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挿絵(By みてみん)


      24


 エイリーのおかげで魔力が回復して、頭がすっきりしてきた。

 体も軽い。


「なぁ、」


 リーダーは、倒れている十一人の仲間の前で堂々と腕を組んだ。


「もう一回言うが、この城を譲ってくれねぇか?」

「譲りませんし、どのみちあなたは殴ります」


 最初から交渉の余地なんてない。

 しかもエイリーに酷いことしやがったから、もうなおさらない。


「血気盛んなお姫様だな」

「血気盛んにさせる方が悪いと思うけどね」

「それもそう——」


 ——か、を目と鼻の先で聞いた。


 一気に距離を詰めて、固く握った拳をリーダーの顔面に——


「——はぁッ!」


 畑から土の壁が出現する。

 どむ、と固い壁を殴ったような鈍い感覚があって、


「いっ……⁉︎」


 腰が砕けそうになる。

 だけどすぐに体勢を立て直した。


 このまま砕いてやる!


 ムキになって魔力を込めようとして——やめた。


 ダメだ。

 感情に流されるな。

 エイリーがくれた命を、そんなしょうもないことで浪費するな。


 拳を離して体勢を整える。

 壁があるなら、砕かなくていい。

 飛び越えればいいだけだ。


 大人の背丈以上ある壁を、軽いジャンプで乗り越える。

 ヤツは壁の向こう側にいた。


 壁の上から拳を振り上げる俺と、見開いた目で俺を見上げるリーダー。


 今度こそ、その顔面を殴り抜く。

 拳にありったけの魔力を込めろ。


 魔力をまとった重たい拳が顔面を捉えるその瞬間、


「……へっ」


 ヤツは口角を歪ませた。


 俺の拳を手のひらで受け流すと手首を掴んで——


「——はぁッ!」


 落下スピードも拳の威力もすべて受け流される。

 逆にそのすべてを活かされて、腰の入った鋭い背負い投げで投げ飛ばされる。

 世界がぐるんと一回転して、青空がスローに見えた。


 あぁ、雲一つないな——


「がはっ……!」


 固い音を立てて、コンクリートの床に背中から叩き付けられた。


 背中側が押し潰されて、血液がすべて体の表面に集まるような錯覚——


 くそっ、土の上だと思って油断していた。

 まさかこんなところにコンクリートが——


 ——ん?


 激痛で目の前がちかちかする中、俺はその違和感に気付いた。


 コンクリート?

 畑の真ん中で?


 仰向けに倒れたまま、パワードスーツの指先を微かに動かしてみる。

 かしゃかしゃと、固い物同士が擦れるような音がする。


 これ、土じゃない?

 でも畑の真ん中に何でコンクリートが?


 まさか、能力で土をガチガチに押し固めたのか——


「——うぐっ……!」


 リーダーは、青空をバックにしているとは思えないほど醒めた顔で、俺の腹を踏み付けて、踏みにじる。

 まるでタバコの火でも消すみたいに——


 口から、今朝食べたご飯が溢れ出した。

 喉が焼けるように熱くて、口の中が苦い。


 腹を踏まれて息ができない——


「正直、お前よりあのメイドの方が厄介だった」


 そう言いながら、エイリーの方を見もしない。

 感情の読めない声色で淡々と続ける。


「アイツは、俺達の魔力の異常に瞬時に気付いた。察しのいいガキだったな」

「……過去形で言わないでくれるかな」


 まるで死んでるみたいに言うな。

 あの子にはこれから、明るくて楽しくて幸せな人生が待ち構えてるんだ。

 こんなしょうもないところで死ぬわけがない。


「もうすぐ死ぬガキに対して、言葉を選ぶ必要があるか?」

「……」


 もうダメだ、コイツと真面目に会話をしても無駄だ。

 根本から考えが違うんだ。


 考えるな。

 別のことを考えろ。


 確かに、エイリーは察しがいい。

 それは確かだ。


 エイリーが魔力の話をした時、リベロ王はニヤッとしていた。

 コイツらの魔力が低いことを瞬時に見抜いたエイリーは、やっぱりすごかったのだ。

 すごいのだ。


 そしてそれは、コイツが俺より弱いという何よりの証拠だ。


「何にせよ、あのガキが先にくたばってくれてよかった。お前は大したことないが、アイツは厄介だったからな」


 こんな場面でも、エイリーが褒められていると嬉しく思ってしまう。


「アイツの戦いは洗練されてたが、お前は荒削りだ。状況の見立てこそいいが、行き当たりばったりすぎる」


 今だってそうだろ? と言いながら、俺の腹をもう一度強く踏みつけた。

 腹からこみ上げた熱い塊が、喉を焼いて再び口から漏れ出す。


「……何? 師匠にでもなってくれるの?」


 苦い臭いがする口で軽口を叩いた。


「悪いが、可愛げのない弟子は取らないようにしてんだ」

「ふうん、じゃああの人達は、ああ見えてみんな可愛げがあるんだ?」


 魔力欠乏症で倒れている十一人の男達。

 ヤツらはコイツの弟子なんだろうか?


「ふん、可愛げもねぇし弟子でもねぇよ。だが、それでもよ、」


 俺を踏み付ける足に力が込められる。


「それでも、仲間なんだよ。あの馬鹿共全員な」

「ふうん、大人が仲間集めてやることがお城の襲撃? しょうもないね。謙遜じゃなくてマジで馬鹿共じゃん——」


 ——顔面の骨が揺れた。


 頭蓋骨から脳味噌が飛び出るほどの衝撃。

 首の骨がグギリと鈍い音を立てる。

 鼻がじんじんする。

 視界がぐわんぐわんと揺れる。

 歯が頬の肉に刺さる。

 苦い臭いに鉄の臭いが追加される。


「……女の子(※♂)の顔を蹴るなんて、いい趣味してんじゃん」

「安心しろ。灰になればガキもババアも変わりゃしねぇよ」


 ……あぁ、ヤバいな。

 コイツ全然手加減する気ないぞ。


 それにコイツ、ここまでほぼ魔力を消費してない。

 最初に土のシャチを出して、さっき土の壁を出して、そして地面を固くしただけだ。


 人を、殺し慣れてる——


 その感覚があった。

 例えば一概にイジめっ子といっても、周りに流されて何となく蹴ったり殴ったりするやつがいる。

 こういうやつらは、全然大したことない。


 でも中には、人に対する暴力に異常なほど慣れているやつがいた。

 抵抗がまったくないやつがいた。


 この男は、その慣れの成れの果てだ。

 戦うこと、イジめること、殺すことに慣れている。

 そして躊躇がない。


「……諦めはついたかよ?」

「まさか。お姫様は諦めが悪いってご存知ない?」

「知らねぇな。お姫様に知り合いがいねぇし、唯一の知り合いも今から死ぬんでな」


 軽口を叩きながらも、俺を踏み付ける足の力は絶対に緩めない。

 隙がなさすぎる。


 キャンディーなんて絶対に取らせてもらえないだろうし、取った瞬間、腕を折られるという確信がある。

 コイツの顔面に歯車を投げ付けたとしても、確実に弾かれる。


 なら——


「——っらぁっ!」


 仰向けのまま、両手に持った歯車で押し固められた土を殴る。

 岩でも殴ったかのように、固い破片が周囲に飛び散る。


 そして固いからこそ、少し砕けたら足場は不安定になる。


「うぉっ——」


 激しい目くらましと足場崩し。

 それでも足をどかさなかったコイツの精神は大したものだけど、少し、ほんの少しだけその力は緩んだ。


 少しだけ浮いた足を両手で掴む。

 そして、


「このっ……!」


 怒りを込めて持ち上げて——バットみたいに振って投げ捨てた。


 仰向けに寝た状態じゃ大して力が入らない。

 だからそこまで遠くには飛んでいかなかった。

 だけどこれで形勢逆転だ。


 すぐに跳ね起きて、ぶっ飛んでいくリーダーを追いかける。

 地面に叩き付けられる前に、俺がお前を殴る。

 今度こそ顔面をぶん殴って、お前を地面に叩き付ける——


「——『大地からの暴君(バレイア・アサシーナ)』!」


 拳が当たる瞬間、リーダーが叫んだ。

 ヘドロを頭から浴びせかけられたような、凄まじく醜悪な魔力が急激に増幅していく。

 ずん、と大地が軋む。


 リーダーの真下の地面が、ぽっかりと口を開けた。

 真っ暗で、底の見えない穴——それは巨大なシャチの口だった。


「またかよ……!」


 さっきのイヌと似てるけど、あれはフェイクだった。

 でもこれは、フェイクじゃない。

 溢れ出る憎悪そのもののような魔力が、フェイクじゃないと物語っている。


 大きな口が閉じられて、光が消えて、そして——


続く

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