初仕事1
「っしゃぁ、やるぞ!」
今日から、傭兵として第一歩を踏み出すミディは、ペチペチと頬を叩き気合を入れた。
表情は相変わらず乏しく、頬にもみじの跡を残しつつ入念な持ち物確認を終わらせる。
その姿は、遠足前の子供でしかない。
先日のモニカの助言で、いざという時に疲労で動けなくならないよう、荷物は控えめにしている。
(マジックバッグさまさまだね、薬品類がかさばらない!)
ソニアに挨拶を済ませ、ミディはマジックバッグの紐をぎゅっと握る。
団の拠点では既に出発の準備も出来ており、最終確認をしつつ集合待ちの状態であった。
(ち、ち、ち、遅刻した!?20分前行動したのに!)
ミディは、顔を青ざめながらも慌てて駆け寄る。
「お、おはようございます……遅れてごめんなさい!」
団の皆がミディに注目する。
「誰だ?」と言う者や、「おはよう」と声を掛ける者、中には苦笑いしている者もいる。
「おはようミディ、まだ時間じゃないから落ち着いて。」
アレンは、苦笑いをしつつミディを宥める。
「皆、改めて紹介する。新人のミディだ、生活魔法を使えるから、支援隊で働いてもらう」
そして、団員にミディを、改めて紹介をする。
「ミディです、皆さんご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願いします!」
失礼のないように、フードを脱いでお辞儀をする。
いつもの光景が広がるが、すぐに収まる。
団員も「よろしく」、「おう、頼むぞ」など返事を返し迎えてくれる。
「さて、依頼の再確認だ。今回は、開拓村の警護を1週間する。長期契約の団が到着するまでの繋ぎだ……」
そのままアレンは、再度今回の依頼内容を通達し情報の共有を徹底させる。
(朝礼だね、これは)
ミディは、他人事のようにぼんやりと聞いている。
「ミディ、ちゃんと聞いてる?これ、あんたのために、分かりやすくやってるんだからね?」
モニカが隣に寄ってきて、ジト目で咎められ反省する。
(バレてる、しっかり聞かないと……)
「ごめんなさい、気をつけます……」
出発前に色々あったが、やがて、時間となった。
「では、皆行こうか。最後尾は、クラウス任せたぞ」
「ああ」
クラウスがチラリと、ミディを見ながら答えた。
アレンの号令と共に開拓村に向けて傭兵団「大地の盾」は出発した。
開拓村までの道程は、一泊の野営を挟み、到着予定で進みだす。
半日後、そこには真っ青な顔をしたミディがいた。
(死にそう……荷物少し多めに持っただけで、ここまで辛くなるなんて)
小柄なミディは、大人と歩幅が違う。
同じ速度で歩くだけでも一苦労だった。
(おクスリでドーピングしてこの状態か……身体も鍛えないと、クビになる!)
必死に食らいつきながら歩くミディを、団員は心配しながらも、驚いていた。
(思い出せ、就活で一日中歩き回った事を!思い出せ、生活費稼ぐため日雇いのバイトをハシゴした時を!)
しかし忘れている。今の身体は、ただの少女だということを。
実は、旅慣れないミディはすぐに根を上げると思っていた。
だから団員たちは、動けなくなったミディを運ぶ背負子を密かに準備していたのだった。
そんなことを知らないミディは、根性と薬で喰らいついていたのだった。
しかし、それにも限界がある。
「よし、そろそろ休憩しよう」
見かねたアレンが指示を飛ばす。
倒れそうな勢いで座り込むミディに、団員たちが声をかけてくる。
「すごいな、ミディ」「おチビ、根性あるな!」「ミディちゃん、大丈夫?」
口々に褒めたり、心配をしてくれる。
モニカも駆け寄り、靴を脱がせ、赤くなった足に回復魔法を掛けてくれる。
(あぁぁぁぁぁ、足の痛みが引いて気持ちいぃぃぃ。これが回復魔法かぁ、私も使ってみたいな)
徐々に赤みが取れて、痛みも和らいでいく。
「どう?楽になった?」
「モニカさん、ありがとうございます。楽になりました、お陰でまだ歩けそうです」
(おクスリの追加するよ!)
団員たちが食事休憩をとる中、こっそりとマジックバッグから、スタミナ増強薬を取り出す。
「ミディ、それは何かしら?」
モニカの目にとまり、質問される。
「こ、これはただのビタミン剤です」
「ビタミン?……変な薬じゃないでしょうね?」
モニカの目つきが鋭くなる。
「ヒェ、これは自作のスタミナ増強剤です……」
「こんなもの飲んで、着いてきてたの!?……自作?」
騒がしい二人の様子に注目が集まる。
「モニカ、なにか問題でも?」
アレンが、なにごとかと駆け寄ってきた。
「アレン、この子こんなもの飲んで行軍してたのよ!?」
モニカはそういって、スタミナ増強剤を指さす。
「これは……?」
「自作のスタミナ増強剤みたい」
「自作!?」
周りの団員もざわつく。
「ミディ、本当なのかい?」
(な、なにか事が大きくなってませんか!?)
ミディは、ここまでの薬を自作できることの重大性を理解していなかった。
「は、はい、自分で作りました」
アレンは、真剣な顔で考え込むが、クラウスからの一言で現実に戻される。
「アレン、考えるのは後だ。今のペースなら日が暮れる前に途中の村に行けるぞ」
「……そうだな、考えるのは後にでもできる」
アレンは意識を切り替えて、号令をかける。
「予定変更だ!このペースで次の村まで行くぞ」
(もう出発!?まだ疲れが取れてない……急いで飲まなきゃ!)
その言葉に、ミディが慌てて薬を飲み込もうとするが、クラウスに止められる。
「ミディ、クスリは多用するな、これに乗れ」
クラウスが背負子を背負い、ミディの前で跪く。
「え、え、でも……」
「構わない、誰かが動けなくなった時用だ。今はお前が使う時だ」
「は、はい」
クラウスの言葉に従い、背負子に座るミディ。
それを見たアレンは、出発の号令を出し全員が進みだした。
クラウスに背負われながら行軍が続く。
(き、気まずい……何か話題でも!)
「あ、あの、クラウスさん私、重くないですか?」
「軽すぎる。食事は取っているのか?」
クラウスの言葉には、どこか心配そうな響きがあった。
「もちろん毎日、しっかり食べてますよ!……でも大きくならないんです」
「そうか、食べているならいい」
そして会話も途切れる。
(会話が続かない!……もう諦めよう)
「ひとつ聞いていいか?答えたくなければ、それで構わない」
(向こうから会話が!?)
「は、はい、なんでしょう?」
少し躊躇うように、一呼吸おいてクラウスは聞いてきた。
「ミディの両親はご健在か?」
「両親ですか?いえ、私は森で捨てられてたので、両親は知りません」
「……軽率な質問をしてすまない」
クラウスは肩を落とし、明らかにガチへこみしていた。
周囲の視線もクラウスを責めている。
(アカン!クラウスさんが萎んでいく!)
「で、でも、私を拾ってくれたアゼル様には大切にしてもらえたので、幸せですよ?」
「……アゼル?あの「爆炎」のアゼル?」
ミディの一言にクラウスは目を見開き、団員はざわめく。
(ば、爆炎!?師匠そんな恥ずかしい異名あるの!?)
「……爆炎ですか?」
「?」を頭に浮かべたミディが問い掛ける。
クラウスは一瞬、「知らないのか?」と怪訝な顔をするが、納得した顔で答える。
「……まぁ、知らなくても仕方ないか。20年前にここで大規模なスタンピードがあったんだ」
スタンピードは、この大森林で最も警戒されている事象だ。
(……話としては聞くけど、実物はまだ見たこと無いなぁ)
前世を合わせても、実戦経験など無いミディは、他人事の様にしか感じない。
「首都からの援軍が来るまで、少ない守備隊と共に火炎魔法を放ち続け戦線を維持したお方だ」
(ほえ〜、師匠凄かったんだなぁ。錬金術のイメージしか無かったよ)
記憶にある師匠の姿を思い出し、まだお別れからひと月も経っていないことも実感した。
「そうなんですね、師匠には錬金術を主に師事してもらっていました」
ミディの言葉に、クラウスは納得した。
「なるほど、ミディの錬金術はアゼル様仕込みなのか」
「はい!」
ミディの数少ない取り柄なので、自信満々に答える。
そのやり取りに団員たちも、ほっこりしている。
クラウスは、素直に話し過ぎるミディの今後を心配するのだった。
その後行軍は順調に進み、陽が沈む前に途中の村に到着した。
宿の確保ができ、荷を崩し、明日まで自由行動となった。
部屋はモニカとミリアの女性陣と相部屋となった。
「モニカさんは、アレン団長と一緒の部屋だと思ってました」
純粋なひと言に、ミリアは吹き出し、モニカは赤面しつつも冷静に答えた。
「今は依頼の仕事中だから、そんなことしないわよ」
(普段はしてそうっていうか、同居してそう)
内心でおもっていたら、モニカに睨まれた。
表情にも変化が無いのに何故!?と驚愕していると、モニカに指摘される。
「あんた、よく観察するとなに考えているのか分かるわよ」
衝撃の事実を知り、愕然とする。
(無表情な、ミステリアス美少女のイメージが崩れちゃう!)
そんなものは最初からない。
―――同時刻、村の酒場にて。
団の面々が酒を飲みながら疲れを癒やしていた。
その中で、アレンとクラウスは昼間のできごとを話し合っていた。
「……ふむ、彼女はあのアゼル様のお弟子だったのか。」
「ああ、そうらしい」
「あれ程の腕前があるのに何故傭兵団に……?」
「それは、わからないが……多分、本人に聞けば答えてくれるぞ?」
昼間のやり取りで、ミディのチョロさを体験したクラウスが真面目な顔で言う。
アレンもそれが簡単にイメージが湧いたことに苦笑いをしながら酒を煽った。―――
ミディの徒然日記
◯月♪日
初仕事、初行軍!
事前に飲んだスタミナ増強剤と根性で同行したけどキツかったよ……
途中の休憩でおクスリがバレて、ちょっと騒ぎになったけど、違法じゃないから大丈夫だよ!
後で反動で少し疲労が出るだけだから!
ちょっと動けなくなるだけだから!
クラウスさんにお世話になった。
最初はヤリ◯ンなイケメンとしか思ってなかったけど、心配なのか色々と、私に配慮してくれた。
話をしたら、とても優しかった!
よく考えたら、私みたいな、ちんちくりんな相手に何かするわけないじゃん!
色々疑ってごめんね?




