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エイリーのおかげで魔力が回復して、頭がすっきりしてきた。
体も軽い。
「なぁ、」
リーダーは、倒れている十一人の仲間の前で堂々と腕を組んだ。
「もう一回言うが、この城を譲ってくれねぇか?」
「譲りませんし、どのみちあなたは殴ります」
最初から交渉の余地なんてない。
しかもエイリーに酷いことしやがったから、もうなおさらない。
「血気盛んなお姫様だな」
「血気盛んにさせる方が悪いと思うけどね」
「それもそう——」
——か、を目と鼻の先で聞いた。
一気に距離を詰めて、固く握った拳をリーダーの顔面に——
「——はぁッ!」
畑から土の壁が出現する。
どむ、と固い壁を殴ったような鈍い感覚があって、
「いっ……⁉︎」
腰が砕けそうになる。
だけどすぐに体勢を立て直した。
このまま砕いてやる!
ムキになって魔力を込めようとして——やめた。
ダメだ。
感情に流されるな。
エイリーがくれた命を、そんなしょうもないことで浪費するな。
拳を離して体勢を整える。
壁があるなら、砕かなくていい。
飛び越えればいいだけだ。
大人の背丈以上ある壁を、軽いジャンプで乗り越える。
ヤツは壁の向こう側にいた。
壁の上から拳を振り上げる俺と、見開いた目で俺を見上げるリーダー。
今度こそ、その顔面を殴り抜く。
拳にありったけの魔力を込めろ。
魔力をまとった重たい拳が顔面を捉えるその瞬間、
「……へっ」
ヤツは口角を歪ませた。
俺の拳を手のひらで受け流すと手首を掴んで——
「——はぁッ!」
落下スピードも拳の威力もすべて受け流される。
逆にそのすべてを活かされて、腰の入った鋭い背負い投げで投げ飛ばされる。
世界がぐるんと一回転して、青空がスローに見えた。
あぁ、雲一つないな——
「がはっ……!」
固い音を立てて、コンクリートの床に背中から叩き付けられた。
背中側が押し潰されて、血液がすべて体の表面に集まるような錯覚——
くそっ、土の上だと思って油断していた。
まさかこんなところにコンクリートが——
——ん?
激痛で目の前がちかちかする中、俺はその違和感に気付いた。
コンクリート?
畑の真ん中で?
仰向けに倒れたまま、パワードスーツの指先を微かに動かしてみる。
かしゃかしゃと、固い物同士が擦れるような音がする。
これ、土じゃない?
でも畑の真ん中に何でコンクリートが?
まさか、能力で土をガチガチに押し固めたのか——
「——うぐっ……!」
リーダーは、青空をバックにしているとは思えないほど醒めた顔で、俺の腹を踏み付けて、踏みにじる。
まるでタバコの火でも消すみたいに——
口から、今朝食べたご飯が溢れ出した。
喉が焼けるように熱くて、口の中が苦い。
腹を踏まれて息ができない——
「正直、お前よりあのメイドの方が厄介だった」
そう言いながら、エイリーの方を見もしない。
感情の読めない声色で淡々と続ける。
「アイツは、俺達の魔力の異常に瞬時に気付いた。察しのいいガキだったな」
「……過去形で言わないでくれるかな」
まるで死んでるみたいに言うな。
あの子にはこれから、明るくて楽しくて幸せな人生が待ち構えてるんだ。
こんなしょうもないところで死ぬわけがない。
「もうすぐ死ぬガキに対して、言葉を選ぶ必要があるか?」
「……」
もうダメだ、コイツと真面目に会話をしても無駄だ。
根本から考えが違うんだ。
考えるな。
別のことを考えろ。
確かに、エイリーは察しがいい。
それは確かだ。
エイリーが魔力の話をした時、リベロ王はニヤッとしていた。
コイツらの魔力が低いことを瞬時に見抜いたエイリーは、やっぱりすごかったのだ。
すごいのだ。
そしてそれは、コイツが俺より弱いという何よりの証拠だ。
「何にせよ、あのガキが先にくたばってくれてよかった。お前は大したことないが、アイツは厄介だったからな」
こんな場面でも、エイリーが褒められていると嬉しく思ってしまう。
「アイツの戦いは洗練されてたが、お前は荒削りだ。状況の見立てこそいいが、行き当たりばったりすぎる」
今だってそうだろ? と言いながら、俺の腹をもう一度強く踏みつけた。
腹からこみ上げた熱い塊が、喉を焼いて再び口から漏れ出す。
「……何? 師匠にでもなってくれるの?」
苦い臭いがする口で軽口を叩いた。
「悪いが、可愛げのない弟子は取らないようにしてんだ」
「ふうん、じゃああの人達は、ああ見えてみんな可愛げがあるんだ?」
魔力欠乏症で倒れている十一人の男達。
ヤツらはコイツの弟子なんだろうか?
「ふん、可愛げもねぇし弟子でもねぇよ。だが、それでもよ、」
俺を踏み付ける足に力が込められる。
「それでも、仲間なんだよ。あの馬鹿共全員な」
「ふうん、大人が仲間集めてやることがお城の襲撃? しょうもないね。謙遜じゃなくてマジで馬鹿共じゃん——」
——顔面の骨が揺れた。
頭蓋骨から脳味噌が飛び出るほどの衝撃。
首の骨がグギリと鈍い音を立てる。
鼻がじんじんする。
視界がぐわんぐわんと揺れる。
歯が頬の肉に刺さる。
苦い臭いに鉄の臭いが追加される。
「……女の子(※♂)の顔を蹴るなんて、いい趣味してんじゃん」
「安心しろ。灰になればガキもババアも変わりゃしねぇよ」
……あぁ、ヤバいな。
コイツ全然手加減する気ないぞ。
それにコイツ、ここまでほぼ魔力を消費してない。
最初に土のシャチを出して、さっき土の壁を出して、そして地面を固くしただけだ。
人を、殺し慣れてる——
その感覚があった。
例えば一概にイジめっ子といっても、周りに流されて何となく蹴ったり殴ったりするやつがいる。
こういうやつらは、全然大したことない。
でも中には、人に対する暴力に異常なほど慣れているやつがいた。
抵抗がまったくないやつがいた。
この男は、その慣れの成れの果てだ。
戦うこと、イジめること、殺すことに慣れている。
そして躊躇がない。
「……諦めはついたかよ?」
「まさか。お姫様は諦めが悪いってご存知ない?」
「知らねぇな。お姫様に知り合いがいねぇし、唯一の知り合いも今から死ぬんでな」
軽口を叩きながらも、俺を踏み付ける足の力は絶対に緩めない。
隙がなさすぎる。
キャンディーなんて絶対に取らせてもらえないだろうし、取った瞬間、腕を折られるという確信がある。
コイツの顔面に歯車を投げ付けたとしても、確実に弾かれる。
なら——
「——っらぁっ!」
仰向けのまま、両手に持った歯車で押し固められた土を殴る。
岩でも殴ったかのように、固い破片が周囲に飛び散る。
そして固いからこそ、少し砕けたら足場は不安定になる。
「うぉっ——」
激しい目くらましと足場崩し。
それでも足をどかさなかったコイツの精神は大したものだけど、少し、ほんの少しだけその力は緩んだ。
少しだけ浮いた足を両手で掴む。
そして、
「このっ……!」
怒りを込めて持ち上げて——バットみたいに振って投げ捨てた。
仰向けに寝た状態じゃ大して力が入らない。
だからそこまで遠くには飛んでいかなかった。
だけどこれで形勢逆転だ。
すぐに跳ね起きて、ぶっ飛んでいくリーダーを追いかける。
地面に叩き付けられる前に、俺がお前を殴る。
今度こそ顔面をぶん殴って、お前を地面に叩き付ける——
「——『大地からの暴君』!」
拳が当たる瞬間、リーダーが叫んだ。
ヘドロを頭から浴びせかけられたような、凄まじく醜悪な魔力が急激に増幅していく。
ずん、と大地が軋む。
リーダーの真下の地面が、ぽっかりと口を開けた。
真っ暗で、底の見えない穴——それは巨大なシャチの口だった。
「またかよ……!」
さっきのイヌと似てるけど、あれはフェイクだった。
でもこれは、フェイクじゃない。
溢れ出る憎悪そのもののような魔力が、フェイクじゃないと物語っている。
大きな口が閉じられて、光が消えて、そして——
続く




