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挿絵(By みてみん)


      4


「姫」

「はい」

「なぜ、我々が霊獣を倒すことになったのか、事の経緯を説明してください」

「はい……」

「私が理解できるよう、分かりやすく」

「エレナが泣いてたから、何とかしなきゃと思って……」


 だって俺ロリコンだし、エレナ可愛いし……。


 セーレットの王宮の一室。

 急遽借りたお城の一室で、俺は説教されていた。

 正座である。


 エイリーは口調こそ静かだけど、言いようのない迫力を持って淡々と問いかけてくる。

 これは子どもが出していいオーラじゃない。


「姫、以前お話したことを覚えていらっしゃいますか? 私達霊獣級の力が十なら、精霊級は百の力を持っているのですよ? 私達が力を合わせて仮に二十になったとしましょう。それでもビーバッグは少なくともその五倍の力を持っています」

「はい……」

「それに『ビーバッグ種』は今回のケースにおいて、最悪と言える種族なのに、なぜ——」

「あの……」


 俺は、そろり、と手を挙げる。


「その『ビーバッグ』というのはいったい何なんでしょう……?」


 エイリーは、くわっと目を見開いた。


「知らないで引き受けたのですか……? 勝算があったわけではなく?」

「すみません……何も……」

「あぁ……何てことでしょう……」


 可愛い顔の眉間にシワを寄せて難しい顔をしている。

 いまだにイマイチ話が読み込めてないけど、こんな顔をさせてしまって申し訳ない。


「よろしいですか、姫。姫はまず、ご自身が一国の姫であることを充分にご自覚なさってください。あなたの一言は、国の総意です。あなたが『セーレットを助ける』と仰れば、『コルトゥーラ全国民が国をあげてセーレットを助ける』ということになるのです」


 俺の一言は、国の総意——

 俺の言葉に、そんな責任が——


「もう、コルトゥーラは… …いえ、『私達は』、何が何でもビーバッグを討ち倒さなければなりません。姫が一国の王に対して『助ける』と仰ってしまった以上、『やっぱり無理でした』はもう通用しません」

「ごめんなさい……」


 情けなくなって、うなだれてるのか頭を下げているのか分からない状態になる。

 確かに俺は、一国の王族なのだ。

 その人間が、一国の国王相手に勝手な約束をしたのはまずかったのだろう。


「お顔を上げてください、姫」


 言われた通りに顔を上げると、エイリーから厳しい雰囲気がなくなっていた。

 いつも通りの無表情な顔つきに戻っている。


「姫はエレナ姫が可哀想になって、衝動的に『助ける』と仰ったのでしょう?」

「うん、そうだよ」


 まぁ、可哀想というか可愛いというか……。


「そういった、誰かのことを心から想い、助けになろうとする姿勢、私は心からお慕い申しあげております」


 エイリーは滅多に見せない柔らかい笑顔で、そう言った。


「……えへへぇありがとう」


 思わぬタイミングでのラブコールに、思わず頬がにやける。


「姫のその優しさは、必ずやコルトゥーラに富を、そして世界に平和をもたらすでしょう」


 まぁ何だか大袈裟な話になってきたけど、優しさというか、やらしさなんだけどね?

 俺は世界中の少女達にキスしに行く。

 キスは地球を救う。

 ノー少女ノーライフ。


「ですが姫、今後、大事なことを決める際は、一度私にご相談ください。そのための私ですし、何より……」

「何より?」


「信頼されていないようで、その、少し……さみしいです」


 つん、と、子どものように拗ねている。


 おい、どうした!

 何で今日はそんなデレてくるんだ!


 おいおいおい!

 可愛いがすぎるだろ!


 その圧倒的可愛さは巨大なハート付きの矢となって、俺のハートをブチ抜いていった。


「ご、ごめんね! エイリーのこと私、信頼してる! すっごい信頼してる!」


 思わず立ち上がってあたふたする。

 一国の約束だの威信だのよりも、俺はとにかくこの子に嫌われたくない。


「本当だよ! 相談しないで先走ってごめんね! ちゃんと信頼してるから! 本当に!」


 あたふたする俺を見て、エイリーはおかしそうにくすくすと笑った。


「えぇ、えぇ。分かりました。ちゃんと、信頼してくださっているのですね。ありがとうございます……ふふふ」


 俺の何かがツボにはまったようで、エイリーはしばらく笑っていた。


 めっちゃくちゃ可愛いな、何だこれ。

 生きててよかった。


      ※


 ひとしきり笑ってからエイリーは続ける。


「それでは、ビーバッグ種について説明します」


 そう、エレナも言っていた『ビーバッグ』というのはいったい何者なのだろう。


「ビーバッグ種というのは、『自立栄養捕食型』の霊獣です」

「その、『自立栄養捕食型』っていうのは?」

「簡単に言えば、自ら意思を持って動き、他者を捕食することで栄養……つまりは魔力を補っている種族のことを指します」

「要はこっちのことを食べようとしてくるわけね」

「そういうことです」


 エイリーは頷いて続ける。


「ビーバッグ種は、元はこの世界のどこかにいる『グラン・ビーバッグ』という、強力なマザーから分裂した個体だと考えられています」


 何かふわっとした言い方だな。


「そこは不確かなの?」

「えぇ、この世界にはもう『グラン・ビーバッグ』を見た人間が、その使い手のサモン以外いないと言われています」

「へぇ、そんな昔に生まれた個体が、今も子どもを産み出し続けてるの?」


 んー……とエイリーは眉間にしわを寄せて考え、


「二つ、間違いがあります」


 と指を立てる。


「まず一つ、『グラン・ビーバッグ』は、今もなお、この世界のどこかに存在しています」

「でも誰も見たことないんでしょ?」

「えぇ、見た者は全員捕食されているのでしょう」

「おおう……」


 全員。

 それは、出会ったら生きて帰れないことを意味する——

 思わずゾクッとする。


「そして二つ、ビーバッグは子どもを産みません」

「どういうこと?」

「子どもを産むわけではなく、分裂して個体数を増やすのです」


 分裂ってことは、アメーバとかスライムみたいなヤツなのか……?

 ということは、セーレットにいる個体も分裂して増えている可能性がある……?


 一匹でさえ、俺達より圧倒的に強いのに?

 そうなったら、もういよいよ終わりなのでは?


 だけど、幸いにもそういうことではないらしい。


「分裂できるのは『グラン・ビーバッグ』のみです。なので、セーレットにいるのは分裂で生まれたビーバッグ一体のみだと思われます」


 ということは——


「つまり今回のビーバッグも、セーレットのどこかで魔力を吸収しながらこの世界に居続けてるわけね」

「そうですね。イザドラさんが仰るには、ビーバッグの周辺に大量の魔法トラップを仕掛けたそうですから、移動速度から考えれば、百年はそのエリアから出てこれないそうです」


 ふうん……あれ?


「それさ……別に今、安全じゃない?」

「はい?」


 怪訝な顔をするエイリーに俺は答える。


「だってさ、それ、誰かが交代でトラップを仕掛け続ければ、一生そこから出てこれないってことなんでしょう?」


 猛獣を一生檻に閉じ込めておくようなものだ。

 トラップとやらが簡単に設置できるのであれば、できない話じゃないはずだ。


「いえ、そうはいきません」

「え?」


 ところがそんな簡単な話ではないらしい。

 エイリーは続ける。


「『一生出てこない』という点ではその通りなのですが、それは、その代わりに『一生セーレットに棲みついて出ていってくれない』ということに他なりません。ビーバッグは魔法トラップでダメージを負うのと共に、その際に散らばった魔力の残滓を食べて生きているんです」

「……」


 なるほど、だんだん分かってきた。

 ビーバッグを足止めするためのトラップが、無数に仕掛けられている。


 そのトラップのおかげで、何もしなくても百年は無事に過ごせる。

 しかし、ビーバッグはトラップ発動後に出た魔力の残りカスを食べて生きている。

 だから、一生そこに居続けることになる。


 トラップを仕掛ければ、一生セーレットに棲み付いてしまうことになる。

 トラップを仕掛けなければ、国が襲われる。


 精霊級の霊獣に。

 霊獣級以下の能力者しかいない国が……。


 とはいえ、閉じ込め続ければいいのでは?

 臭いものには蓋の精神だ。


 ……いや。


 でもセーレットは観光国家だ。

 観光で行った国に、そんな理由で立ち入り禁止になってるエリアがあるなんて怖すぎる。

 それだけでも評判はガタ落ちだ。


『あなたが泊まるホテルの部屋のベランダに、殺人鬼が立っています。でも、ベランダに出なければ襲ってきませんのでご安心くださいね』とか言われても、そんな部屋、絶対に泊まりたくない。


 やっぱりそんなものが『いるだけ』で観光国家からしてみれば致命傷なのだ。

 そうなると、倒すっていう選択肢しか残ってないわけだけど……。

 ううむ……。


「姫……?」


 考え始めた俺に、エイリーが声をかける。

 しばらく無言で目を合わせていたけど、


「エイリー、そのビーバッグとやら、とりあえず見に行かない?」


 倒すにしても、まずは情報を仕入れないことにはどうしようもない。

 腹をくくって、そう提案した。


続く

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