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挿絵(By みてみん)


      29


 俺に着いてこいと言われたのが嬉しかったのか、それとも本当に嫌だったのかは定かじゃないけど、エイリーは泣き続けた。

 自分に対する苛立ちとか情けなさとか、唯一の誇りだという能力がうまく扱えなかったこととか、色んな感情が押し寄せて処理しきれなくなったんだろう。

 子どもみたいにしゃくりあげて……いや、子どもだから正しいんだけど、ついに何かが決壊してしまったようだった。


 プリート王妃は、エイリーの横にイスを移動させる。

 そして、突っ伏して泣き続けるエイリーの背中を優しく背中を撫でている。

 まるで本当の親子みたいに見えた。


 体は本物の親子なのに、心は偽物の俺と。

 心は本物の親子なのに、血はつながってないエイリーと。


『どっちも親子でしょ』で片付けてしまうのは、横暴な気がした。


      ※


「ちょっと、二人にさせてくれないか」


 しばらくして、リベロ王がプリート王妃に声をかけた。

 エイリーを連れてって何をする気なんだろうか。

 もうこれ以上、泣かせるようなことをしないであげてほしい。


「えぇ、どうぞ」


 相変わらず泣き続けるエイリーの背中を撫でながら、プリート王妃は目を細めて微笑む。


「よし、行くぞ」


 リベロ王はそう言って立ち上がって——俺を見ている。


「え?」


 俺?


 呆気に取られる俺を置いて、リベロ王は部屋を出ていった。

 その背中を慌てて追いかける。


      ※


 俺とリベロ王は、城の外にきていた。

 エイリーと一緒に電気ビリビリ男に襲われた辺りの森を通り過ぎる。

 またあんなヤツに襲われたら……と思うとゾッとするけど、リベロ王の横にいる限り、何とかしてくれる感じがする。


 ……いや、そうでもないのか?

 そうでもない可能性が高い気がしてきた。

 だってこの男、俺とエイリーが盗賊達十二人を相手に死闘を繰り広げてる間、マジで一切助けにこなかったもんな……。

 何でああいうことするかな……。


「昨日は本当によくやった」


 歩きながら、森の中にある池のほとりまでやってきた。

 リベロ王は隆起した木の根元に腰を下ろす。

 俺はその正面の地面に座った。


「正直な、お前もエイリーも、アイツらの相手なんてできないと思ってたんだよ」

「じゃあもうちょっと早く助けにきてくれてもよかったのでは?」


 ちょっと責めるような言い方になる俺に対して、


「俺が途中で助けたら、エイリーが余計に自分を責めることになるだろ? ああするしかなかったんだよ」


 リベロ王は悪びれることもなく答えた。


「それによ、」


 リベロ王は池を見つめて、何かを考えている。

 それから、俺の方を見た。

 だけど、なぜか目が合わない。


「こんなこと一生言うつもりはなかったんだが、昨日のお前の戦いぶりを見て、一人の戦士として認めなきゃいけないと思ったから、言うぞ」


 何だか珍しく、やたらとまどろっこしい言い方をしている。


「何ですか?」


 訊ねる俺から目を逸らすようにもう一度池を見て、そして、


「俺な、」


 今度こそ俺の目をちゃんと見て、リベロ王は言った。


「——お前のこと、見殺しにしようと思ってたんだよ」


 ——見殺し?

 自分の子どもを?


 いや、前世(?)の俺の両親がそれを言うならまだ分かる。

 でも、まさかリベロ王がそんなことを言うとは思ってなかったから驚いてしまった。


「いや、分かるぜ? お前も色々言いたいことはあるだろうが、まずは俺の話を聞け」


 口調こそ穏やかだけど、有無を言わさない雰囲気があった。

 俺は黙って頷いて、次の言葉を待つ。


「今まで、お前の行動はあまりにも目に余るところがあった」

「はい、すみません……」


 パーチェちゃんの分まで俺が謝っておく。

 それが、俺に今いい思いをさせてくれてるパーチェちゃんへの一番の恩返しになるはずだからだ。


「いや、いいんだ。俺とプリートの育て方が甘かったっつーだけの話だからな」


 そう言ってリベロ王は、頭をかいた。

 本当にどんな子だったのだろうか。

 そういえばさっき、エイリーが『お稽古も勉強もまるでしないで、外では"あんな遊び"をして』と言っていた。

 その瞬間、国王夫妻は確かにはっとしていた。


 "あんな遊び"というのは、いったい何のことなんだろうか。


「そんな悪ガキなお前が、ここ一週間ぐらい……つまり襲われたショックで記憶を失ったあの日から、急にいい子になっちゃってな。もちろん嬉しいんだが、どうしても疑う気持ちもある」


 本当に、親として失格だよな、と珍しくしょぼくれた顔をしている。


「自分の子どもが、記憶喪失になって喜んでる上に、まだ疑ってるんだからよ」

「いえ、それは……しょうがないと思います」


 今の発言は、パーチェちゃんというより『俺』の発言だったかもしれない。


「そうか。そう言ってもらえると救われるが……余計に情けなくなるもんだな」


 と、乾いた笑いを見せた。


「それでだな、疑ったわけだ。コイツは記憶を取り戻したら悪い子に戻るんじゃないか? むしろ記憶喪失っていうことすら嘘なんじゃないか? ってな」


 話を聞けば聞くほど、パーチェちゃんは相当ヤバい子だったということが分かる。

 こんなに優しい両親からこれだけ疑われるって……いったい何をやらかしてたんだ?


 パーチェちゃんがジーナの手の甲に作ってしまった、一生消えない傷——

 あれをジーナは『気にしてない』と笑っていたけど、あれが『気にしてない』になるほど、パーチェちゃんはみんなに酷いことをしていたのか?

 "あんな遊び"と関係があるのか?


「それで、試験しようと思ってたんだよ」

「試験?」

「そう、エイリーと二人まとめてな」


 何だ?

 いまいち話が読めない。


「お前は信用ならない悪い子で、エイリーは辞める辞めると騒いで……だから、二人まとめて俺が処刑すればいいかと思ったわけだ」

「処刑……?」


 何か物騒な話になってきたな……。


「そうだ。まぁ、処刑というか『本気で戦う』……決闘するってことだな」


 俺が一方的にお前達を嬲り殺しにするって話じゃないぜ? と付け加えて、リベロ王は続ける。


「まずエイリーだが、俺相手に善戦できればプライドは復活する。仮に善戦できなくても、俺に処刑してもらえればアイツの望みは叶えられたことになるだろ?」


 めちゃくちゃすぎる……。

 だけど、筋は通ってる気がする。


「そして、パッと見いい子になったパーチェだが、本当にいい子になったのかを確かめたかった」

「決闘で……ですか?」

「そうだ」


 リベロ王は頷く。


「戦いの中で、お前がどう動くかを見たかった。命がけの戦いの中とはいえ、エイリーを見捨てるような真似をしやがったら、俺がそのまま処刑しようと思ってたんだよ」


 いや、めちゃくちゃ恐ろしいこと言うじゃん……。

 そんな試験という名の決闘……という名の処刑が計画されてたのか。


「で、昨日、朝食を食い終わった後に試験をしようと思ってたんだが、襲撃されただろ? あれを見て『あぁちょうどいいな』と思ったんだよ」

「なるほど……」


 色々つながった。

 盗賊達に食堂の壁を破壊された時、リベロ王は何というかイタズラっぽいというか、閃いたというか、獰猛というか……とにかく何かを企んでいるような顔をしていた。

 あれは『降って湧いた試練を歓迎している顔』だったのだ。


「目に余る悪い子どもと、辞めると喚くメイドと……どっちも問題児だが、やっぱりこの手で傷付けるのは抵抗があってな。だからちょうどよかったっつーわけだ」


 はっはっは、とリベロ王は笑う。

 もしかすると、この人はこの人で色々限界だったのかもしれない。


 そりゃ実の子どもがめちゃくちゃ悪い子で、子どものように可愛がってきたメイドが辞めると言ってきかなかったらそうなるわな……。


 でもそういう事情があったと考えると、色々理解できる。

 俺とエイリーがマジで盗賊達に殺されかけてたのに、一切助けにこなかったのにはそういう理由があったのだ。


 この男は、俺のこともエイリーのことも、『最悪死んでもいいや』と思っていたのだ。


「……俺のこと、恨んでるか?」

「いえ、それがまったく」


 だけど、まったく恨む気にはならなかった。

 それは自分でも不思議なぐらいに。


 この戦いを経て、リベロ王が俺を認めてくれたのが伝わってくるからだ。

 だからこそリベロ王は俺にこんな『ぶっちゃけ話』をする気になったわけで……。


「そうか、ならよかった」


 リベロ王は小さくそう呟いて、


「それで、」


 と話題と空気を切り替えてきた。


「お前、さっきエイリーを連れて旅に出るって言ってたが、あれは本当か?」

「いえ……あれはエイリーを納得させるための出まかせというか……」

「そうだよな」


 リベロ王はため息を吐いた。

 だけど『安心したため息』ではない気がする。

 どっちかというと残念がっているような——


「お前、旅に出ろよ」

「えっ?」


 俺もしかして追い出されようとしてる?

 俺の動揺に気付いたのか、


「いや、追い出そうとしてるわけじゃねーからな」


 とリベロ王は笑った。


「昨日のバトルを見て思ったんだよ。お前はこんな平和な城でのんびり暮らすの、もったいねぇよ」


 何だか、すごく評価してくれたようで嬉しい。


「そして、エイリーもよくやってた。アイツは色々察しがいいな。二人でいればだいたいのことは何とかなるだろ」

「『察しがいい?』」


 頭のいい子ではあると思うんだけど、察しがいいという言い方が気になった。


「アイツは、盗賊連中の魔力の異常を、一発で見抜いてたよ」


 あぁ、確かに……。

 エイリーが『盗賊達が何らかの方法で魔力を増強している』という見立てをしてくれたおかげで、戦いのプランが組み立てやすくなったのだ。

 あの時リベロ王、明らかにニヤッとして顔反らしてたもんな……。

『もう、お前も“気付いてる”っぽいが、』の『気付いてること』とは、どうやらこのことだったらしい。


 だから今回生き残れたのは、エイリーのおかげといっても過言ではない。

 なのにエイリーは『姫を危険に晒して、助けられてしまって』と泣いていた。

 あれについて、リベロ王はどう考えているんだろうか。


「エイリーは『また姫を守れなかった』と言ってましたが——」

「——あんなもんは勝手に言わせとけばいい」


 即答だった。

 軽く笑って流された。


 あぁ、よかった。


 この人の中には、本当に一ミリもエイリーを責める気がないのだ。


「とはいえエイリー本人があの調子じゃ、しばらくはこの城で働きづらいだろ?」

「だと思います……」

「だから、お前は世界中で能力をコピーする。エイリーは世界中で外交をする。そして二人揃ってバトルの経験を積んで、色んなことを経験して、気が済んだらこの城に帰ってこればいい」


 その時はお前が王様だぜ、と、リベロ王は嬉しそうに俺の肩を叩いた。


 世界中を旅——


 元いた世界ですら考えたこともなかった。

 自分のいた国から出たこともない。

 考えてみれば、小学校、中学校の修学旅行以外で県外にいった覚えもない。


 そんな俺が、この世界を旅?

 剣と魔法の世界を旅?

 エイリーと、二人で?


 何だそれ——最高じゃないか。


 しかも、大義名分を持って可愛い子とキスまでできる。

 もちろんドルヴィみたいな死に至る危険なケースもあるかもしれないけど、メリットが大きすぎる。


「本当は俺とプリートで色んな国を回って外交するべきなんだけどな。俺達が国を離れるわけにいかねぇんだよ」

「何でですか?」

「この国最強の能力者は俺で、次点はプリートなわけだが、俺達がいない間に昨日みたいな襲撃があったら、お前、戦えるか?」


 無言でぶんぶん首を振る。

 戦うしかないけど、戦いたくなさすぎる。


「だろ? だからよっぽどのことがない限り、国王っていうのは自分の国でふんぞり返ってるもんなんだよ」


 なるほど……。

 さっきはめちゃくちゃ思い付きで『エイリーを連れて旅に出る』とか言っちゃったけど、もしかするとかなり妙案だったのでは……?

 もちろんエイリー自身の考えを訊く必要はあるけど、あの様子から見て『私はやっぱりこのお城で働くので姫はお一人で行ってらっしゃいませ』とか言うとは思えない。


 それから、盗賊達とのバトルの話になった。

 トラとウマを正面衝突させたのはよかったとか、でも油断せずトラの能力者にトドメを刺しておくべきだったとか、褒めるのとダメ出しとが五分五分ぐらいで出てくる。

 でも、まるでサッカークラブでの試合を見ていた父親がプレイを褒めてくれているような——そんな経験俺にはないんだけど——感じがした。


「サモンは手ごわいな思いました」


 俺は電気ビリビリ男と盗賊達としか戦ってない。

 電気ビリビリ男はパワークラス、盗賊がサモンクラスだったわけだけど、その二つを比べると、パワーの方がやりやすかった。

 人間の動きは予測が付きやすいけど、動物の動きは予測が付けづらいからだ。


 ところが、


「あぁ、さすがにそこは気付かなかったか」


 リベロ王はニヤッと口角を上げた。


「え?」

「あの盗賊達、全員ウィザードだぜ?」

「は?」


 いやいや、動物を操ってただろ?

 何であれがウィザードなんだよ?


 俺の不服を読み取ったのか、


「あれはウィザードの力で土を動物の形に形成して、動物みたいに動かしてるだけだ」


 と端的に説明してくれた。


「何でわざわざそんなことをするんですか?」

「さぁな。だが、自分の能力に自信がない妖精級がよくやるんだよ、ああいうの。きっと『土の塊を動かす』とかだとイメージが湧かなくてうまくできないんだろうな。だからわざわざ動物の形に形成して戦う方がやりやすいんだろうな」


 これってエイリーは気付いてたのかな……。

 まぁ気付いていたにしろいなかったにしろ、俺達の戦い方は大きく変わらなかっただろうけど……。


「そういうわけで今回のお前の戦闘は、全体的に素晴らしかったが改善の余地はめちゃくちゃある、という感じの評価なんだが、特によかった点が二つある」

「二つ?」

「そうだ。まずお前、土のシャチに閉じ込められた時、魔力を爆発させて脱出しただろ? あれ、エイリーに教わってたのか?」

「いえ、思い付きで」

「思い付きかよ!」


 リベロ王は嬉しそうに手を叩いて笑った。


「お前とんでもねぇな!」

「思い付けてよかったです」

「キャンディーを見失ってたなら、間違いなくあれが最適解だったな。しかも、魔力の量もちょうどよかった。あれより弱かったら壊せてなくて無駄打ちで終わってたし、あれより強かったらその後の戦いで魔力がもたなかった。ちょうどいい塩梅だった」


 すごく饒舌になっている。

 本当に、今までどれだけ俺と能力の話がしたかったんだろうか。


「まぁそんなことは些細なもので、もう一個の方が得に大事なことだと思ってる」


 リベロ王は立てた人指し指を、


「お前は、誰も殺さなかった」


 俺に向けた。


「一番簡単なのは、殺すことなんだよ」


 さらっと、恐ろしいことを言っている。

 でもさっきも話題に上がったけど、確かにトラの能力者とかは殺しておけばもっと楽できたのにと思う。

 というより効率だけ考えれば、倒した男達は全員、その都度殺せばよかったのだ。

 でもそれをしなかったのは——怖かったからだ。


 人を殺すということが——


「殺しちまえば反撃されないからな。それに『殺さない程度に手加減する』って難しいんだよ」


 手加減が難しいという意識はなかったけど、言われてみればそうかもしれない。

 プリンをぐちゃぐちゃにするのは簡単だけど、カラメルの部分を1㎤だけ削れと言われたら難しい。

 人を殺すのが怖いという理由だったとはいえ、俺はそれを成し遂げたのだ。

 当然エイリーの力あってのことではあるけど、我ながらすごいことをしたんだなぁと誇らしい気持ちになった。


「そういうわけで素晴らしかったんだが——」


 リベロ王は一瞬言い淀んでから、


「一人、腕をやっちまってるよな?」


 と言った。

 龍の能力者のことだ。


「それは——」

「——そんな顔すんなよ」


 リベロ王は笑う。

 俺は、どんな顔をしていたんだろうか——


「遠くから見てたが、燃やされたポーチを手放さなかったから切り離したんだろ? それに、お前が腕を切ってなかったら、全身に炎が回ってアイツは死んでたよ」

「そっか……」


 よかった。

 いくら敵とはいえ、アイツらが全部悪いとはいえ、あれは気分はよくなかった。

 だからそう言ってもらえて少し救われた気がする。


「これからの旅でもし戦うことがあったら、なるべく殺すな。そして、四肢欠損レベルのケガも負わせるな」

「はい、すみません」

「違うって! 怒ってるわけじゃねぇんだ」


 リベロ王は笑いながら俺の肩をバンバンと叩く。


「もちろんモラル的に考えたらダメに決まってる。だが、戦わなきゃならない時はだいたい相手が悪いんだよ。だから、最悪の場合殺すのもやむを得ないことは多々ある」


 もしかしてリベロ王は人を殺したことがあるんだろうか——

 この時、ふとそんなことを考えた。


「とはいえ、やむを得ないからっつってバンバン殺してると、目を付けられたり仲間に復讐されたりするんだよ」


 モラルじゃなくて、めんどくさいから目立つ危害は与えるなっつー話な、と付け加えた。


「……肝に銘じます」


 そりゃ俺だって怖いし気持ち悪いし、できることなら大ケガを負わせるようなことはしたくない。

 ましてや殺害なんて、相手がどれだけ悪かったとしても最悪な気分になるだろう。


「あー、楽しいな」


 今の話の何が!?

 俺が驚いていると、


「……ん? あぁ、」


 リベロ王は小さく手を振る。


「殺しを楽しいっつってるんじゃなくて、お前とこうやって能力の話ができるのが楽しいって言ってるんだよ」

「それは……よかったです」


 何て答えていいか分からず、何とかそれだけ返した。

 そして、


「あの、そういえば……」 


 ずっと抱えていた疑問を投げかける。


「私とエイリーを襲撃したエレキの男は、どうなったんでしょうか?」


 あの時は死にかけだったし何も分からない状態だったから、手加減も何もなかった。

 もしかすると殺してしまったんじゃないか——


「安心しろよ、殺しちゃいねぇよ」


 俺の考えは逐一見透かされているらしい。


「だが四肢欠損レベルの大ケガではないにしろ、ちょっとケガの程度が激しくてな。それに罪人ってこともあって、ついでにラーハットの駐在に連れてってもらった」


 ラーハット——


 電気ビリビリ男と戦っていた時、エイリーも言ってた気がする。

 駐在ということは、この世界における警察組織みたいなものなんだろうか?

 色々訊きたいけど、あんまり訊くと記憶喪失では済まされないレベルのボロを出しそうで怖い。


 ——がさ、と。


 背後で草むらが揺れる。

 ばっと振り返って音の正体を探そうとして——


「何だ……」


 ただのウサギだった。

 電気ビリビリ男といい盗賊といい、何かと不意打ちばっかりしてくるから敏感になりすぎていた。


 まぁ放っておけばどっか行くだろ、とリベロ王に視線を戻すと、


「どうしたんですか……?」


 リベロ王は今まで見たことがない表情をしていた。

 眉間にシワを寄せて、口元は笑っているというより引きつっていた。

 そして、


「……ほら、どっか行け」


 手から鋭い風を出すとウサギを追い払う。

 ウサギが遠くに走り去っていくのを見届けてから、


「……さて、」


 立ち上がって、何だかぎこちなくストレッチし始めた。


「ちょっと寒くなってきたし、場所を変えよう」


 そして、まるで忘れていた用事を思い出した時みたいに、さっさと歩いて帰っていってしまった。


「わ、分かりました」


 その背中を追いかけながら浴びた風は、とても寒いとは思えなかった。


続く

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