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「いや、だからさ……」
この男は真面目な顔して何を言ってるんだ?
そんなことを言われて『はぁそうですか』なんて答えると思ってるんだろうか。
「お気持ちは分かりますけど、僕達もこう言うしかないんですよね」
変なことを言っている自覚はあるようで、男は困ったように頭を掻く。
そして、
「あーあ、」
かけていたメガネを外して、腕を後ろに回した。
くつろいでいるようにすら見える。
さっきはウサギの能力者が落ちていったのを見て怒ってたのに……。
アイツが助かったという確信を得たのか、それとも怒っても仕方がないと割り切っているのか、いまいち分からない。
「だいたい、あなた達は何なの? 何でこの城を襲うの?」
「……居場所を、作るためですかね」
「居場所?」
何だそりゃ。
そんなもん、好きな場所に家建てて勝手に仲良く暮らせよ。
わざわざ暴力で人の家を奪おうとするなよ……。
いや、もしかするとこの世界、好きな場所に住めるなんてことはないのか?
そういえば、あの電気ビリビリ男は何で俺達を襲ったんだろうか?
もしかすると、アイツもこの城を奪おうとしていたのか?
「……事情は知らないけど、やっぱり『はいどうぞ』とは言えないよ」
まぁあの国王夫妻は畑仕事さえできれば楽しく生きていけそうだけど、俺はそういうわけにいかない。
エイリーと、そして可愛いメイドさん達とに囲まれて楽しく生きてた方がいいに決まってる。
「ですよね……」
「あのさ、」
聞きたかったことを聞いてみる。
「このままで、本当に勝てると思ってるの?」
「ストレートですね……」
男は苦笑いして、
「勝てると思ってきたんですよ」
とため息を吐いた。
「普通に考えれば、こちらは霊獣級の能力者が十二人、そっちは四人。どう考えたってこっちが勝つじゃないですか」
「そうだね」
「それに僕達、リベロ王とプリート王妃の能力を調べ上げて、対策してきたんですよ」
対策——
まぁそりゃそうだよな。
調べられるものは何でも調べてから襲ってくるよな。
「なのに実際出てきたのは何の情報もないあなたとメイドで、しかもどっちもナインで、おまけにあなたはデュアルスキルどころかマルチスキルで……やってらんないですよね」
相変わらずくつろいだ格好のまま、もう一度ため息を吐いた。
完全に諦めてるように見える。
ならもうとっとと帰ってくれないかな……。
「それに、あなたとあのメイド、おかしいですよ」
「へ?」
盗賊に『おかしい』と言われるようなことはしてないと思うんだけど……。
「何か、魔力多すぎませんか?」
「へ?」
同じリアクションを二回繰り返してしまった。
「多いって……霊獣級だけど?」
まぁ妖精級の人達よりは多いんだろうけど、精霊級、精霊王級には負けるはずだ。
思ったことをそのまま伝えると、
「霊獣級にしてはやけに多い、ってことですよ」
と男は続ける。
「霊獣級って、だいたい魔力が十ぐらいって言われてるじゃないですか」
あ、エイリーが前に言ってたのって世界の共通認識だったんだ。
「でもだいたい十とはいえ、実際には八から十二ぐらいのブレがあるんですよ。そして、実際は十二の人なんてまずいません」
それもエイリーが言っていた。
まぁ魔力が血液量みたいなものだと考えるのであれば、人によってブレがあるのも当然だろう。
「でも、あなたとあのメイドは、明らかに十二どころじゃないんです」
「そうなの?」
「はい。何かあなた達、感覚的に二十ぐらいあるんですよ」
二十?
通常の霊獣級の二倍ってこと?
もしそれが本当なら、相変わらず精霊級には敵わないけど、同格の霊獣級が相手なら余裕を持って相手できるということになる。
「あなた達も何かしてるんですか?」
『も』……?
あなた達『も』という表現は気になるけど、
「何かって……」
この一週間、何をしてたか考えてみる。
朝起きて、おめかしして、ご飯を食べて、能力の勉強して、ご飯を食べて、お昼寝して、おやつを食べて、遊んで、能力の勉強して、ご飯を食べて、お風呂に入って、髪の毛を綺麗にしてもらって、温かいふかふかのベッドで寝る……。
国王夫妻は俺が能力の勉強をする代わりに畑仕事をしてるし、メイドさん達は洗濯や料理をしてくれている。
「えっと……健康的な生活……?」
それぐらいしか思い付かない。
魔力を血液だと考えれば、健康的な生活をしていれば体も健康的になっていくだろうし、それで魔力量が増えるのも理解できる。
だけど、魔力ってそんな方法で増やすものなのか?
シャドーの能力者が『毎日健康的な生活を心がけています! 今朝もランニングしてきました!』とか言ってたら嫌じゃない?
「そんなまさか」
俺の考えを、男は緩く首を振って否定する。
「魔力の増強なんて『よっぽどの外的要因』がない限り無理なんですよ」
確か、エイリーも無理だと言っていた。
魔力は後天的に増やせるものではなく、生まれもって決まったものだと——
「でも、あなた達は何らかの手段で増やしたとしか思えないほど魔力が多いんです」
「ふーん、何でだろうね? まぁ両親が強いからじゃない?」
テキトーに答えたら、
「親の能力は子に引き継がれませんよ」
咎められた。
「妖精級の両親から精霊級が生まれることはありますし、その逆もありえます。さすがに精霊王級や属性神王級の子ぐらいになると、高位ランクとして生まれる確率は高いそうですが……」
なるほど。
じゃあ、霊獣級の両親から生まれた俺が霊獣級なのは偶然なんだな。
そして、魔力量がやたら多いらしいのも……偶然?
というかエイリーがコイツらに対して『霊獣級にしては魔力が少ない』と言っていた。
だから『俺達が多い』んじゃなくて『コイツらが少ない』んじゃないか……?
そうだ、もしかしてコイツら『ちょっと弱い霊獣級』じゃなくて、『めっちゃ強い妖精級』なんじゃないか?
それこそ『よっぽどの外的要因』っていうのを使って——
「……さて、こんなもんですかね」
男はくつろいだ姿勢のまま続ける。
「僕ね、あの人達のこと、好きなんですよ」
龍は、ゆっくりとお城の方に帰ってきていた。
畑の上には相変わらず男達がいる。
「あの人達がいたおかげで、僕は何とかここまで生きてこれたんです」
「は、はぁ……」
いや、急にそんな自分語りされても知らないよ……。
「だからあの人達のためなら、死ぬ覚悟だってあるつもりです」
「私はあなたを殺す気なんてないし、お父様も殺さないと思うけどね」
「そうだとありがたいんですが——」
男は、両手を前に出した。
左手にはメガネ。
右手には——俺のポーチを持っている。
ポーチは、メラメラと音を立てて燃えていた。
男はそれを素手で掴んでいる。
さっきまでの穏やかな会話が嘘のように、その目は鋭い。
「時間は充分、稼げましたね」
口調は静かで冷静なのに、燃えたポーチを力強く握りしめている。
「ここまでの戦いで、あなたの能力にはこのポーチが必要なのは分かっています」
よく見ると、ポーチと一緒に黒い布を握りしめている。
あれは……ローブの切れ端?
もしかして、くつろいだフリをしてたのは時間稼ぎだったのか?
時間をかけて、メガネを使って陽の光を集める。
集める先は黒いローブの切れ端。
そこで生まれた火種を、俺のポーチに移す。
それを、手を焼きながら、喋りながらずっとやってたのか?
狂ってる——
「ポーチの中身が何かを確認する時間も余裕もなかったんですけど、さすがに燃やしてしまえば問題ないですよね」
龍がスピードを落としたのは、安全に会話するためじゃなかった。
風で火が消えないようにするためだったのだ。
「僕はあの人達が好きです。感謝をしています。だから死んでもこの手は離しません」
火は男の手首まで燃え広がっている。
目が据わっていた。
「僕達の、勝ちです」
炎は見る間に広がっていく。
白いポーチが黒く焦げていく。
もう、多少風が吹いたぐらいでは消えないぐらい燃え盛ってる。
「——くそっ!」
歯車を手に展開させて、男の腹に投げ付けた。
「グッ……!」
どぼん、と鈍い音がする。
それから少し遅れて、男の体はゆっくり傾いていき——
——そしてそのまま、龍から落ちていく。
俺も龍から飛び降りて、男を追いかける。
宣言通り、燃え盛るポーチをしっかり握りしめたまま落ちている。
手放さないっていうなら——こうするしかない。
「悪いのはお前だからな!」
手に持った歯車を、男の肩目がけて投げ付けた。
歯車は重力に従って猛スピードで加速していき——
「ぐあぁっ……!」
男の肩にヒットする。
肉と骨が歯車に断ち切られて、腕が千切れ、宙を舞う。
手を離さないっていうなら、こうするしかない。
そのポーチは俺がこの世界で生きていくための“命”そのものなのだ。
無理矢理にでも離してやるしかない。
悪いのは全部お前だ。
お前達だ。
こっちはずっと、正当防衛しかしてない。
男は肩から血を撒き散らしながら落ちていって、大量に積まれた柔らかい土の上に落下した。
盗賊の男達がこしらえたらしい。
そして俺は、
「——よっと、」
能力のおかげでスムーズに着地した。
一瞬遅れて落ちてきた腕をキャッチする。
気持ち悪いからすぐに投げ捨てた。
その腕は宣言通り、燃えてもなお、千切れてもなお、ポーチを握りしめたままだった。
土をかけて急いで鎮火する。
そして気持ち悪いけど指を無理矢理開いて、ポーチを回収した。
ポーチは血まみれだし土まみれだし焦げまくりだしで、もう使い物にならなさそうだ。
だけど中身のキャンディーは、開けた時の土で少し汚れたぐらいで、まったくの無傷だった。
「姫! ご無事ですか!」
エイリーが駆け寄ってくる。
「全然大丈夫だよ。それよりごめん、ポーチダメにしちゃった」
「そんなものはいくらでもいいのです!」
珍しくムキになって大きな声を出すエイリー。
それから、
「……いえ、姫の私物に『そんなもの』とは不適切でした。申し訳ありません」
と頭を下げた。
気遣ってくれているのが分かって嬉しい。
九人撃破。
残り三人。
続く




