18
18
「へへ、馬鹿正直に霊獣を狙う必要なんざねぇんだよ! 霊獣がどれだけ強かろうが、術者はただのメスガキだろーが!」
男が手を前にかざすと、ヘビはより太く、大きくなった。
見るからに締める力が増していく。
いったいどうすれば——
考えろ。
考えろ。
所詮、ただの土の塊だ。
格下の能力者の戯言だ。
対処法はあるはずだ。
この世界にきてからの一週間、見たこと、聞いたこと、教わったことを総動員して考えろ——
※
「能力には相性ってもんがあるのさ」
厳しい修行を終えた俺は、ドルヴィの能力、『絶望の終末』を手に入れた。
世にも珍しい『デュアルスキル』の能力だ。
水を操る『アクア』と、土を操る『グランド』のデュアルスキル——
術者のドルヴィ自身も制御することができないという呪われた力。
周囲の環境を沼にしてしまうという死の能力。
恐ろしいけど、自分で制御できると思えば頼もしかった。
「相性……ですか?」
家から出てきたドルヴィは、信じられないほど巨体だった。
太ってる、というより、骨格から大きいタイプだ。
沼地の小屋の前に立つ、黒いローブに身を包むドルヴィは、まさに魔女そのものだった。
「そうさ。火は水で消される。水は草に吸われる。草は火で燃やされる。闇は光に、光は闇にかき消される。雷は土に吸われるが水にはよく通る。少量の水は土に吸われるが、大量の水は土を押し流す。土は草に養分を吸い取られる」
長すぎて当然一発で覚えられるわけもないけど、イメージしやすい当たり前のことしか言ってなかった気がする。
「アンタはその能力のおかげで、相性の恩恵に大いに授かれる。この世界で生きていたければ、自然の力を使いこなしな」
ヒッヒッヒ……と、何がおかしいのか分からないけどドルヴィは不気味に笑う。
笑いのツボが一向に分からないけど理解する気もない。
だからその代わりに、
「でも、自然ってどうやって使いこなしたらいいんですか?」
と質問をした。
「自然を操作するって、すごくイメージがしづらいんですが……」
「操作じゃないさ。『そこにある』ということをイメージしな」
はぁ……?
何だそりゃ……。
俺の不服を見て取ったのか、
「難しい話じゃないさ坊や」
ドルヴィは続ける。
「目には見えないだけで、この世界は森羅万象すべてにおいて『自然』が関与している。人間が知覚できないだけでいつだって必ず風は吹いているし、空気中には水分が漂っているものさ」
いや、分かりづれぇんだよ……!
……とか舐めたクチをきくとまた熱心に特訓をされそうなので、
「ちょっと難しいかもしれないです……」
控えめに可愛く、だけど精一杯異を唱える。
「いや、魂こそ穢れてるが、アンタは頭は悪くない。理解できるはずさ」
バチクソ失礼な前置きをしてからドルヴィは続ける。
「使えるものは何でも使ったらいいってことさ。海でも川でも、木でも岩でも。砂でも水蒸気でも、霧でも葉っぱでも、何でもね」
ううむ……。
海や川、あとせいぜい木と岩とかは扱えたら強そうだけど、霧や葉っぱを使ったところで何になるというのだろうか?
だけどドルヴィはそれ以上説明する気もないようで、
「この世界では、強い人間が生き残る。だけど『強い』っていうのは、何も能力の良し悪しだけじゃない。せいぜい磨きな、アンタ自身の『強さ』をね」
と締め括った——
※
考えろ。
目の前ではエイリーが首を絞められている。
首を絞めているヘビは素手では破壊できない。
当然、殴ろうとしたらエイリーも傷付けることになる。
ヤツらは味方同士での衝突を恐れているのか、追撃が飛んでこないのが救いだ。
とにかくコイツを何とかしないと始まらない。
自然を使いこなせ。
畑を、俺の能力を、すべてを使ってエイリーを助けてみせる。
考えろ。
相性はどうだ?
この土の塊を破壊するにはどうしたらいい?
風で吹き飛ばすか?
いや、そんな風は吹いてないし俺もそんな能力は持っていない。
植物で栄養を吸い取るか?
いや、そんな時間はないしそんな能力はない。
水で押し流すか?
「そうか、水で押し流せば——」
と言いかけて、ダメだと気付いた。
ヘビから救い出せたとしても、ずぶ濡れになったら、水恐怖症のエイリーは戦えなくなってしまう。
じゃあどうすれば——
「そうか……!」
ついに納得いく答えに辿り着いて、俺はポーチに手を伸ばす。
『複数の能力を使い分けられる』という利点を見せたくなかったけど、仕方がない。
今度こそ変身をバッチリ見られてしまうけど、構うものか。
どうせ早かれ遅かれバレることだ。
「沼地の魔女直伝の、最低最悪の能力を見せてやる——」
キャンディーを舐める。
そして俺は——
「ほら! リーダー今見ただろ⁉︎ アイツ、さっきもああやって変身したんだよ!」
——魔女の姿になっていた。
これが、『絶望の終末【着】』の変身だ。
大きな黒い三角帽子と、シンプルな黒いローブ。
スカートみたいな裾は、雑に切り取られたようにギザギザになっていて不吉さを感じさせる。
つま先が尖った黒い靴。
そして首からかけられた大量の宝石——
この能力の“真の力”を見せるのは、もう少し後だ。
今はとにかく、このヘビを破壊しなきゃいけない。
サモンのエイリーが、霊獣じゃなくても歯車を単体で実体化させられるように、俺も似たことができるはずだ。
水を操る『アクア』と、土を操る『グランド』のデュアルスキルをコピーした俺なら、どっちも扱えるはずだ。
「ごめんね!」
土を操って、エイリーの体の上に被せた。
締められている首から上だけが出ている状態だ。
こんもりと小山のようにして、さらにガチガチに押し固める。
これだけ体をガードすれば、濡れるのは首から上だけだ。
あとは、このヘビを水で破壊すればいい。
顔が濡れたとしても、服みたいにびしょびしょになるわけじゃないし、拭いてしまえばそこまで問題ないはずだ。
それに、エイリーを傷付けたくないと思いながら水を操るんだ。
この俺が、エイリーを濡らすわけがないだろうが。
集中しろ!
指先に魔力を集中させる。
イメージしろ。
体の中から溢れ出そうな膨大な水分を使うな。
エイリーを必要以上に濡らしてしまう。
イメージしろ。
コルトゥーラの爽やかな風には、微かに水分が乗っているはずだ。
——『そこにある』というイメージ!
周囲の水分を、土のヘビに一気に流し込む。
そうすれば——
「ぐあっ……⁉︎」
ヘビの術者が、その場に崩れ落ちる。
それと同時に土のヘビが爆散した。
「エイリー、大丈夫⁉︎」
押し固めた土を解除して、エイリーの顔をローブの裾で拭く。
ほとんど濡れていなかったけど、全身が土だらけになっている。
「不覚を取りました。申し訳ありません……」
ゲホゲホと咳き込むエイリーの首筋には、痛々しい赤い跡がくっきりと残っていた。
パーチェちゃんが傷付けてしまったジーナの手の甲を思い出す。
もしこの跡も永遠に残ってしまったらどうしよう——
——いや、そんなことは今考えるな!
頭をぶんぶんと振って、ネガティブを無理やり追い出す。
そして、パーチェちゃんの可愛い顔をイメージして、とびっきりの笑顔を見せた。
「『申し訳ありません』よりも『危険かもしれませんが、一緒にきていただけますか?』の方が、私は嬉しかったけどね!」
今度は俺がエイリーに手を差し伸べる。
エイリーははっとした顔してから、
「……そうですね」
と頷いて、俺の手を強く握った。
この手があれば、俺は何でもできる。
俺達はどこまでも行ける。
四人撃破。
残り八人。
続く




