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挿絵(By みてみん)


      26


「ほらリーダー! しっかりしろよ!」


 倒れたリーダーの顔を、トラの能力者がパンパンと叩く。

 何とか目を覚まさせようとしてるらしい。


「何で……」


 アイツ、確かに倒したはずだよな……?


 エイリーと一緒に霊獣に乗ってた時、トラとウマが走り寄ってきて。

 加速して切り抜けようとしてたエイリーに、減速するように頼んで。

 減速した霊獣からエイリーが飛び降りた瞬間、『困った探偵鳥(スピア・パッパガッロ)(トッピング)】』の力で霊獣を掴んだまま空を飛んで。

 そしてトラとウマを正面衝突させて、破壊した——


 ——破壊した、はずだった。


 全員確実に倒してきたつもりだった。

 全力の魔力が込められた土の動物を破壊して戦闘不能にしたり、術者自身をぶん殴ってノックアウトしたりした。


 でも、現にアイツはああやって立ってる。

 いったい何で——


 ——まさか、やられたフリ?(・・・・・・・)


「おうおう、混乱してるみてぇだな」


 リーダーを庇うように前に立ちながら、トラの能力者は腕を組む。


「スポーツでもあるまいし、ルールなんざ『勝つ』以外、何もねぇんだよ」


 ……確かに、それはそうだ。


 俺が元いた世界の戦争でも『この日までは攻撃をやめましょう』とか『学校や病院を攻撃するのはやめましょう』とかそういうルールがあるらしい。

 そんなの無視してガンガン攻撃すればいいのに、と思ってたじゃないか。

 コイツらは、それを有言実行してるだけなのだ。


 スポーツでもあるまいし。

 本当に、仰る通りだ——


 ——あれ?


 ということは、他にもアイツみたいに『やられたフリして倒れてるヤツ』がいる可能性が——


 いや、今はそれを考えてる場合じゃない。

 リーダーが動き出す前に、キャンディーのポーチを探さないと——


 ——と思って周囲を見渡したら、離れたところに落ちていた。

 燃えるわ土だらけになるわ穴が開くわでぐちゃぐちゃだけど、中身は無事だった。


 どうやらポーチもキャンディーも、シャチに飲みこまれた衝撃で偶然落ちてしまっただけらしい。

 これがもし意図的に奪われて、隠されたり破壊されていたと思うとゾッとする。


 もう離さない。

 絶対に離さない。

 小さな手で、握り潰すぐらい固く握りしめる。


「おい、リーダー、起きろや! どうせまだ魔力余ってんだろ?」


 トラの能力者は、リーダーのわき腹を足で軽く蹴る。

 何度目かの呼びかけで、リーダーは目を覚ました。

 大きくせき込んで、口の中の砂をぺっと吐き出す。


「もうちょっと優しく起こせやお前は……」


 そう言ってリーダーはダルそうに立ち上がった。


「お目覚めのキスがお望みならしてやろうか?」

「やめろ気色悪い」


 雑に手を振って断りながら、


「……よし、」


 リーダーは深く息を吐いた。


「ようお姫様、」

「何ですか」


 また何か企んでるに違いない。

 まともに会話する気はもう完全に失せている。


「そう険しい顔すんなよ。ただ、お前を褒めたくなってよ」

「何を?」

「よく、能力を使わずにシャチを破壊できたな。お前はあのまま、あの中でくたばると思っていた」


 やっぱり、あの中で殺す気だったのか……。

 今までイジめられて殴られたことは多々あったけど、明確な殺意を向けられたことはなかった。

 そう考えるとやっぱり、ここは全然平和な世界なんかじゃない。


「こっちとしても、あんな魔力の使い方はしたくなかったんですけどね」

「思い付きであれをやってのけたっつーなら、本当に見事なもんだぜ」

「ならご褒美に、全員連れてそのまま帰ってもらえませんか?」

「それはできねぇが、」


 リーダーは体の土を払いながら続ける。


「せめて苦しまないように殺してやる」

「それはどうも。でも——」


 両手に歯車を構える。


「——こっちからは同じ約束、できないよ」


 二人の男に向けて、両手の歯車を投げ付ける。

 リーダーは身を反らして避けて、トラの能力者は太い腕で乱暴に弾き飛ばした。


「何だそのへなちょこな攻撃は! パワークラスなら黙って殴って——」


 ——こいや、というトラの能力者の言葉がしりすぼみになった。

 言葉をかけた俺がそこにいないんだから、当然だろう。


「——上だ!」


 リーダーが眩しそうな顔をして俺を睨む。

 歯車の攻撃は——へなちょこな攻撃は、ただの目くらましにすぎない。


絶望の終末パンターノ・シン・ファンド(トッピング)】』の泥のアームを展開する。

 ぼた、ぼた、と獲物を見付けた猛獣がヨダレを垂らすように、泥が垂れる。

 その巨大なアームを、空高くから思いっきり叩きこむ——


「——ははは! パワークラスならそうこなくっちゃな!」


 トラの能力者が土のトラを構える。

 俺のアームに向けて、トラが獰猛な咆哮をあげた。


 全力のアームを叩きこむ。

 トラの顔面——じゃなく、地面に。


「……は?」


 どん、と地面が揺れて抉れて、拳がずぶずぶと土にめり込んでいく。

 畑を泥沼にする。

 でも、全体を泥沼にする必要はない。

 この広大な範囲の、ほんの一部(・・・・・)だけでいい。

 魔力を集中させて——


「——沈め!」


 魔力を込めると、空間がずん、と音を立てて軋んだ。

 そして——


「おい、リーダー! あれ!」

「言われなくても見りゃあ分かる!」


 男達の視線の先に——倒れている十人の(・・・・・・・・)仲間の足元に(・・・・・・)、沼地が展開する。

 意識を失った男達が、ずぶずぶと静かに沈んでいく。


「……これだからガキは!」


 リーダーは怒鳴りながら、地面に腕を刺す俺のわき腹に蹴りを入れた。

 そのまま吹き飛ばされたけど、当初の目的は果たした。


 もしトラの能力者が『倒れたフリ』をしていたとしたら、他のヤツだってそうしてる可能性がある。

 まずはそれを洗い出す必要があった。

 意識があるなら、沼地に沈まないように起き上がって逃げ出してくるはずだ。


「やってくれるぜガキ!」


 仲間を助けるために走り出したトラの能力者を、


「——行かせるわけないでしょ!」


操獣機巧ベースティア・フェローチェ(トッピング)】』のキャンディーに切り替えて追いかける。

 そして腰に抱き付いて、


「——はぁっ!」


 ブリッジするように体を反らす。

 トラの能力者は頭から畑に落ちた。


「スポーツでもあるまいし、ルールなんざ『勝つ』以外、何もないんでしょ?」


 仰向けに倒れる男の腹にかかと落としを食らわせようとして——


「そういうこった!」


 男は俺の魔力を込めた一撃を、あろうことか素手で、しかも片手で受け止めている。


「リーダー! やれ!」


 その言葉と同時に、土のシャチが土から飛び出してくる。

 コイツ、まさか仲間ごと俺をやる気か——


「くそっ……!」


困った探偵鳥(スピア・パッパガッロ)(トッピング)】』に切り替えて、一瞬だけ空を飛ぶ。


 トラの能力者の背中スレスレを、土のシャチが掠めた。

 もう少し高さを調整していれば、トラの能力者だけをシャチで始末できてたかもしれない。

 だけど自分が食い殺されるかどうかの瀬戸際で、そんな微調整なんてしてる余裕はない。


 俺の足を鷲掴みする手を空中でふるい落として、二人から距離を取った。


 すぐに『操獣機巧ベースティア・フェローチェ(トッピング)】』のパワードスーツ姿に戻る。

 攻防一体のこのフォルムになっておかないと、不意打ちで殴られた時が怖いからだ。


 さっきは『絶望の終末パンターノ・シン・ファンド(トッピング)】』の薄着の状態で蹴られたから、わき腹がまだ痛む。

 だけど、これぐらいの痛みで『ちょっと(ピソリーノ・)お昼寝(テンポラーニア)(トッピング)】』を使うわけにはいかない。

 というかこれからどれだけ痛くなろうとも、自分の回復なんかに魔力を使ってる場合じゃない。


 エイリーからもらった魔力は、コイツらを倒すためだけに使うんだ。


「……お前を倒すまで、俺達の仲間は人質ってわけだな」

「そういうことです。さっさと降参してください」


 まぁ、『降参しました』って言われたところで信用できないし、個人的に恨みがあるから絶対に顔面は殴るけどね。


「降参は、できねぇ相談だな。お前だってこの城を明け渡す気はないんだろ?」

「当然でしょ」


 気を失った男達は、誰も起き上がってこない。

 途中で能力を解除されてしまったから沈んでいくスピードこそ遅いけど、やりたかったことはできた。

 アイツらはやられたフリをしているわけじゃない、という安心を得ることができた。


 だから今度こそ、この二人を倒したら終わりだ。


 あともうちょっとだ、俺!

 エイリーを助けるために気合を入れろ!


 二人の男に向かって走り出す。


 この拳を、必ず顔面に叩きこむ。

 その意志だけが、俺の足を前に突き動かす。


 ——だから、忘れていた。


 "スポーツでもあるまいし、ルールなんざ『勝つ』以外、何もない"——


 この言葉の意味を。


続く

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