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「ほらリーダー! しっかりしろよ!」
倒れたリーダーの顔を、トラの能力者がパンパンと叩く。
何とか目を覚まさせようとしてるらしい。
「何で……」
アイツ、確かに倒したはずだよな……?
エイリーと一緒に霊獣に乗ってた時、トラとウマが走り寄ってきて。
加速して切り抜けようとしてたエイリーに、減速するように頼んで。
減速した霊獣からエイリーが飛び降りた瞬間、『困った探偵鳥【着】』の力で霊獣を掴んだまま空を飛んで。
そしてトラとウマを正面衝突させて、破壊した——
——破壊した、はずだった。
全員確実に倒してきたつもりだった。
全力の魔力が込められた土の動物を破壊して戦闘不能にしたり、術者自身をぶん殴ってノックアウトしたりした。
でも、現にアイツはああやって立ってる。
いったい何で——
——まさか、やられたフリ?
「おうおう、混乱してるみてぇだな」
リーダーを庇うように前に立ちながら、トラの能力者は腕を組む。
「スポーツでもあるまいし、ルールなんざ『勝つ』以外、何もねぇんだよ」
……確かに、それはそうだ。
俺が元いた世界の戦争でも『この日までは攻撃をやめましょう』とか『学校や病院を攻撃するのはやめましょう』とかそういうルールがあるらしい。
そんなの無視してガンガン攻撃すればいいのに、と思ってたじゃないか。
コイツらは、それを有言実行してるだけなのだ。
スポーツでもあるまいし。
本当に、仰る通りだ——
——あれ?
ということは、他にもアイツみたいに『やられたフリして倒れてるヤツ』がいる可能性が——
いや、今はそれを考えてる場合じゃない。
リーダーが動き出す前に、キャンディーのポーチを探さないと——
——と思って周囲を見渡したら、離れたところに落ちていた。
燃えるわ土だらけになるわ穴が開くわでぐちゃぐちゃだけど、中身は無事だった。
どうやらポーチもキャンディーも、シャチに飲みこまれた衝撃で偶然落ちてしまっただけらしい。
これがもし意図的に奪われて、隠されたり破壊されていたと思うとゾッとする。
もう離さない。
絶対に離さない。
小さな手で、握り潰すぐらい固く握りしめる。
「おい、リーダー、起きろや! どうせまだ魔力余ってんだろ?」
トラの能力者は、リーダーのわき腹を足で軽く蹴る。
何度目かの呼びかけで、リーダーは目を覚ました。
大きくせき込んで、口の中の砂をぺっと吐き出す。
「もうちょっと優しく起こせやお前は……」
そう言ってリーダーはダルそうに立ち上がった。
「お目覚めのキスがお望みならしてやろうか?」
「やめろ気色悪い」
雑に手を振って断りながら、
「……よし、」
リーダーは深く息を吐いた。
「ようお姫様、」
「何ですか」
また何か企んでるに違いない。
まともに会話する気はもう完全に失せている。
「そう険しい顔すんなよ。ただ、お前を褒めたくなってよ」
「何を?」
「よく、能力を使わずにシャチを破壊できたな。お前はあのまま、あの中でくたばると思っていた」
やっぱり、あの中で殺す気だったのか……。
今までイジめられて殴られたことは多々あったけど、明確な殺意を向けられたことはなかった。
そう考えるとやっぱり、ここは全然平和な世界なんかじゃない。
「こっちとしても、あんな魔力の使い方はしたくなかったんですけどね」
「思い付きであれをやってのけたっつーなら、本当に見事なもんだぜ」
「ならご褒美に、全員連れてそのまま帰ってもらえませんか?」
「それはできねぇが、」
リーダーは体の土を払いながら続ける。
「せめて苦しまないように殺してやる」
「それはどうも。でも——」
両手に歯車を構える。
「——こっちからは同じ約束、できないよ」
二人の男に向けて、両手の歯車を投げ付ける。
リーダーは身を反らして避けて、トラの能力者は太い腕で乱暴に弾き飛ばした。
「何だそのへなちょこな攻撃は! パワークラスなら黙って殴って——」
——こいや、というトラの能力者の言葉がしりすぼみになった。
言葉をかけた俺がそこにいないんだから、当然だろう。
「——上だ!」
リーダーが眩しそうな顔をして俺を睨む。
歯車の攻撃は——へなちょこな攻撃は、ただの目くらましにすぎない。
『絶望の終末【着】』の泥のアームを展開する。
ぼた、ぼた、と獲物を見付けた猛獣がヨダレを垂らすように、泥が垂れる。
その巨大なアームを、空高くから思いっきり叩きこむ——
「——ははは! パワークラスならそうこなくっちゃな!」
トラの能力者が土のトラを構える。
俺のアームに向けて、トラが獰猛な咆哮をあげた。
全力のアームを叩きこむ。
トラの顔面——じゃなく、地面に。
「……は?」
どん、と地面が揺れて抉れて、拳がずぶずぶと土にめり込んでいく。
畑を泥沼にする。
でも、全体を泥沼にする必要はない。
この広大な範囲の、ほんの一部だけでいい。
魔力を集中させて——
「——沈め!」
魔力を込めると、空間がずん、と音を立てて軋んだ。
そして——
「おい、リーダー! あれ!」
「言われなくても見りゃあ分かる!」
男達の視線の先に——倒れている十人の仲間の足元に、沼地が展開する。
意識を失った男達が、ずぶずぶと静かに沈んでいく。
「……これだからガキは!」
リーダーは怒鳴りながら、地面に腕を刺す俺のわき腹に蹴りを入れた。
そのまま吹き飛ばされたけど、当初の目的は果たした。
もしトラの能力者が『倒れたフリ』をしていたとしたら、他のヤツだってそうしてる可能性がある。
まずはそれを洗い出す必要があった。
意識があるなら、沼地に沈まないように起き上がって逃げ出してくるはずだ。
「やってくれるぜガキ!」
仲間を助けるために走り出したトラの能力者を、
「——行かせるわけないでしょ!」
『操獣機巧【着】』のキャンディーに切り替えて追いかける。
そして腰に抱き付いて、
「——はぁっ!」
ブリッジするように体を反らす。
トラの能力者は頭から畑に落ちた。
「スポーツでもあるまいし、ルールなんざ『勝つ』以外、何もないんでしょ?」
仰向けに倒れる男の腹にかかと落としを食らわせようとして——
「そういうこった!」
男は俺の魔力を込めた一撃を、あろうことか素手で、しかも片手で受け止めている。
「リーダー! やれ!」
その言葉と同時に、土のシャチが土から飛び出してくる。
コイツ、まさか仲間ごと俺をやる気か——
「くそっ……!」
『困った探偵鳥【着】』に切り替えて、一瞬だけ空を飛ぶ。
トラの能力者の背中スレスレを、土のシャチが掠めた。
もう少し高さを調整していれば、トラの能力者だけをシャチで始末できてたかもしれない。
だけど自分が食い殺されるかどうかの瀬戸際で、そんな微調整なんてしてる余裕はない。
俺の足を鷲掴みする手を空中でふるい落として、二人から距離を取った。
すぐに『操獣機巧【着】』のパワードスーツ姿に戻る。
攻防一体のこのフォルムになっておかないと、不意打ちで殴られた時が怖いからだ。
さっきは『絶望の終末【着】』の薄着の状態で蹴られたから、わき腹がまだ痛む。
だけど、これぐらいの痛みで『ちょっとお昼寝【着】』を使うわけにはいかない。
というかこれからどれだけ痛くなろうとも、自分の回復なんかに魔力を使ってる場合じゃない。
エイリーからもらった魔力は、コイツらを倒すためだけに使うんだ。
「……お前を倒すまで、俺達の仲間は人質ってわけだな」
「そういうことです。さっさと降参してください」
まぁ、『降参しました』って言われたところで信用できないし、個人的に恨みがあるから絶対に顔面は殴るけどね。
「降参は、できねぇ相談だな。お前だってこの城を明け渡す気はないんだろ?」
「当然でしょ」
気を失った男達は、誰も起き上がってこない。
途中で能力を解除されてしまったから沈んでいくスピードこそ遅いけど、やりたかったことはできた。
アイツらはやられたフリをしているわけじゃない、という安心を得ることができた。
だから今度こそ、この二人を倒したら終わりだ。
あともうちょっとだ、俺!
エイリーを助けるために気合を入れろ!
二人の男に向かって走り出す。
この拳を、必ず顔面に叩きこむ。
その意志だけが、俺の足を前に突き動かす。
——だから、忘れていた。
"スポーツでもあるまいし、ルールなんざ『勝つ』以外、何もない"——
この言葉の意味を。
続く




