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その夜。
男達はざわついていた。
「リーダー、無茶ですよ!」
一人の男がひそひそ声で、しかし限界まで大きな声で言った。
彼は片腕がなかった。
この国の姫、アルジェント・パーチェとの戦いの中で腕を失っている。
今はコルトゥーラの宮廷救護班のおかげで、痛みはだいぶ和らいでいるようだ。
「無茶って言ってもお前、しょうがねぇだろ。このままここで飼い殺されるなんざ、俺ぁまっぴらごめんだぜ」
確かに生活環境は快適ではないものの、三食ともお腹いっぱい食べられるしなぜかおやつまで出る。
メイドのカリーノも優しく接してくれる。
しかし、この状態がいつまで続くか分からない。
明日には処刑されるかもしれないし、何十年もこんな生活が続くかもしれない。
どちらにしろベストな環境とは言えない。
それに、自分だけならまだしも、自分に付いてきた仲間達までもが危険な目に遭っている。
この状況は、リーダーにとって最悪といってもよかった。
「このままリベロ王に処刑されるぐらいなら、最期に決闘を申し込む。受け入れられずに処刑されるならそこまでだし、受け入れられたんならそこで俺が勝ちゃあいいだけだろうが」
「そんな……無理ですよ!」
「あ? 俺にあの男は倒せねぇっつーのか?」
睨まれた片腕の男は一瞬押し黙り、
「無理だと……思います」
と下を向いたまま続ける。
「パーチェ姫とメイドの二人相手に、僕達十二人がかりで負けたんですよ? リベロ王はあの二人より強いでしょうし、一騎打ちなんて——」
「——でも、やるなら今しかねーだろ。『LUCKY』の効果が切れ始めてんの、お前らだってよく分かるだろ?」
『LUCKY』——
その単語が出た瞬間、男達の表情が目に見えて曇る。
「俺は明日、あの男にリベンジを申し込む。明日の朝、カリーノの嬢ちゃんにそう伝えるぞ俺は」
「いやいや、本当にヤバいですってリーダー! ちょっと考え直して——」
※
『——ちょっと考え直してくださいよ! 相手はウィンドのソルジャーなんですよ? しかもバトルセンスの塊って言われてるの知ってるでしょ?』
『知ってるも何も、この国に攻め入る前に、みんなで調べただろうが。あいつが『風の谷』の出身者なのも、ウルーの縹疾風丸に師事してたっつーのも、よーく知ってる』
『だったらなおさら——』
『っだぁもう! ぐだぐだうるせぇな! 男に二言はねぇ! 俺ァ寝るぞ!』
『リ、リーダー! ちょっと、リー——』
「——ですってリベロさん。どうしましょう?」
コルトゥーラの城の一室、王妃プリートの部屋。
机の上に木の幹が横たわり、そこから大きな花が咲いている。
花は蓄音機のラッパのように開いており、そこから男達が言い争いをする声が聞こえてくる。
「懲りないやつだなぁ……」
妻である王妃の笑顔を見ながら、リベロは頭をかいた。
「あらあら、そんなこと言ってリベロさん、とても嬉しそうですよ。じゃあ明日に備えてもう寝ないといけませんね」
プリートは立ち上がる。
「お受けするんでしょ? リーダーさんの挑戦」
「そりゃお前、そうだよ」
リベロも立ち上がり、ぐっと伸びをした。
「男の覚悟は、真っ向から迎え撃つのが礼儀だからな」
「頑張ってくださいね」
プリートは目を細めて微笑む。
その顔には、不安の一つもなかった。
「それじゃあ、おやすみなさい」
優しく静かな声でそう言って、リベロの頬にキスをした。
※
「おはようございまぁす。今日はシチューじゃなくてスープですよぉ。エイリーさんから教えてもらったんです。じゃがいもを大きめにカットするのがコツなんです。それと、じゃがいもがたくさん採れたのでポテトサラダにしてみました。それからそれから——」
一人で楽しそうに喋っていたカリーノは、男達の様子がおかしいことに気が付いた。
みんな妙におとなしい。
「……あれ? みなさん、どうしました?」
「嬢ちゃん、頼みがあるんだが、いいか?」
リーダーが真剣な顔をして言う横で、十一人の男達はため息を吐いた。
片腕のない男は、残った手で頭を抱えてうなだれている。
「はい? 何でしょう? あ、お料理のことなら今メニューを考えてるの私なので、ある程度リクエストは——」
「リベロ王に、決闘を申し込む」
「——お受けでき……けっ、……へ!? え、けっ、決闘!?」
思わぬ単語が飛び出して、カリーノは飛び上がる。
「あぁ。嬢ちゃんが作ってくれた飯はありがたく食わせてもらう。その後、俺はあの男に決闘を申し込む。もし受け入れてもらえるなら、戦わせてもらいたい」
自分が甲斐甲斐しく世話している男にこんなことを言われて、この少女は俺のことをどう思っているだろうか——
リーダーは、久しぶりに人からの評価を気にした。
俺に娘がいればこれぐらいだっただろう、幼い彼女は悲しむだろうか。
それとも俺に失望するだろうか——
「——決闘かぁ! いいですね!」
「……は?」
目を輝かせる少女とは対照的に、リーダーはぽかんと口を開ける。
「リベロさんと戦うんでしょう? 楽しみだなぁ。頑張ってくださいね!」
「……」
無邪気にはしゃぐ少女は、大の男達十二人を沈黙させた。
何だか、リベロ王に挑むなんて命知らずですねと完全に舐められているようにすら感じる。
「じゃあ、決闘に向けて腹ごしらえしてくださいね!」
お代わりもいっぱいありますよ! とカリーノは笑った。
続く




