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ビーバッグの悲鳴はすぐにしなくなった。
それでも、攻撃を続けた。
動かなくなったヘドロの塊を睨み付けながら、二人でいつまでも歯車を回し続けた。
そして、今度こそ完全に魔力を失って、エイリーと二人してヘドロの海に倒れこむ。
「私のせいだ……」
大変なことをしてしまった。
俺がエレナを無理矢理戦わせてしまったから、こんなことになってしまったんだ。
そもそも俺が安請け合いで『助ける』と言ったから、こんなことになってしまったんだ。
もう、取り返しが付かない。
どうやったって償えない。
震えが止まらない。
視界が白くなっていく——
「こくおうのおねーちゃん、しんじゃいや!」
いきなり聞こえた声に目を向けると、一人の女の子がエレナに駆け寄っていた。
「あれ、あの子って——」
大男に蹴られて、顔をケガした女の子か……?
何でここに——
「しっかりして! しんじゃだめ!」
バリバリ、バリバリ、と数回、青白い電撃が飛ぶ。
「おねがい! しんじゃだめ! しんじゃだめ! しんじゃだめぇ!」
どれだけ電気を与えても、エレナは動かない。
ぴくりとも、動かない。
「おい、あんな小さな子一人にやらせてていいのかよ!」
遠くから、一人の観光客が駆け寄ってきた。
「俺はアクアだから、ケガとかは治してやれなくて申し訳ないが……」
彼はそう言いながらエレナの手を取って、そしてその場に倒れこんだ。
魔力を分け与えたらしい。
「私達も分けましょ!」
「そうだ、魔力さえ無理矢理入れちまえば、生存確率は上がる!」
「行こう! 行こう!」
「ホーリー魔法の出番だな!」
「行くぞ!」
周囲にいた国民や観光客が、ヘドロを踏みながらぞろぞろとエレナに駆け寄っていく。
その中で、
「あの子がああなったのは、君達のせいじゃないぞ。君達もよく頑張ったな!」
と俺達に声をかけてくれる人もいた。
「ほら、アンタ達も立てる? 行きましょ!」
高そうな服に身を包んだおばちゃんが、俺達に少し魔力を分け与えてくれた。
彼女は自分の服が汚れることなんて気にせずに、ざぶざぶとヘドロの中を進んでいく。
「おねーちゃん、ほら、こくおうのおねーちゃん!」
ばり、ばり、と威力が弱まったものの、女の子は必死にエレナに放電を繰り返している。
ホーリーの人達のおかげで、エレナの血は完全に止まっていた。
そしてエレナの回りには、自分の魔力を分け与え尽くしてへとへとになった人達が、ヘドロまみれになってたくさん倒れこんでいた。
「ほら、国王頑張りな!」
「起きろ、目ぇ覚ませ!」
「こんな若いんだから死んだらもったいないぞ!」
「うちの国のやる気ない国王よりも、あんたの方がよっぽど頑張ってるわ!」
「あんた確かに弱いけど、この国のために体張って頑張ってくれてんだろ!」
「エレナ姫!」
周囲の人達が、口々にエレナに声をかける。
中には、泣いてる人もいて、俺とエイリーも泣いていた。
「——ん、」
エレナの眉が、少し動いた。
周囲の人達が、いっせいに静かになる。
エレナは周囲の人を見て、自分のなくなった腕を見て、
「……えへへ」
照れ臭そうに笑った。
「国王……生還しちゃいました」
そしてエレナは、残っている手を、いつの間にか晴れ渡った青い空に向けて伸ばし、言った。
「やっぱり、セーレットの空はきれいだなぁ」
観衆が、大歓声をあげた。
いつまでも、エレナコールが鳴りやむことはなかった。
続く




