ったものが多々ありました」


 イザドラはお茶を一口飲んでから、ですが、と続ける。


「ですが、それはこれからすぐに取り戻せるものですし、今回の件でエレナ様が成長できたことは、国にとっても、そしてエレナ様ご自身にとっても、大きな収穫でした」


 これから忙しくなりますよ、と言うイザドラに、


「うん!」


 エレナは満面の笑顔で返事をした。

 俺とエイリーは、明日、この国を出発する。


      ※


 エレナはもう、大丈夫だろう。

 正直、俺もエイリーも、エレナのことを思うと胸が痛む。

 取り返しのつかないことをしてしまったと思う。


 でも、エレナがそれでよしとしていて、彼女なりに先に進もうとしているのだ。

 なら、これ以上『可哀想だ』と気を遣うのも、何だか間違ってる気がする。


「そうですか……お二人にはもう少し、お礼も兼ねてゆっくりとお過ごしいただきたかったのですが……」


 イザドラはそうは言うものの、それ以上引き止めなかった。

 きっと、俺とエイリーの考えていることが伝わったのだろう。


「また、セーレットがものすごく賑やかになった頃に、こさせてもらいます」

「ふふ、そうですわね。パーチェ様」


 イザドラはおかしそうにくすくすと笑う。

 何かこの人、よく笑うようになったなぁ。最初見た時すごい怖そうなイメージあったけど……。


 もしかすると、あの時イザドラも結構緊張していて、今の姿が自然体なのかもしれない。


「セーレットを出て、次はどこへ行かれるのですか?」

「それが、まだ決まっていないのです」


 にこやかなイザドラに対して、エイリーは少し困ったように、難しい顔で答えた。


「近隣の国にいくつか候補はあるのですが、決めかねているといいますか……」


 この話は、昨日の夜にエイリーと話し合った時、少しだけ聞いた。

 近隣にはいくつか候補としてめぼしい国があるものの、コルトゥーラのような小さな国が相手をしてもらえるかどうかが分からない、ということだった。


 まぁ、確かに国王が霊獣級だと、世界的に見れば弱小国家と思われても仕方がないもんなぁ……。


「あら、そうなんですね。それでしたら、アスクはいかがでしょう?」

「アスクワーディですか? 候補の一つです」


 何だ、これ国の名前か?


「あら、そうなんですね。ならちょうどよかった。もうすぐアスクでは、藍風祭の時期ですからね。せっかくなら大きな行事に参加をして、色々と経験されてみてはいかがでしょう?」

「あぁ……そういえばもうその季節ですね」


 エイリーは何度か頷いたあと、


「姫と相談した上で、考えさせていただきます」


 と頭を下げた。


      ※


「さて、姫。次の行き先はアスクでいいかと思うのですが、その前に私達にはやらねばならないことがあります」


 部屋に戻って旅の支度をしていると、エイリーが渋い顔をしていた。


「え? 何?」

「リベロ様に、今回のことを報告しなくてはなりません」

「あー……」


 当初の予定では、ビーバッグをこっそり倒しておしまい、とする予定だったんだけど、今回はさすがに事態が大きくなりすぎた。

 国王であるエレナが腕をなくすという大ケガを負ってしまったのだ。


 確かに、俺とエイリーがビーバッグを倒そうと提案して倒したからこそ、セーレットは復興していくだろう。

 でも、俺が無茶なことを言わなければ、エレナが腕を失うことはなかった。

 これはさすがに、報告の義務がある。


 しかも取材陣が駆け付けていたということは、今回の件が国王の耳に入るのも時間の問題だ。

 ニュースで初めて知ったとなれば、心証はすこぶる悪い。

 これはもう、諦めて電話するしかない。


「分かった。私が連絡する。ちゃんと謝る」


 もしこれで、旅が中止になってしまったらどうしよう。

 俺は、本当にとんでもないことをしてしまった。


 でも、仕方がない。

 覚悟を決めて、電話をかけることにした。


続く

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