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「……次は誰がいく?」
気を失ったヘビの能力者を土の上に寝かせて、一人の男が静かに問う。
だけど、誰も答えない。
「それじゃあ、次は俺がいくよ」
立候補者がいないのを見て、男はこれから運動でもするかのようにぐっと伸びをする。
「まぁ、勝てないと思うから期待はしないでくれ。でも、少しでも情報を引き出せるように健闘する」
屈伸までして「よし、」と気合を入れた後、
「お前達、きてくれるか?」
と二人の男を指差した。
「……あーあ、ご指名とあれば断れねぇな」
「何だよ、黙ってればこのまま誰かが倒してくれておいしいところ持っていけると思ってたんだがいらんことするなよお前」
呼ばれた男達が前に出る。
どちらも苦笑いしているものの、嫌そうではなさそうだった。
腕に自信があるのかもしれない。
「リーダー、この戦闘だけは作戦から反れて、俺のやり方でやらせてもらってもいいか?」
「好きにしろ」
「どうも」
ふっ、と短く息を吐いた後、
「よし、いくぞ——戦闘準備」
男が手をかざすと、土のイヌが出現した。
両サイドに控える男達も、それぞれがサルとトリを出す。
——あれ?
「エイリー、何かおかしくない?」
「何がです?」
「何で急に、三人一気にこようとしてるの?」
コイツらは、俺達にちょっと劣る魔力をカバーするために、土に全力の魔力を込めている。
だから味方同士でぶつかったら、魔力欠乏症になって一撃で倒れてしまう。
それを恐れて今まで一人ずつできてたのに——
「恐らくですが、」
エイリーは少し考えてから続ける。
「恐らく、連携に自信がある三人なのだと思います。指揮もあのイヌの男が執るようですし、今までとは違うことをしてくる可能性があります」
「つまり引き続き気は抜けないってことね」
「そういうことです」
でも逆に考えれば、さっきトラとウマを倒したようにフレンドリーファイアさせれば、こっちの魔力を消費しなくても勝てるということだ。
「作戦会議はもういいかい?」
イヌの能力者が静かに訊ねる。
「えぇ、大丈夫です」
そんな男に、エイリーは律義に答えた。
「そうかい。まぁ、こっちには作戦らしい作戦もないんだけどね」
そして短く息を吸って——
「セット——交戦開始!」
サル、トリ、イヌが真っすぐ駆け出してくる。
——真っ向勝負ってことね!
「そりゃ作戦もないわけだ!」
ガチガチガチ、と足の歯車が獰猛に鳴る。
「——はぁっ!」
そして、大量の土を巻き上げながら——
「まずはお前だ!」
ダーツのように飛んでくるトリを、真正面から殴り付ける。
コイツは破壊力もあるし、空を飛ばれるのも厄介だ。
今度こそ破壊する!
振り上げた拳が当たる直前で、
「うわっ!?」
視界がなくなった。
トリが魔力を失ってただの土になって、目に入った。
目潰しかよ……!
顔を振って土を払おうとして——
「——っ……!」
背後から、膨大な悪意を感じた。
ヘラヘラ笑いながら首筋に包丁を突き立てる変質者がいるような、最悪の感覚だ。
間違いなく、真っすぐこっちに向かってきている。
なのに目は見えないしガードも間に合わない——
「くそっ……!」
ガチガチガチ、と足の歯車が音を鳴らす。
そして、思いっきり空に向かって飛びあがった。
顔に風が当たる。
土が吹き飛んでいって、目はまだ痛いけど視界は取り戻した。
あのトリ、どこ行った?
——周囲を見渡すと
「……さすがトリってわけね!」
空高く飛んだ俺よりさらに上にいた。
陽の光をバックに、そのくちばしを俺に突き立てようと垂直に迫ってくる。
このまま受け止めて一緒に地面に落ちれば倒せるはずだ。
だけどコイツらは、攻撃を受ける直前に魔力を解除してしまう。
そうすると、渾身の力で殴り付けようとするこっちばっかり魔力を消費することになる。
魔力の総力では、俺達は圧倒的に不利なんだ。
迂闊に浪費するな。
どうすればいい?
よく考えろ。
よく——
——よく考えてる時間なんてない!
トリのくちばしが俺の眼球を捉える直前、反射的に掴んだ。
そのまま揉みくちゃになって落ちていく。
このまま一緒に落ちていけば、落下ダメージでトリは倒せる。
でも俺も変身しているとはいえ無傷ではいられない。
このトリは玉砕覚悟で俺にダメージを入れるつもりなのか?
それとも、また直前で消えるのか?
どっちだ——
地面が目前に迫った時、
「——なっ!?」
畑に大きな穴が開いた。
穴の周りがもごもごと隆起して——巨大なイヌの顔になった。
暗くポッカリと空いた穴は、イヌの口——
ダメだ、もう考えてる時間はない。
「見せてやる——最低最悪の"真の力"を!」
トリのくちばしを掴んだまま、キャンディーを切り替える。
そして——
「——『絶望の終末【着】』!」
両腕に水と土が展開する。
それらは混ざり合って固まって泥になって、一気に膨張して——巨大なアームになった。
「すべてを飲みこむ絶望の力、真っ向から受けてみろ!」
真下に待ち構えるイヌの顔面を目がけて、両腕を振り上げて、全身を反らして、土臭い空気を全力で吸い込んで——
「——ブチ砕け!」
どん、という衝撃と共に耳がおかしくなった。
気圧が狂う。
土や小石が大量に宙を舞う。
地面がえぐれて巨大なクレーターができて——
——なのに何でこんなにも手ごたえがない?
確かに土は殴り付けた。
俺の攻撃は確実にイヌの顔面を捉えて、破壊した。
なのに、ネズミやヘビを倒した時のような手ごたえがない。
水がたくさん入っている袋を殴ったつもりが、空気ばっかりでヘニャヘニャだったような——
まさか——フェイクか?
あんな大きな顔を展開させたほどの魔力だ。
フェイクなわけがない……と思ったけど『ただイヌっぽい形を作るだけ』なら、もしかしてそこまで魔力はいらないのか?
ただのハリボテだったのか——
「そいつぁ危ねぇ能力だな!」
気付けば、握りしめていたはずのトリがいなくなっていた。
そして——
「——ぐあっ……!」
トリの一撃をわき腹に衝撃を食らって、ぶっ飛ばされる。
『操獣機巧【着】』と違って、『絶望の終末【着】』はパワードスーツじゃなくてただの魔女の姿だ。
だから、ほぼ生身にダメージを食らったようなものだ。
脇腹が熱い。
肋骨は折れてないけど、打ち身みたいになっている。
地面に叩き付けられた衝撃で臓器も脳ミソも揺れて、くらくらする。
とりあえず急いで『操獣機巧【着】』に切り替えようとして、
「あ、そうか、」
あることに気が付いて、やめた。
そして代わりに——
「おい!? また姿が変わりやがったぞ!」
サルの能力者が叫んだ。
見れば、その男とエイリー、土のサルと霊獣が交戦している。
あっちはあっちで大変らしい。
なら、こっちのことはこっちでやらないとな!
ジーナからコピーさせてもらった『ちょっとお昼寝【着】』——
キスした時に言っていた『黒翼の医師団』が何かは分からないけど、これで回復ができるはずだ。
全身が真っ黒なナース服に変身して、痛む脇腹に手を当てる。
魔力を込めると、痛みが急速に引いていくのが分かった。
「はは、こりゃすごいな……!」
ジーナが『私の能力はコピーし得だと思いますけどね』と言っていた理由が、文字通り体で理解できた。
魔力を大きく消費するし、キャンディーも一気に小さくなったけど、もう脇腹の痛みはほぼない。
とりあえず、今度こそ『操獣機巧【着】』に切り替える。
実戦を交えた結果、だんだん分かってきた。
『操獣機巧【着】』は攻防一体のバランス型。
『絶望の終末【着】』は防御を完全に捨てた攻撃型。
だから、戦闘中は基本的には『操獣機巧【着】』の姿でいた方がよさそうだ。
そしてその後、戦況に応じてキャンディーを切り替えるべきなんだろう。
「ホーリーで回復っつってもどうせ回復なんて何度もできやしねぇだろうし限度があるんだろ?」
トリの能力者の男が早口でまくし立てる。
「なら、俺達とお前達、どっちが先に力尽きるかの勝負だな!」
再び、トリが猛スピードで突っ込んでくる。
どうせ、こっちの拳に合わせてまた魔力を解除するんだろ?
でも、万が一そのまま突っ込んできたとしたら、今度こそ全身がバラバラになる——
——そうか。
自然を味方に付けるということ——
水や土だけじゃない。
重力も慣性も、すべてが自然だ。
「……はっ!」
向かってくるトリの方に飛び込んだ。
トリは猛スピードで俺の背中スレスレのところを飛んでいく。
そしてそのまま、通り過ぎていく。
そうだよな——いきなり止まれないよな?
トリは翼を広げてブレーキをかける。
そうだ、さっきもこうやって止まってた。
ということは次は、
「クソッ……!」
魔力を解除して、バラバラの土になるはずだ。
俺は畑の上にうつぶせで着地する。
さぞ無防備な背中だろう。
「今度こそ突き刺してやる!」
トリの能力者が叫ぶと共に、背後から凄まじい魔力が迫ってくる。
姿は見えないけど、充分すぎるぐらいに分かる。
「姫!」
エイリーが叫んで——
「——今度こそ捕まえたぞ」
『絶望の終末【着】』の泥のアームが展開する。
アームとはいえ、泥の塊だ。
腕じゃ曲がらないような方向に曲がる——
「何ッ!?」
俺の背中でばちん、と音を立てて、トリが潰れた。
「ぐあっ……」
それと同時に、能力者の男も膝をついてその場に倒れる。
今のは、確かに感触があった。
確実に仕留めたという感覚が——
だけど喜んでいられない。
すぐに『操獣機巧【着】』に切り替えて、エイリーの元へ駆け出す。
「何でただの子どもがこんなに強ぇんだよ……!」
サルの能力者は、手に歯車を持ったエイリー相手に苦戦していた。
霊獣はずっとサルとやり合ってるから、本当に正真正銘でタイマンしている。
これは、むしろ霊獣を助けにいくべきか?
そう判断して行き先を変えた瞬間、
「うわっ!」
土の中からイヌが現れた。
まるで『お前の相手はこっちだ』と言わんばかりに——
顔面に飛びかかってきたのを、身を反らして避ける。
だけど、トリとは違って器用に方向転換して襲いかかってくる。
どうする?
また殴るか?
でもさっき、コイツはめちゃくちゃ大技に見せかけて俺の魔力を無駄撃ちさせてる。
そういうタイプの戦い方をしてくるヤツだとしたら——
「連携が得意っていうなら——」
俺はエイリーの方に向かって駆け出す。
連携が得意っていうなら、混戦状態でうまく力を発揮できるか見せてもらおうじゃないか。
混戦状態を意図的に作るために、サルの霊獣を殴り付ける。
まるで土嚢を殴り付けたような感覚だ。
コイツには確実に魔力が詰まっている。
軽く殴り付けただけじゃびくともしてない。
そりゃそうか。
能力者本人は、あっちでエイリーと格闘してるのだ。
このサルの魔力を、状況に応じて調節するなんて器用なことができるはずない。
ということは、今ここでコイツを潰せたら勝ちなのでは……?
とはいえどうやる?
さっきみたいに抱き付かれたら、今度こそ体が握り潰される。
だから迂闊に近寄りたくない。
とはいえ時間をかけてちょっとずつ削っていってもキリがない。
そして魔力も温存したい——
「——!」
すべての問題を解決する方法が思い浮かんだ。
だけど、それをやっていいのかが分からない。
さすがに本人に訊かないと——
「ちょっとごめんよ!」
「ぐあっ!?」
エイリーと交戦中の男の腹を蹴って、ちょっと遠くに吹っ飛ばす。
イヌが迫って来るまでのわずかな時間で、エイリーに訊いた。
近付かず、一気に倒せて、魔力も温存する方法だ。
「あのさ——エイリーの霊獣、ちょっと振り回していい?」
俺の作戦がとんでもなかったのか、
「えぇ……?」
エイリーは明らかに困惑している。
だけど、
「何かお考えがあるのなら、信じます!」
と言うと、すぐに起き上がってきたサルの能力者と戦い始めた。
「じゃあ、やらせてもらいますか!」
走り寄ってくるイヌを誘導して、サルの方へ連れてくる。
さすがに連携が得意そうなだけあって、二体がぶつかることはなかった。
二体が揃って、俺とエイリーの霊獣に体を向ける。
魔力がみなぎる。
ここで勝負を決めるつもりらしい。
でも、それはこっちも同じだ。
「——ごめんね!」
俺は霊獣の尻尾を掴んだ。
複数の金属でできていて、ガチャガチャと音を鳴らしながら、よくしなる。
頑丈そうだった。
「歯ァ食いしばれ!」
畑の柔らかい土を踏み抜く。
そして、大きな霊獣をフルスイングして——
——サルとイヌを一気にブチ抜いた。
「ありがとう! 雑に使ってごめん!」
俺から解放された霊獣は、大きな声でどどう、と吠えた。
どういう意味かは分からないけど、怒っているようには見えない。
エイリーと戦っていたサルの能力者が、その場に仰向けで倒れた。
「すごいです、姫!」
エイリーが駆け寄ってくる。
ニコニコで可愛い。
よし、これでサルとトリとイヌは破壊したから——
——ふと、エイリーの顔から笑顔が消えた。
そして、俺目がけて歯車を投げ付けてくる。
「えっ!?」
霊獣を振り回したこと、怒ってる!?
歯車は猛烈な勢いで俺の顔の横をかすめて、
「ぐはっ……!」
いつの間にか後ろに走り寄ってきていた男の眉間にヒットした。
「そちらの方、ずっとお姿が見えないと思っていたのですが、土の中に潜んでいたんですね」
見れば、イヌの能力者の男は、手に大きなナイフを持っていた。
もしかして、最初からずっと姿を隠して、不意打ちするタイミングを見計らっていたのか……?
「あ、ありがとうエイリー……」
「お互い様です」
七人撃破。
残り五人。
続く




