表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/44

20

挿絵(By みてみん)


      20


 男達は残り五人。


 こっちは大きなケガこそないものの、魔力はだいぶ消費しているし、かなり手の内を見られている。

 イヌの能力者が戦闘前に『少しでも情報を引き出せるように健闘する』と言っていたけど、見事に仕事をされてしまったというわけだ。


 ここからはなるべく魔力の消費を少なく済ませたいけど、そういうわけにもいかないだろう。

 正直ここまでボロボロにされてるんだから、もうそろそろ諦めてほしいけど——


「まぁ……このメンツなら次は僕ですよね」


 残された五人の内、一人が一歩前に出た。

 声からして、だいぶ若そうな気がする。


「じゃあ、俺もいくとするかね」


 若い男の横に、もう一人が立った。

 そして、


「俺とお前なら、能力的にぶつからないだろ」


 土のウサギを出しながら、低い調子の声で言う。

 せわしくなく手をぶらぶらしたかと思えば、手のひらをズボンで擦っている。


 あっちはあっちで焦っているらしい。

 そりゃそうだよな。

 コイツらは仮に俺とエイリーを倒せたとしても、国を乗っ取りたいのであれば、リベロ王とプリート王妃も倒さなきゃいけないのだ。

 なのにもう仲間は五人しかいないわけで——


「じゃあいくか!」


 ウサギの能力者が声をあげる。

 すると周囲の土がもごもごと形を変えて、複数の土のウサギが出現した。


「お前ら、突っ走れ!」


 号令と共に、無数の土のうさぎ達が突進してくる。

 でもこれは、大したことない。

 たくさんいるということは、魔力が分散されているからだ。


 必要最低限の魔力で砕いていけばいい。

 生身で食らったら痛そうだけど、『操獣機巧ベースティア・フェローチェ(トッピング)】』の状態ならまったく問題ない。


 小さいゴムボールを弾くぐらいの力で、ぽんぽんと破壊していける。


 エイリーと霊獣の周りにもたくさん湧いてるけど、霊獣は鋼鉄のしっぽしか動かしてないし、エイリーもその場で冷静に対応していた。

 まぁ、こんな軽い攻撃で魔力を削らせてくれるなら安いものだ。


 走り寄ってきた二体をまとめて蹴り散らかして、後ろから飛びかかってきたやつを頭突きで破壊して、さらに飛びかかってきた三体を腕を振るって砕いて、正面からきたやつをパンチで——


「ぐあぁっ!?」


 ずどん、と腕に衝撃が走る。

 ゴムボールを殴ったつもりが、金属の塊だったような感覚——


 殴った腕が軋んで、腰が砕けそうになる。

 足に踏ん張りがきかない。

 二、三歩後ろによろめいて、転びかけた時——


「——姫!」


 エイリーが叫ぶ。

 魔力がたくさん込められた土のウサギが、俺の腰目がけて突進してくる。

 ダメだ、避けられない——

 ぶっ飛ばされるのを覚悟していると、


「……え?」


 思っていた衝撃はこなかった。

 その代わり、


「あっ……!」


 腰に付けていた、キャンディーのポーチがない。


 猛スピードで撤収していくウサギ達の一匹が、俺のポーチをくわえている。

 周囲のウサギ達はその場で次々にぼろぼろと崩れて、土になる。

 ポーチをくわえている一匹に魔力が集中して、急加速していく。


「姫!」


 ガシャガシャと音を立てて、エイリーと霊獣がやってきた。

 霊獣の尻尾が俺に巻き付いて背中に乗せてくれる。

 そのまま急加速して、ウサギを追いかける。


「お怪我はありませんか?」

「大丈夫! だけどポーチ盗まれちゃった!」

「え?」


 エイリーは後ろから俺の腰を見て、


「……追いかけましょう!」


 声をこわばらせて、霊獣をさらに加速させた。


「あとは頼んだぜ!」


 ウサギの能力者が、若い男に俺のポーチを手渡す。


「分かりました、いきましょう」


 のんきに話してるけど、このまま突っ込んでやるからな!


 若い男はこっちをちらっと見ると、落ち着いた様子で手を挙げた。

 すると——


「なっ!?」


 大地の奥から地響きが轟いて、畑の中から巨大な龍が出現した。

 どどどどど、と地響きを轟かせながら、砂ぼこりと小石をまき散らして飛んでいく。


「よっと!」


 ウサギの能力者が、土のウサギと共に龍に飛び乗る。

 若い男も軽い身のこなしで飛び乗って、龍は一気に急上昇していく。


 ——逃げられる!


「エイリー! 私のこと霊獣で投げて!」

「そんな、危な——」

「——いいから早く!」


 エイリーは少し悩んだ後、


「……お願いします!」


 霊獣に指示を出す。

 金属製のしっぽが俺に巻き付いて、


「よろしく!」


 俺の号令でフルスイングする。

 空中に向かって大砲のような勢いで撃ち出される。

 龍の尻尾に急接近して、


「——よし!」


 何とか掴むことができた。

 猛スピードで空を飛ぶ龍の背中から振り落とされないように、這いつくばりながら進む。


「なっ!?」


 ウサギの能力者が俺に気付いて叫んだ。


「おい、アイツ乗ってきてるぞ!」


 龍の頭で操縦をしていた若い男は、一度こちらをちらっと振り返って、前を見て、


「——えっ!?」


 もう一度俺を見て固まっている。

 そして、手には俺のポーチを持っていた。


「な、何で追い付けたんだよ……!」


 龍は急速に減速して、高度を下げていく。

 動揺してるらしい。


「返してもらうよ!」


 そのためにもまずは、ウサギの能力者を倒さないといけない。


「ははは、落ちたら一発で死んじまうぞ! どうする気だよ!」


 足の歯車が、獰猛にガチガチと音を鳴らす。


「どうするもこうするも——」


 龍の背中を蹴る。

 拳を振り上げながら、全力で走り寄る。


「真っ向勝負ってことか! はは、嫌いじゃねぇぞ!」


 ウサギの能力者は腰を落として身構える。

 土のウサギにも魔力が集まっていって——


「——え?」


 衝突する瞬間、俺はウサギの能力者に向かってダイブした。


 脇をすり抜けて背中を取る。

 俺は龍の頭側に、ウサギの能力者は尻尾側に——


「悪いのはお前達だからな!」


 魔力を込める。

 全身の歯車が、ガチガチと音を鳴らす。

 そして——


「——はぁっ!」


 両腕を振り上げて、龍の背中に向けて全力で振り下ろした。


 龍の体が、頭と尻尾で真っ二つになる。


 俺と若い男を乗せた頭側は空へ、そして——


「——うわぁあああああっ!」


 ウサギの能力者は、崩れていく尻尾側と共に地面に落ちていく。


「……結構エグいことするんですね、お姫様」


 風でフードが取れて、顔が見えた。

 予想通り、若い男だった。

 生前(?)の俺と同じぐらいの歳だろうか?

 だけど生前(?)の俺とは違って、端正な顔をしていた。


 そんな顔を歪ませて、険しい視線を隠そうともしない。

 怒鳴るのを必死に抑え込んでいるように見えた。

 でも、お前が怒るのはおかしくないか?


「悪いのは全部そっちじゃん。こっちだって生活かかってんだからマジになるよ」


 俺とエイリーは100%被害者なわけで、責められるいわれは一切ない。


 俺がそんなことを言うのが意外だったのだろうか。


「……まぁ、そうですね」


 男は静かにそう呟いた。

 冷静になったように見えたところで、地面を指さす。


「あの人、助けにいかなくていいの? この高さなら、うまいこと能力を使えてたら生きてるかもよ?」

「行きたいのは山々なんですが、その前に——ちょっと、あなたと話がしたいんです」

「は……?」


 話?

 意外なことを言い出した。

 また不意打ちする気じゃないだろうな?


 俺の警戒心が伝わったのだろうか、


「……分かりました」


 男はその場に座った。

 そして龍の高度を下げて、スピードも一気に下げる。

 それで気付いたけど、エイリーと霊獣はずっと俺達を追いかけ続けていた。


「これで、信用してもらえますか?」

「……ついでにポーチも返してくれない?」

「それはできません。ポーチを返したら、あなたはここを飛び降りていくでしょう?」


 ううむ……。

 いったい何なんだ……?


「……分かったよ、」


 埒が明かないから諦めて、俺もその場に腰を下ろした。


「で、話って?」

「さっきもうちのリーダーが言ってたと思うんですが、」


 男は、端正な顔で、真面目な顔をして、馬鹿みたいなことを言う。


「この城を、譲ってください」


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ