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リベロが手を振りかざす。
その手には何も握られていない。
しかし風は確かに剣の形になって、リベロの手に収まっている。
「さぁ、まずは小手調べと——いこうか!」
大量の砂を巻き上げて、リベロは爆発的な勢いで急加速する。
一瞬でリーダーと間合いを詰めて斬りかかり——
「——『大地からの暴君』!」
風の剣がリーダーの肩を捉える直前、土の中から巨大なシャチが現れた。
リーダーを飲み込むと、土中に潜っていく。
静寂——
ごくり、とカリーノが喉を鳴らす。
その瞬間、リベロの足元の土が隆起して——
「おっ、」
土を撒き散らしながら、シャチが大きく口を開けて突進する。
風圧でリベロの髪がなびく。
巨大な歯が顔面を噛み砕く瞬間——
「——よっと」
リベロは限界まで体を反らして突進を避けた。
シャチは逸らした腹の上ギリギリ沿うように飛び、再び土の中に沈んでいく。
体を反らした反動を使ってリベロはそのままバク転し、
「——バレバレだぞ?」
着地する勢いを殺さずに、土目がけて勢いよく剣を振りかざす。
剣が土に突き刺さる瞬間、土の塊が飛び出した。
それは、能力で武装したリーダーの腕——
「おい、今日はいい天気だぜ。出てこいよモグラ!」
風の剣を地面に叩き付けるように振るうと、突風が巻き起こった。
「うわっ!」
大量の砂や小石が飛び散る。
カリーノは思わず目を閉じて、メイド服のスカートを必死に押さえつけた。
「あらあら」
一方プリートは、日傘と帽子が飛ばないように身を屈めながら、自分とカリーノ、そして十一人の男達の頭上に、巨大な葉っぱの傘を作り上げた。
葉っぱの傘からぼたぼたと落ちてくる土を眺めながら、
「リベロさん、楽しそう」
と自分も楽しそうに呟く。
土が降りやむと、腕から血を流したリーダーが姿を現した。
早くも肩で息をしている。
「そういえば、うちの子どもが……誰だっけ? 誰かの腕、やっちまったよなぁ」
そう言いながら、リベロは十一人の男達に視線を向けた。
「あっ、それ僕です……」
一人の男が片腕を上げる。
もう片方の腕はない。
「あの時はあいつも必死だったとはいえ、申し訳ないことをした。親として謝る。本当に申し訳ない」
男に向き直って、リベロは深く頭を下げた。
「え⁉︎ あっ、いや、そんな、悪いの僕達ですし……」
一国の王に頭を下げられて、男は動転する。
「腕はまだ痛むか?」
「いえ、痛みはだいぶ治まりました。ホーリーの子達のおかげで……」
「そうか、ならよかった。まぁ、この城には腕がなかろうが足がなかろうが頭がなかろうが、仕事なんていくらでもあるから覚悟しとけよ!」
そう言うと、リベロは再びリーダーに向かって走り出す。
「今度は接近戦か?」
向かってくるリベロを見ながら、リーダーは両腕に土のアームを装着した。
「上等だオラ!」
リベロの剣が、リーダーの土のアームに弾かれる。
跳ねあげられた反動を使ってリベロはそのまま後ろに倒れこみ、逆立ち状態になり、自分の顔面を目がけてきていた土のアームを——両足で挟んだ。
「なっ——」
そのままの体勢でリーダーの体を持ち上げ、
「——はぁっ!」
思いっきり投げ飛ばした。
「ぐはっ……!」
投げ飛ばされたリーダーは、背中から地面に叩き付けられる。
「……え? 今の能力?」
男達の一人が口を開く。
「いや、今のは風とか関係ないだろ」
「じゃあ逆立ちした状態で、足の力だけでリーダー持ち上げたのかよ」
「背筋力ヤバ過ぎだろ……」
「いや、脚の力がヤバい」
「腕もヤバいだろ」
目の前で起きた荒業に、男達はざわついた。
「めちゃくちゃな戦い方、しやがって……」
地面に大の字で寝たまま、リーダーは肩で荒い呼吸をする。
「だろ? だてにめちゃくちゃな人生歩んでねぇからな」
リベロが風の剣を軽く振るうと、再び土が飛び散った。
「おら、立てよ。まだ全然足りないだろ?」
あれだけ動き回ったにもかかわらず、リベロは呼吸の一つも乱していない。
「そうだな……フルコースで言えば、まだ前菜のスープも飲んでねぇや」
軽口を叩きながら、ゆっくりと立ち上がる。
口に入った砂をぺっと吐き出すその顔は苦々しい。
「そうなのか? そのわりには『もうデザートも食えません』って顔してるぞ?」
「わりぃな。あいにく昔っから甘いもんが苦手でよ」
でも嬢ちゃんのスコーンは好きだぜ? と、ぐっと親指を立てるリーダーに、カリーノは『ありがとぉ』と手を振った。
「それと、わりぃが俺はせっかちでな。とっととメインディッシュを食わねぇと気が済まねぇんだよ。リベロ王、お前もそうだろ?」
リベロが頷くと、再び土の中からシャチが飛び出した。
「だから——とっとと決着付けようや!」
空高く飛び上がったシャチは、自由落下に従って真っ直ぐ落ちてくる。
獰猛な咆哮をあげながら、リベロを食い破ろうとして口を大きく開ける。
「——はぁっ!」
そのシャチと目を合わせることもなく、リベロは冷静に袈裟斬りを食らわせた。
左下から右上に向けてすぱっと決まったその一撃は、シャチに悲鳴のような咆哮をあげさせた。
ぱらぱら降ってくる土から目をかばいつつ、
「おいおい、いくらなんでも攻撃パターンが同じ過ぎ——」
と話していたリベロの呼吸が止まる。
真っ二つになったシャチの頭としっぽが落ちていく、その間を——
「いっけぇおらァ!」
——山のような、巨大なイノシシが。
「うおっ——」
完全な不意討ちに対処ができず、リベロはそのまま撥ね飛ばされた。
全身の骨がめきめきめきと嫌な音をたてて軋む。
脳みそが頭蓋骨の中でたぷたぷと揺れる。
そしてそのまま、まるでただの物体のように吹っ飛ばされて地面に叩き付けられる。
ごろごろと四回転した後にようやく止まった。
「……お前、本当にありえねぇな」
倒れたままのリベロを見ながら、リーダーは呟く。
「何で今の一瞬で、全身ガードができるんだよ」
会心の一撃を入れられたと言っても過言ではないのだが、リーダーはうんざりした様子で吐き捨てた。
カリーノからは、リベロがただ跳ね飛ばされたようにしか見えなかった。
しかし実際、リベロは自分の身を守っていたのである。
シャチを切り裂いてからイノシシに跳ねられるまでのわずか数秒で、リベロは体の周囲に風を展開させた。
自分の体全体から外向きに暴風を吹かせるような、細かいコントロールが必要な芸当だ。
ウィザードはこういった戦い方を得意としているが、リベロのようなソルジャーは本来、こんな戦い方をしない。
だからこれは、純粋な修行の成果なのだ。
「いつつつつ……」
今の一瞬にリベロが『バトルセンスの塊』だと評されるポイントがたくさん含まれていた。
しかし、リベロ本人は納得いっていないらしい。
脇腹をさすりながら立ち上がった。
「……いや、本当はもうちょっとしっかりガードするか、ガードを完全に捨ててカウンターを入れるかするべきだったんだが……はは、完全にやられたな。俺も鈍ったもんだ。師匠に怒られちまう」
今日から腹筋を五百回増やそう、ととんでもないことを呟いてから、
「じゃあ次は、俺のターンだな!」
再び剣を振り上げながら、負ったダメージのことをまるで感じさせない軽い足取りで走り出す。
「お前こそ、攻撃パターンが同じ過ぎやしねぇか? ははは!」
そしてリーダーは、再びシャチに飲まれて土の中に消えた。
「いいんだよ、同じで! 俺は俺を信じてるからな!」
リベロは立ち止まり、土に剣を刺して続ける。
「ちなみに、俺のターンって言ったが、これが最終ターンだぜ!」
リベロの周りに、静かに風が集まってくる。
まるで、巨大な扇風機が静かに回りだしたかのような——
「じゃあ、フルコースのフィナーレ、デザートといこうか!」
魔力で空間が軋む。
地響きが鳴り響く。
何かが凄まじい勢いで膨張していくような——
「俺のデザートはちょっと辛いぞ——歯ぁ食いしばれ!」
——どん、と大地が割れた。
膨大な魔力が、大地に注ぎ込まれる。
一瞬で飽和状態となった大地は、大爆発を起こした。
土の中に差し込まれた剣が、暴風を巻き起こす。
地表の土だけじゃなくて、さらに下の方にあった岩盤までもが砕かれて宙を舞う。
「うわ、危ねぇ!」
男達が叫んだ瞬間、巨大な木の根が頭上を覆った。
木の根はどすどすと降り注ぐ岩石から、彼らと、変わらずにこにこしているプリートと、
「ひゃー!」
目を閉じながらプリートにぎゅっと抱き付くカリーノを守った。
無数の岩石が舞い踊る中、
「ははははは! どうだ! 参ったか!」
豪快に笑う男の声を聞きながら、リーダーは意識を失った。
その表情は、とても朗らかであった。
続く




