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男達は残り五人。
こっちは大きなケガこそないものの、魔力はだいぶ消費しているし、かなり手の内を見られている。
イヌの能力者が戦闘前に『少しでも情報を引き出せるように健闘する』と言っていたけど、見事に仕事をされてしまったというわけだ。
ここからはなるべく魔力の消費を少なく済ませたいけど、そういうわけにもいかないだろう。
正直ここまでボロボロにされてるんだから、もうそろそろ諦めてほしいけど——
「まぁ……このメンツなら次は僕ですよね」
残された五人の内、一人が一歩前に出た。
声からして、だいぶ若そうな気がする。
「じゃあ、俺もいくとするかね」
若い男の横に、もう一人が立った。
そして、
「俺とお前なら、能力的にぶつからないだろ」
土のウサギを出しながら、低い調子の声で言う。
せわしくなく手をぶらぶらしたかと思えば、手のひらをズボンで擦っている。
あっちはあっちで焦っているらしい。
そりゃそうだよな。
コイツらは仮に俺とエイリーを倒せたとしても、国を乗っ取りたいのであれば、リベロ王とプリート王妃も倒さなきゃいけないのだ。
なのにもう仲間は五人しかいないわけで——
「じゃあいくか!」
ウサギの能力者が声をあげる。
すると周囲の土がもごもごと形を変えて、複数の土のウサギが出現した。
「お前ら、突っ走れ!」
号令と共に、無数の土のうさぎ達が突進してくる。
でもこれは、大したことない。
たくさんいるということは、魔力が分散されているからだ。
必要最低限の魔力で砕いていけばいい。
生身で食らったら痛そうだけど、『操獣機巧【着】』の状態ならまったく問題ない。
小さいゴムボールを弾くぐらいの力で、ぽんぽんと破壊していける。
エイリーと霊獣の周りにもたくさん湧いてるけど、霊獣は鋼鉄のしっぽしか動かしてないし、エイリーもその場で冷静に対応していた。
まぁ、こんな軽い攻撃で魔力を削らせてくれるなら安いものだ。
走り寄ってきた二体をまとめて蹴り散らかして、後ろから飛びかかってきたやつを頭突きで破壊して、さらに飛びかかってきた三体を腕を振るって砕いて、正面からきたやつをパンチで——
「ぐあぁっ!?」
ずどん、と腕に衝撃が走る。
ゴムボールを殴ったつもりが、金属の塊だったような感覚——
殴った腕が軋んで、腰が砕けそうになる。
足に踏ん張りがきかない。
二、三歩後ろによろめいて、転びかけた時——
「——姫!」
エイリーが叫ぶ。
魔力がたくさん込められた土のウサギが、俺の腰目がけて突進してくる。
ダメだ、避けられない——
ぶっ飛ばされるのを覚悟していると、
「……え?」
思っていた衝撃はこなかった。
その代わり、
「あっ……!」
腰に付けていた、キャンディーのポーチがない。
猛スピードで撤収していくウサギ達の一匹が、俺のポーチをくわえている。
周囲のウサギ達はその場で次々にぼろぼろと崩れて、土になる。
ポーチをくわえている一匹に魔力が集中して、急加速していく。
「姫!」
ガシャガシャと音を立てて、エイリーと霊獣がやってきた。
霊獣の尻尾が俺に巻き付いて背中に乗せてくれる。
そのまま急加速して、ウサギを追いかける。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫! だけどポーチ盗まれちゃった!」
「え?」
エイリーは後ろから俺の腰を見て、
「……追いかけましょう!」
声をこわばらせて、霊獣をさらに加速させた。
「あとは頼んだぜ!」
ウサギの能力者が、若い男に俺のポーチを手渡す。
「分かりました、いきましょう」
のんきに話してるけど、このまま突っ込んでやるからな!
若い男はこっちをちらっと見ると、落ち着いた様子で手を挙げた。
すると——
「なっ!?」
大地の奥から地響きが轟いて、畑の中から巨大な龍が出現した。
どどどどど、と地響きを轟かせながら、砂ぼこりと小石をまき散らして飛んでいく。
「よっと!」
ウサギの能力者が、土のウサギと共に龍に飛び乗る。
若い男も軽い身のこなしで飛び乗って、龍は一気に急上昇していく。
——逃げられる!
「エイリー! 私のこと霊獣で投げて!」
「そんな、危な——」
「——いいから早く!」
エイリーは少し悩んだ後、
「……お願いします!」
霊獣に指示を出す。
金属製のしっぽが俺に巻き付いて、
「よろしく!」
俺の号令でフルスイングする。
空中に向かって大砲のような勢いで撃ち出される。
龍の尻尾に急接近して、
「——よし!」
何とか掴むことができた。
猛スピードで空を飛ぶ龍の背中から振り落とされないように、這いつくばりながら進む。
「なっ!?」
ウサギの能力者が俺に気付いて叫んだ。
「おい、アイツ乗ってきてるぞ!」
龍の頭で操縦をしていた若い男は、一度こちらをちらっと振り返って、前を見て、
「——えっ!?」
もう一度俺を見て固まっている。
そして、手には俺のポーチを持っていた。
「な、何で追い付けたんだよ……!」
龍は急速に減速して、高度を下げていく。
動揺してるらしい。
「返してもらうよ!」
そのためにもまずは、ウサギの能力者を倒さないといけない。
「ははは、落ちたら一発で死んじまうぞ! どうする気だよ!」
足の歯車が、獰猛にガチガチと音を鳴らす。
「どうするもこうするも——」
龍の背中を蹴る。
拳を振り上げながら、全力で走り寄る。
「真っ向勝負ってことか! はは、嫌いじゃねぇぞ!」
ウサギの能力者は腰を落として身構える。
土のウサギにも魔力が集まっていって——
「——え?」
衝突する瞬間、俺はウサギの能力者に向かってダイブした。
脇をすり抜けて背中を取る。
俺は龍の頭側に、ウサギの能力者は尻尾側に——
「悪いのはお前達だからな!」
魔力を込める。
全身の歯車が、ガチガチと音を鳴らす。
そして——
「——はぁっ!」
両腕を振り上げて、龍の背中に向けて全力で振り下ろした。
龍の体が、頭と尻尾で真っ二つになる。
俺と若い男を乗せた頭側は空へ、そして——
「——うわぁあああああっ!」
ウサギの能力者は、崩れていく尻尾側と共に地面に落ちていく。
「……結構エグいことするんですね、お姫様」
風でフードが取れて、顔が見えた。
予想通り、若い男だった。
生前(?)の俺と同じぐらいの歳だろうか?
だけど生前(?)の俺とは違って、端正な顔をしていた。
そんな顔を歪ませて、険しい視線を隠そうともしない。
怒鳴るのを必死に抑え込んでいるように見えた。
でも、お前が怒るのはおかしくないか?
「悪いのは全部そっちじゃん。こっちだって生活かかってんだからマジになるよ」
俺とエイリーは100%被害者なわけで、責められるいわれは一切ない。
俺がそんなことを言うのが意外だったのだろうか。
「……まぁ、そうですね」
男は静かにそう呟いた。
冷静になったように見えたところで、地面を指さす。
「あの人、助けにいかなくていいの? この高さなら、うまいこと能力を使えてたら生きてるかもよ?」
「行きたいのは山々なんですが、その前に——ちょっと、あなたと話がしたいんです」
「は……?」
話?
意外なことを言い出した。
また不意打ちする気じゃないだろうな?
俺の警戒心が伝わったのだろうか、
「……分かりました」
男はその場に座った。
そして龍の高度を下げて、スピードも一気に下げる。
それで気付いたけど、エイリーと霊獣はずっと俺達を追いかけ続けていた。
「これで、信用してもらえますか?」
「……ついでにポーチも返してくれない?」
「それはできません。ポーチを返したら、あなたはここを飛び降りていくでしょう?」
ううむ……。
いったい何なんだ……?
「……分かったよ、」
埒が明かないから諦めて、俺もその場に腰を下ろした。
「で、話って?」
「さっきもうちのリーダーが言ってたと思うんですが、」
男は、端正な顔で、真面目な顔をして、馬鹿みたいなことを言う。
「この城を、譲ってください」
続く




