二足の草鞋を履けるかな?
ミディは、長期出向に必要な物の買い出しをしている途中、モニカと出会った。
「モニカさん、こんにちは、今日はお一人ですか?」
「あら、ミディ、こんにちは。えぇ、少し足りないものの補充をしてるの」
「あの、私も今買い出ししてるのですが、初めてのことが多くて……。相談に乗ってほしいです」
「……確かにそうね、気付けなくてごめんなさい。一緒に回りましょう」
(勇気を出して、話しかけてよかったぁぁ。モニカさん、ちょっと怖そうな人だと思ってごめんなさい……)
ミディは内心で結構酷いことを思っていた。
一緒に買い物に行き、様々な店を教えてもらうなどして、モニカと交流を深めたミディであった。
買い物を終え、モニカと別れたミディは、錬金ギルドに足を運んでいた。
この街の中でも、かなり高い建物だ。
格式高そうな門を潜り、受付へ向かう。
(馴染みのある薬品の匂いが漂ってるなぁ~)
師匠との修行を思い出し、少し鼻がツーンとしてくる。
「錬金ギルドへようこそ、本日はどのようなご用件で?」
「ミディと申します。薬屋のソニアさんからの紹介ですが、話は通っていますか?」
「確認してまいります、少々お待ちください」
澄ました顔で対応する受付のお姉さんは確認するために、席を外す。
(やっぱり、受付は美人のおねーさんが一番だね!傭兵ギルドは見習ってどうぞ!)
思考はおっさんなのに、言動が徐々に退行しているような少女がいるらしい。
やがて、表情は変えずに、急ぎ足で受付のお姉さんが戻ってくる。
「お待たせしました、ミディ様でございますね。今からギルドマスターの元へご案内致します」
「え?ぎるどますたー?」
いきなり大物の名前が出て、言葉が平坦になる。
「はい、ご案内いたします」
動じないお姉さんに連れられ、立派な扉の前まで案内された。
「アジマ様、ミディ様をお連れ致しました」
「入ってもらいな」
部屋の中から、老婆の声が聞こえ、中へ通される。
中には、小柄だが背筋がピンと伸びている、気品のある年老いた老婆が立っていた。
「よく来たねぇ、ミディ。まずは、顔を見せておくれ」
錬金ギルドのマスターであるアジマは、まるで孫か近所の子供を相手するような口調で話しかけてくる。
(え、知り合い?全然記憶にないんだけど……)
戸惑いながらも、ミディはフードを脱ぎ顔も見せる。
顔を見たアジマは、懐かしそうに見つめる。
「ソニアから話を聞いた時は、まさかと思ったが……その髪、その顔立ち、確かにミディ本人だね」
(偽物の疑いを掛けられてた!?)
「すまないね、「アゼルの弟子」とは、それほどのことなんだよ」
動揺するミディを見て、アジマは理由を語る。
「それに、ワシはお主と数回会ってるよ」
「……もうしわけありません、記憶に無いです」
「そりゃそうだ、物心つく前や、お主が寝ているときにしか会ってないからのぉ!」
クックックとアジマは小さく笑う。
「気難しい師匠と、交流があったのですね」
「お主、意外と毒を吐くんだね。ああそうだ、昔馴染だね、腐れ縁ってやつだ」
「なんなら、恋敵でもあったねぇ」
「詳しく聞きたいです」
「ふっ、それはまた後日、時間があったら語ってやるよ」
残念そうにするミディを、おかしそうな顔でアジマは見つめる。
「さて、本題に入ろう」
お互い、表情を引き締める。
「アゼルの件は聞いたよ。まぁ、互いに年だからいつお迎えが来ても、おかしくないからねぇ」
(突っ込み辛い話題は辞めてほしいなぁ)
「……」
「最後は安らかに逝けたかい?」
「……はい、少なくとも私には、微笑んでいるように見えました」
語りながら、ミディは目頭が熱くなってくるのを感じる。
「……そうかい、ワシもあやかりたいものだね」
再度、返事に困るミディに、笑いながら話を続ける。
「お主は、なぜ傭兵ギルドに入ったんだい?」
ミディは、アジマに経緯と、ついでに紹介状の件も一緒に説明した。
アジマは、苦々しい渋面を浮かべる。
「まったく、あのババアはそんなことも知らなかったのかい!傭兵ギルドのやつらも職務怠慢だね!」
こちらのババアもお怒りだ。
「ふう、すまないね。お主も注意力が足りなかったが、悪いのはあやつらだ」
落ち着いたアジマが物騒なことを言い出す。
「ワシが傭兵ギルドに乗り込んで話を付けてきてやろうか?」
(ヒェ!全然冷静じゃない!?)
「い、いえ、私にも落ち度はありましたので、ここは穏便に……」
「まぁ、お主が言うのならやめておこうかね」
(血気盛んすぎる……)
「さて、最後に聞きたいんだけど、お主は、アゼルから錬金術、調合は教わったのかい?」
「はい、私は魔力容量が低かったので、そちらを重点に教わりました。」
「そうかい、何か作った物はあるかい?」
「はい……、体力回復用と魔力回復用の丸薬です」
答えながら、ミディは、マジックバッグから丸薬を取り出す。
その動作をみていた、アジマから思いがけない言葉が飛び出てくる。
「おや、それはワシが作ったマジックバッグじゃないか」
「え!?そうなのですか?」
「ああ、アゼルから頼まれて作ったんだよ。大変苦労したわ……」
色々な意味で、遠い目をするアジマ。
「作り手が、まず少ない。そして、素材も貴重だから、量産もできないわ」
「そんなに貴重だったのですね……」
「無くすんじゃないよ?」
マジックバッグの価値を改めて知ったミディに、アジマが笑いながら注意した。
アジマは、手渡された丸薬の検分を始めた。
「ふむ、回復効果量は後にするとして、魔力の含有量、成分の練り込みと均等化……うん、申し分ないね」
ギルドマスターのお墨付きがでた。
「全く、最初にうちに来てたら、そのまま囲い込んでたわ」
優秀な人材が手に入らなかったことへの愚痴が止まらない。
「そうだ、ワシの権限で、ギルドの掛け持ちを許可しよう。うちのギルドにも在籍しておきな」
(何言ってるのこのおばあちゃん?)
「へ?掛け持ちってできるのですか?」
「可能だ、ただし、「優秀な者に限る」という条件付きだがな」
(掛け持ちとかあるのかぁ、魅力的だけど、両立できるのかな?)
悩むミディに、さらなる追撃が入る。
「お主、ソニアの所でやっかいになっているのだろ?そこだと、作れるものも限られる。」
確かに、今の部屋では、火を使うこと全般は厳しい。
ポーションの作成等は不可能だ。
アジマはにやりと笑う。
「うちのギルドに入れば、個人用の工房を紹介できるぞ」
(確かにそれは魅力的だ……いつまでもソニアさんの厚意に甘えるのもねぇ)
(でも、ソニアさんと離れるのは寂しいよ……)
自立心と依存心、弱い心がせめぎ合う。
黙り込むミディに、アジマは切り札をきる。
「そういえば、ソニアの隣にある工房が空いてたなー、偶然だなー」
「加入します」
デカすぎる釣り針を呑み込み即答する。
(好立地すぎる!お金稼いだら、その工房の買取りも考えないと)
ミディは、満面の笑みを浮かべた。
アジマは、ミディが将来変な男に引っかからないか心配になったが、優秀な人材の確保ができたから、見て見ぬふりをした。
「さて、そろそろ時間だ、今日は入会の手続きだけでもしていっておくれ」
「わかりました、手続きして帰りますね。」
「ああ、忘れずに頼むよ」
「あと、明日から開拓村でお仕事なので、しばらく戻らないです」
「おや、そうかい。ちょうど……気を付けていってくるんだよ」
(ちょうど?)
何か含みをもたせたアジマに、ミディは頭をかしげながら退出する。
―――退出後、アジマは真面目な顔に戻りひとり呟く。
「暫く居ないなら、丁度いい。うちの新入りのことで、傭兵ギルドにちょいと行ってくるかね」
悪そうな顔をしていた。―――
ミディは、帰宅後ソニアに今日の出来事を話す。
「ソニアさん!ソニアさん!お店の隣の工房、私が借りることになりそうだから、これからもよろしくね!!」
「そうかい、これからもよろしくね」
ソニアは微笑みながら、ミディを抱きしめる。
ミディの幼児化が止まらない、これも自我の成長なのだろうか?おじさん精神はどこへいったのやら……
ミディの徒然日記
〇月#日
買い物中にモニカさんと偶然出会った。
初対面の時はちょっと怖そうだと思ったけど、お買い物に付き合ってくれて、色々教えてくれた。
やさしい!!
錬金ギルドで、ギルドマスターのアジマさんとお話しした。
まさかのスカウト!
ヘッドハンティングは困るけど、掛け持ちなら大丈夫みたい。
むしろ、優秀な証拠だって!
私にそんな価値があるのかな?師匠との縁で誘ってくれただけかな?
どっちか判らないけど、出来るだけ頑張ってみる。
工房の件もあるからね!!!




