初仕事2
その日、ミディは自作の薬の反動を思い知った。
(か、体が動かない……)
昨夜は夜更かしもせず直ぐに眠りについたはずなのに、疲労が全く抜けていない。
必死に手を動かし、マジックバッグの中を漁る。
そして、目当ての薬を見つけて、覚悟を決める。
(これはそう!元気の前借りだから、仕事が終わったら返すから!)
自分に言い聞かせ、ミディはスタミナ増強剤を口に入れようとした時だった。
「……何をしてるのかしら?」
感情の籠らない声でモニカが話しかけてくる。
その声にミディは身体を硬直させる。
僅かに震えながら、背後に首を向けると、そこには冷たい視線のモニカと、呆れ顔のミリアが立っていた。
「身体…ない…です」
ミディが小声で呟く。
「なんて言ったのかしら?」
「身体が動かないんです……」
半泣きの声でミディは答える。
「どうしてかしら?」
「……おクスリの反動です」
「判ってて、また飲もうとしているのは?」
「皆さんに、これ以上負担を掛けたくなくって……」
ミディの泣き言に、二人はため息をつく。
「はぁ、モニカこれどうする?」
「……思った以上にこの子無茶するのが判ったわ。今日も背負子で運びましょう」
「わかった、皆に伝えてくるから、モニカは無茶しないよう見張ってて」
「ええ、お話もしっかりしたいからね……」
その言葉を、死んだ魚のような目でミディは眺めていた。
「しばらく辛そうね、仕方ないわね、着替えさせてあげる」
説教により、さらに弱弱しくなったミディをモニカが着替えさせる。
想像以上に軽いことにモニカは驚き、小さいのに、大きいことに更に驚く。
「……あなた、小柄で軽いのに、胸だけは一人前なのね」
(ちょ!この人、いきなり揉みしだきはじめたよ!)
「あの、あまり触らないで欲しいかなぁって……」
動けないことをいいことに、モニカによるセクハラが止まらない。
「しかも、この肌艶……ミディ、何か化粧水でも使ってる?」
「え、お湯で流すくらいです……」
「……そう」
モニカの着替えさせる手の力が強くなる。
(モニカさん、なんで!?力が入って……イダダダダ!)
声もなく悶えるミディに気がつき、モニカは慌てて力を緩める。
「ごめんなさい!ああ、ちょっと赤くなってる。直ぐに治すから」
モニカは回復魔法を掛け始める。
まだ朝だというのに、無駄に魔力を消費してしまった二人だった。
団員が出立の準備に追われる中、ミディは椅子に座らされ生活魔法で水の補充をしていた。
(私は水もお湯も出せる蛇口。その名も混合水栓のミディ!ふはは、好きなだけくれてやろう!)
一人で勝手に盛り上がりながら、団員からの頼みで、水や湯を出し続ける。
「なぁ、ミディのやつ、あれだけ水や湯を生成してるのに、まだ元気そうだぞ」
「ああ、かなりの魔力量だな」
噂する団員たち、だが、その会話はミディには聞こえていない。
結局、必要な量の水はミディが一人で補ってしまった。
「ミディ、水の補充ありがとう。ところで、魔力は大丈夫かい?めまいや眠気などは無い?」
驚きと心配の混ざった顔で、アレンが尋ねてくる。
「はい、そろそろ厳しいですが、今の所は大丈夫です。」
「そうか、無理な時は言うんだぞ?今日の朝みたいなこともダメだぞ?」
「……はい」
アレンは、しっかりクギを刺してくる。
「ここからは開拓村まで一気にいくぞ!」
アレンの号令の下、行軍が開始される。
今回もクラウスが、ミディの運搬を買って出た。
「ごめんなさい、クラウスさん。また負担掛けちゃって……」
「いや、構わない。それに、その言葉は間違いがある」
「?」
何が間違いなのか判らないミディは首をかしげる。
「ミディ、君は出発前に、本来の仕事をこなしている。だから負担に思うことはない」
ミディは、その言葉に納得する。
続けてクラウスは言う。
「それにここでは、「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」の方が嬉しく感じる」
「あ!ご、ごめんな…… クラウスさん、ありがとうございます!」
その感謝に、静かにクラウスは頷いたのが、背負子の上でも感じ取れた。
(前世の私は、謝ってばかりの人生だったなぁ。気を付けないと!)
ミディは、ネガティブに振れる思考はダメだと自分に言い聞かせる。
その後、特に問題も無く目的地の開拓村に到着する。
開拓村は、まだ周囲を囲う柵すら満足に建てられていない。
「この村、全然人もいないし、建物もまだできてないですよ?」
ミディの問いにクラウスは、少し呆れたように答える。
「出立前の話聞いてなかったのか?今ここに居るのは、先発隊の人だけだぞ」
(うわぁぁぁ、社会人失格じゃん!)
へこむミディに、クラウスは続けて説明していく。
「まぁ、簡単に説明する。俺たちの仕事はこの後に来る、入植者とそれを護衛する傭兵団が到着するまで、開拓村を守ることだ」
「この村の状況を考えると大変ですね」
「ああ、だが人も少なく、村も形をまだ成していない。野盗にとっては何もうま味が無いから、今回は魔物に注意するだけで構わない」
(依頼受けてこなすのも、色々考えないとダメなんだね)
「……確かに、そうですね。勉強になります!」
到着後、アレンはモニカとクラウスを連れて、開拓村のリーダーとの打ち合わせに向かった。
残りの団員は、早速野営の準備に取り掛かる。
ミディは、ポツンと近くの椅子に座っていた。
(何か手伝いたいけど、まだ身体が動かない……)
もどかしく思っていると、モヒカンのジャックが話しかけてきた。
「おう、ミディまだ動けないか?」
「ジャックさん、まだ時間かかりそうです。何か御用がありました?」
「ああ、そろそろ晩飯の準備したいから、手伝ってもらおうかと思ってな」
「……もしかして。ジャックさん支援隊なんですか?」
ミディはふと、気になったので尋ねてみた。
「あ?何言ってるんだ、支援隊は俺とお前の二人だけだぞ?」
(まじで!?いつもナイフ二刀流してたじゃん!あれ包丁かなにかだったの!?)
「え?今までジャックさんは一人でやってたんですか?そのなりで!?」
驚愕の事実にミディは震えた。
「失礼な奴だな。そんな奴はこっち、で皮むきと水係をやってもらう!」
ジャックはそう宣言すると、ミディの脇に手を差し込み持ち上げる。
そのまま、ジャックの近くの椅子に座らされ、ジャガイモの皮むきを命じられる。
何か波長が合ったのか、この短い時間でミディはジャックと打ち解けていた。
「え、ジャック十八歳なの!?わかーい!」
「おい、顔に「三十代じゃないの?」って書いてあるぞ」
気づけば、呼び捨てで呼び合うまでに仲良くなっていた。
二人で夕食の支度をしていると、打ち合わせが終わった三人が戻ってくる。
ミディは、皆が少し渋い顔をしているのが気になった。
「よし、夕食を食べながら、話を進めよう」
アレンの呼びかけに団員が集まり、食事を始めた。
「ジャック、まだ動けない、連れて行って」
「おまえ……はぁ、わかったよ」
面倒くさそうに、ミディを肩に担ぎ、荷物のように運ぶ。
ミディは特に文句もなく、されるがままにモニカの隣の席まで運ばれてくる。
その一連のやりとりに、団員達は呆気にとられる。
「……あなた、随分ジャックと仲が良くなったのね?」
モニカは問いかけるが、ミディも理由は判っていない。
(なんだろう、波長でもあったのかな)
「うーん、一番年が近いから?よくわかんない」
ジャックとの気軽な会話のお陰か、ミディは、他の団員たちとの会話も砕けてきた。
ゆるみ切った空気を、アレンは手でパン!と叩いて切り替えた。
「さて、話を戻そうか。」
皆が頷く、約一名、夕食をもぐもぐしているが、しっかり聞いている。
「今、この開拓村のリーダーをやっている、ケントさんに到着の挨拶をしてきた」
アレンは、真剣な顔になる。
「ケントさんとの話の中で、森の中に複数の魔物の影が村の住人数名から上がっている」
その話に、全員が険しい顔をする。
「調査したいが、刺激を与えたくないな……」
「柵だけでも急いで作るべきでは?」
団員たちから、意見が飛び交う中、アレンは決断する。
「クラウス、頼めるか?」
それまで無言を貫いていたクラウスは、静かに頷いた。
「助かる、三人で行ってくれ、人選は任せる。」
クラウスは、その場で三人を指名し、準備に取り掛かる。
「残りは、村の自警団と共に柵と臨時の救護所の作成に入る。モニカ、ミディを頼む」
アレンは残った団員たちに指示を出し、ケントに報告するために向かった。
慌ただしく動き出す人々の中、何もできない自分を、ミディは、歯がゆく思っていた。
(何か手伝わないと…、でもまだ本調子まで遠い。……薬に安易に頼らなければよかった)
やがて陽も落ち、夜になった。
クラウスたちも無事に戻り、村も多少の防備が整い出した。
村の幹部を交え、クラウスの持ち帰った情報を元に、会議が行われている。
ミディは、皆の配慮で先に寝ることになったが、不安で中々眠りにつくことができなかった。
ミディの全然徒然じゃない日記
◯月♫日
朝から地獄をみた。
薬の反動で、身体は動かなくなった。
そのことで、モニカに説教されるし、セクハラもされた!
確かに背は、小さいかもしれないけど!
多分、身長140もないかもだけど!!
胸だって、モニカの方がふた回り以上大きいじゃん、自分の胸で我慢してよ。地産地消ってやつだよ!
ジャックが支援隊なのにはビックリした。
話しをすると、なんか近所のニーチャンって感じで楽しかった。
村の近くに魔物がいるらしい。
皆が少しピリピリしている。
私にも何かできればいいのだけど……。
いざという時のために、おクスリの乱用は控えよう!




