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「お前も馬鹿なやつだなぁ。前みたいに不意討ちして全員で総攻撃仕掛けてこりゃよかったじゃねぇか。そしたら、俺の髪の毛一本ぐらいは持っていけたかもしれないぞ」
盗賊達がぼこぼこにしてしまった畑は、今も復旧作業が進んでいない。
それをいいことに、ここがバトルフィールドに選ばれた。
リーダーの正面にリベロが立つ。
その様子を、日傘を指したプリートがにこやかに見守っている。
まるで、外遊びをする子ども達を見守っている母親のような眼差しだ。
今から決闘が始まる空気だとは、誰も思えないだろう。
そんなプリートの横には、日傘に入るようにカリーノがちょこんと座っている。
そしてさらにその横に、十一人の盗賊達がずらりと並んでいる。
「不意討ち……ねぇ。そうした方がいいのは充分分かってるんだが、どうも不意討ちとか人質とか、性に合わねぇんだよ」
「そうか? そのわりにはずいぶん派手に城の壁をぶっ壊してくれたじゃねーか」
リベロの目線の先には、補修された城の壁があった。
しっかり見なければまず分からないほど、綺麗に直されている。
「あれは、悪かった」
リーダーは頭を下げた。
「俺達は必死だったんだ。生きるために」
だからといって子どもをぶん殴っていいわけねーだろーが!
……と、この場にパーチェがいれば口を挟んでいたに違いない。
しかし幸いなことに、彼女(※♂)は数日前にセーレットに向けて旅に出ている。
同じくぶん殴られたメイドの少女を連れて——
「生きるために……か」
ともすれば都合がいいと思われそうな発言に対して、リベロは静かに呟いた。
少し笑いながら、ぐっと伸びをする。
「まぁ、生きるためには楽しいことも嫌なことも、いっぱいしなきゃいけないよな。本当、嫌になる」
珍しくネガティブなことを言うリベロの顔を、カリーノは不思議そうに見つめた。
しかし、プリートはただにこにことしているだけである。
「で、何が望みだ?」
リベロは屈伸をしてから軽くジャンプして、リーダーに訊ねた。
「何か要望があるから、決闘とかバカなこと言い出したんだろ?」
「そうだな。話が早くて助かる……だが、その前に一つ教えてくれ。俺達はこれからどうなる?」
「どうしてやろうかなぁ。お前らはどうしたいんだ?」
その問いかけに対して、リーダーは土に両膝を付いた。
そして、
「すまなかった」
そのまま土下座する。
額が土にめり込んだ。
「急に城を襲撃したこと、本当に悪かった。生きるためとはいえ、到底許される行為ではないと理解はしている」
ガバッと上げた顔には、土が付いていた。
それを払いもせずリーダーは続ける。
「今回のことは全部俺が言い出したことで、あいつらは俺に騙されてここまで付いてきただけだ」
リーダーは男達を見る。
十一人は全員、いっさい拘束をされていなかった。
逃げようと思えばいつでも逃げられる状態だ。
プリートやカリーノを人質に取ることだってできるだろう。
「だからあいつらだけは、何とか助けてやってもらいたい。俺はどうなってもいい」
「へぇ、見上げた精神だな」
とりあえず立てよ、とリベロが手を前に突き出す。
するとリーダーの足元から強い風が吹いて、大きな体を無理矢理持ち上げて立たせた。
「で、『俺達はどうなる?』に対する答えだが、お前達がどうしたいかによるな」
もちろん『この城を乗っ取らせろ』っていう要望には応えられないぜ? とリベロは腕を組む。
「俺達は、お前の子どもにすら勝てなかったんだぜ? 今更お前に勝てるなんざ思ってねぇよ。乗っ取るのは諦めた。だから、」
リーダーは一瞬、言い淀んだ。
それは言葉に迷っているというより、『こんなことを言っていいのか』と迷っている様子だった。
「——だから、俺達のことを信じてくれるなら、この城で雇ってほしい」
「雇う⁉︎」
カリーノが大きな声をあげた。
平和主義で仲良し主義の彼女でも、さすがに物思うところがあったらしい。
城を襲撃して、姫とメイドをボコボコにしたような人達を雇うっていうのは、さすがに——
「雇うのは構わないが、」
構わないの⁉︎
その言葉にカリーノはもう一度驚かされる。
私、あの人達と一緒に働くことになるの……?
「俺は、お前達のことは信じてねーぞ」
悪い意味でドキドキするカリーノの気持ちも知らずに、リベロは真顔で言った。
「お前ら全員のことを、俺は信じてない」
「……えっ、あっ……は?」
ぽかんとするリーダーと男達を見て、プリートはたまらずくすくすと笑いだした。
カリーノもぽかんとしている。
「俺はお前らのことを信じてない……いや、俺は俺以外の誰のことも信じてねーんだよ。パーチェのこともエイリーのことも、プリートのこともカリーノのことも、何にも信じてない」
リベロは柔軟運動をしながら続ける。
「誰かを信じるっつーのはよ、その誰かにプレッシャーとか責任とか期待とか、色々負わせるってことだろ? だから嫌なんだ。だが、」
動きを止めてリーダーをの目を見る——その目は堂々としていて、自信に満ち溢れていた。
「だが、お前らは、いくらでも俺を信じろ。全部受け止めてやる」
ドヤ顔で言い切るリベロを見て、リーダーは絶句した。
こんなに自信に満ち溢れた表情を、彼は今まで見たことがなかった。
「はは……ははは……ははは!」
これは恐怖なのか武者奮いなのか——
リーダーは、自分の体が震えている事に気が付いた。
「おい、リベロ王。俺達の願いを言うぜ。俺が勝ったら願いを叶えてくれや」
「おう、どうせ叶わないが願うだけならタダだからな。言ってみろよ」
「もし俺が勝ったら——俺達十二人全員を、ここで働かせてくれ」
十一人の男達が、ごくりと喉を鳴らした。
「おー、いいぞいいぞ。俺を倒せるような強いやつなら大歓迎だ。俺を倒せるような強いやつなら、な」
リベロは軽い口調で、リーダーを露骨に挑発をする。
「じゃあ、俺が勝った場合の要望も出していいのか?」
「もちろんだ」
リーダーが頷くと、リベロはじゃあ、と笑う。
「俺に負けるような雑魚共は鍛えて直してやるから、お前が負けたら全員、この城で働け。うちの国で暴れられても迷惑だからな。それと——」
リベロは少し考えてから、言った。
「——それと、お前達が飲まされた『LUCKY』について、知ってることをすべて話せ」
リーダーは目に見えて表情がひきつる。
「さっきも言ったが、俺はお前を信じていない。だからお前が嘘を吐いて情報を吐き出さない可能性も充分あると思ってる。だが——」
しゅっとリベロが腕を振るうと、足元の土が飛び散った。
まるでそこに、見えない剣があるかのように——
「だが、これもさっき言ったが、俺は俺を信じてる。どんな手を使ってでも、お前に情報を全部吐き出させる——それができると、信じてる」
それでも、やるか?
リベロの静かな問いかけに、
「……上等だ。その条件で、やろうや」
リーダーは静かに笑って答えた。
「よし。じゃあ、一応決闘のルールっつーことで……」
リベロは少し考えてから人差し指を立てる。
「まず一つ。今回は完全な、俺とお前のタイマン。俺はプリートにもカリーノにも、他のメイド達にも手出しはさせねぇし、お前も部下に手出しさせないってことでいいな?」
「当然だ」
「じゃあ二つ」
人差し指の隣の中指も立てる。
「お互いに人質は取らない。不意討ちはあり。これもいいな?」
「あぁ」
頷くリーダーを見て、何か楽しそうだなぁとカリーノは思った。
彼女は人の表情や感情を読み取ることに長けているが、彼女自身にまだその自覚はない。
「じゃあ、三つ。この国では俺の個人的な方針で、お前らみたいな反逆者であっても殺すのをよしとしていない。だから、殺すことで決着を付けない。降参させる……もしくは戦闘不能にさせることで決着とする」
「それもいいぞ。そもそもお前を殺しちまったら、従う人間がいなくなっちまうからなぁ」
リーダーが笑うと、
「あ、でもお前は、俺を殺す気でかかってきていいぞ」
リベロは軽い口調でそう言った。
「は……?」
「何ならプリートやカリーノを人質に取ってもいいし、部下と力を合わせて総戦力でかかってきてもいいぞ。それぐらいハンデがないと、俺を倒すなんて難しいだろ?」
リベロの露骨な挑発に、
「……ははは! 上等だ! 俺が国王になっちまっても知らねぇぞリベロ王!」
リーダーも言葉を返す。
ずん、と地面が軋む。
リベロから膨大な魔力が溢れ出す。
そして——
「あぁ、それぐらい気合い入れてかかってこい——城の採用試験、始めるぞ!」
続く




