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挿絵(By みてみん)


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 リベロ王に酒を勧められて断って……をしばらく繰り返しながら、能力の話をたくさんした。

 最高の酒の肴だったのか、リベロ王はずっと楽しそうだった。


 信じられないほど大量の酒と大量のつまみを消費している。

 これだけ食べて太らないんだろうか。


 というより、大人の男はこれぐらい食べたり飲んだりするものなんだろうか?

 自分の前世(?)の両親が晩酌とかをするタイプじゃなかったから、まったくイメージが湧かない。


 とはいえ酔いには人並みに勝てないらしく、だんだん呂律が回らなくなってきた。

 そして、しばらく静かだなと思っていたらそのまま寝てしまった。


 ベッドに仰向けになって、のんきにいびきをかいている。

 その顔を見て、この人も普通の人間で、一人の親なんだなと強く感じた。


「……おやすみなさい」


 毛布をかけて部屋を後にする。

 夜の廊下は静まり返っていて、空気がひんやりとしていた。

 窓の外を見ると、広大な大自然と雄大な山々が広がっている。


「俺……本当に旅に出るの……?」


 呟いた言葉が震えている。

 怖さなのか武者震いなのかは分からない。


 パーチェちゃんみたいな小さな子が、旅なんて本当にしていいのか?

 ましてや同じぐらい小さいエイリーと?

 大人が一緒じゃなくていいの?


 一応俺の魂自体は高二だけど、それでも全然子どもだし、常識も何も知らないんだろうなと思う。

 そんな俺達が、たった二人で旅?

 本当にいいのか?


「……いや、」


 でも、それが逆にいいのかもしれない。

『もしかしたらこういう目に遭うかも』『こうやって失敗するかも』と考えて、何もやってこなかったのが前世(?)の俺だ。


 やらないで後悔するより、やって後悔した方が、経験になるからコスパがいい。


 それにエイリーと一緒なら、俺はきっとどこにだって行ける。


      ※


 それから俺は、退屈な時間をすごした。

 旅に出るまでの準備に、最低でも三日はかかると言われたからだ。

 むしろ三日で足りるのかなと思うけど、これ以上長引いても嫌だし黙っておくことにした。


 それにしても暇だ。

 こんな退屈な時間がこれから三日も続くと思うと、正直かなり気が滅入る。

 一方、エイリーは猛烈に忙しそうだった。


 偶然廊下をすれ違った時にちょっと聞いたら、


「私がしていた業務を、ここに残るメイド達に引き継がなければならないのです」


 とのことだった。


 物品の管理はあの子に、洗濯の方法はあの子に、料理のレシピはあの子に、国民の税金や居住データや野菜の輸出の記録はプリート王妃に……と、聞いていても理解できないほど大量にあった。


 ……ん?


『私がしていた業務』?

 これが?

 これをエイリーが一人でやってたってこと?

 この子、ヤバすぎない?


 そりゃこんな超人みたいな子なら、国王夫妻があれだけ引き留めたのも理解できる。

 もちろん『仕事ができるから』という以外の理由もあるんだろうけど……。


 そしてこんな有能な子を振り回して勝手に外に出て襲われて、余計な仕事を増やしたパーチェちゃん、大罪すぎないか……?

 パーチェちゃんの罪は本当に重いけど、これからの俺の行動で、ちょっとでも償っていけたらいいなと思う。


 それが、俺からパーチェちゃんにできる、最大の恩返しなはずだ。


「エイリー、忙しそうだけど病み上がりなんだから、風邪引かないようにね」


 ちょっと口うるさいことを言ったら、エイリーは目を見開いて驚いていた。

 いまだにパーチェちゃんがこういうことを言うのに慣れていないらしい。

 だけど、


「……ありがとうございます」


 と、照れくさそうに髪を触って、それから礼儀正しく頭を下げた。


「姫も何かございましたらお申し付けください」

「いや、忙しそうだし悪いからいいよ。自分の仕事を優先して」

「ですが……」


 これ以上話していても気を遣わせるだけだと思って、


「いいからいいから」


 手を振ってその場を離れた。

 

      ※


 とはいえちょっと暇すぎる。

 俺の元いた世界なら、スマホやパソコンがあった。

 でもこの世界にあるとは思えないし、少なくとも一度も見ていない。


 スマホがあればな……。

 いや、スマホってすごいな……。

 ゲームも漫画も動画も、全部あれ一個で完結してたもんな……。


 仕方がないから、お城の中をうろうろすることにした。

 本当は外を散歩した方が楽しいんだろうけど、また電気ビリビリ男みたいなのに襲われたらたまったもんじゃない。

 だからやめておいた。


 しばらくお城の中をうろうろした結果、色々分かってきた。


 国王と王妃の部屋は別々にあって、それとは別に寝室もあるらしい。


 メイドさん達は一人一人に小さな部屋が与えられていて、エイリーやジーナのように何かの責任者を任せられているメイドさんの部屋は、仕事場を兼ねていることもあってちょっと広くなっている。


 食堂は俺や国王夫妻だけが使うものと、メイドさん達が使うものが、それぞれ別々にある。

 それ以外にも厨房、政務室、医務室、洗濯室、浴場、物品倉庫、収穫した野菜を保管する倉庫……と、思ったより色んな設備が充実している印象だった。


 それにしても、すれ違うメイドさん達がみんな俺を警戒している。


 パーチェちゃんはどうやら、本当にめちゃくちゃ嫌われているらしい。

 イジめられっ子として懐かしくすらある光景だったけど、『嫌われてる』というより『恐れられてる』といった方がいいかもしれない。


 俺が話しかけにいって優しくすれば仲良くなれそうだけど、気を遣わせそうだしやめておこう。

 暇だなぁ。

 次はどこに行こうか——


「あれ? パーチェ様」


 そう思っていたら、背後から声をかけられた。


 振り向くと、厨房の前にジーナとカリーノがいた。

 カリーノとは、オウムの能力をコピーさせてもらった時ぶりだ。

 二人とも、大きな木の箱を抱えている。


「どうされたんですか? お菓子とお茶をお部屋までお持ちしましょうか?」


 メイドさん達の中でも、ジーナはわりと心を開いてくれている感じがする。

 演技かもしれないけど、優しくしてくれてることに変わりはない。


 だけどその横にいるカリーノは『おいお前余計なことすんなよわざわざ声かけるなや』と顔に書いてありすぎる。

 この子はもうちょっと演技を学んだ方がいい。


「いや、お腹が空いたわけじゃなくて、暇だからお散歩してるだけ」

「あぁ……今エイリーさん、忙しそうですもんね」


 どうやら、メイドさん達にも『俺とエイリーが旅に出る』というのは伝わってるらしい。


「で? 二人はそれ、何持ってるの?」


 重そうな木の箱の中を覗くと、大量のトマトが入っていた。

 はち切れんばかりに大きく膨れ上がった、瑞々しそうなトマトだった。


「私達これから、余って使わない分の食材を、倉庫に運ぶところなんです」

「そうなんだ。手伝うよ」

「えぇ⁉︎」


 カリーノが箱を落として露骨に驚いている。

 この子はマジでもうちょっと色々隠す努力をした方がいい。


「パーチェ様……本当に変わりましたね」


 一方、ジーナはおかしそうにくすくすと笑う。


「でも大丈夫ですよ。というより、姫に手伝わせるところなんて見られたら、私達リベロさんに怒られちゃいますよ」

「あぁ、それなら大丈夫だと思うよ。だって、」


 カリーノが落とした箱を持ち上げる。


「そのお父様ご自身が、『女を守るのは男の務めだ』って仰ったんだから」


 箱はかなりずっしりしていた。

 ちょっとふらつくぐらい重いけど、運べないことはない。


「それで? 倉庫でいいの?」

「そうですけど……パーチェ様、本当にいいんですか?」

「いいよ、暇だしね」


 よいしょ、と気合を入れて箱を持ち直して、


「あ、そうだ」


 一旦置いた。

 そして、新しく綺麗に作ってもらったポーチを開いて『操獣機巧ベースティア・フェローチェ(トッピング)】』のキャンディーを取り出す。

 それを舐めて——


「——よし。これなら二つとも余裕で持てるよ」


 パワードスーツに変身した。

 ジーナの箱もちょうだい、と手を差し伸べると、


「すご……」


 ジーナは目を丸くしている。

 カリーノは分かりやすく目を輝かせて「かっこいい!」とはしゃいでいる。

 この子は本当に素直なだけらしい。


「あっ!」


 ぽん、とだいぶ古風なリアクションで手を打って、カリーノはもっと目を輝かせる。


「ジーナちゃん、倉庫のじゃがいもとかも、運ぶの手伝ってもらおうよ!」

「いやいやいやいやいやいやいやいや……」


 早口でそう言いながら、ジーナはカリーノの肩を掴む。


「そこまではさすがにダメでしょ」

「ダメなんですか?」


 ジーナの陰から顔を出して、丸い瞳で首を傾げるカリーノが可愛い。


「全然。ダメじゃないよ」


 二人分の箱を担いで歩き出す。


「能力を使う練習もしたいし、ちょうどいいや。運ぶものがあったらどんどん教えてよ」


      ※


 それから、本当に容赦がないカリーノに指示されて、厨房から倉庫へ、倉庫から厨房へ、厨房から食堂へ……と延々とものを運び続けた。

 あまりに容赦ない指示だったから、これは今までの恨みを果たそうとしてるのかと思うほどだった。


 でも、このおかげで魔力のコントロール方法を覚えられた気がする。

 いかに少ない魔力で体を動かすかとか、これぐらいの力ならこれぐらいのことができるとか、そういったことを反復練習できた。


「姫、疲れたら休んでくださいね? 私達、本当に全然自分でやりますから」

「大丈夫だって。この姿だと本当に疲れないんだよ」


 盗賊十二人と殺し合いをしたことを思えば、こんなの何の負担でもなかった。

 陽が落ちるまで物を運んでも、やっぱり何の疲れもない。


 作業中、他のメイドさん達が呆然と俺を見ていた。

 パーチェちゃんがメイドの仕事を手伝うなんて、絶対にあり得ないことなのだろう。

 こうやって、パーチェちゃんのイメージが少しでもよくなれば俺は嬉しい。


      ※


 カリーノのおかげで、本当に暇をしない三日間になった。

 能力を使っているにもかかわらずほんのりと筋肉痛になっているということは、生身だったらバラバラになって死んでるレベルの過労なのだろう。

 この子は、牧歌的でまったく害意のない顔をしておいて、マジで容赦ない。


 でも本当に素直というか嘘が吐けない性格なだけで、心を許すと誰よりも懐いてくれた。

 俺に荷物を運ばせるだけじゃなく、肩車で自分まで運ばせるという、メイドにあるまじきこともしていた。

 だけど遠目にエイリーを見付けた時は、


「降ります」


 と言って静かに降りていたから、悪いことをしているという自覚はあるらしい。

 俺としては、こんな可愛い女の子の太ももで顔を挟んでもらえるのがハッピーすぎるから本当に大歓迎なんだけど……。


 こうしてコルトゥーラのお城は、築城以来最も片付いたという。


      ※


 そしてついに、俺とエイリーは旅立ちの日を迎える。


続く

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