突撃! ドキドキルームツアー! 6
唯と一のルームツアーは終了した。けれど、春花が見るべき部屋はまだ残っている。
「さて、まずは……」
こんこんこんっと真弓の部屋をノックする。
『ぎくぅっ!?』
ノックの音を聞いて、部屋の中から真弓がわざとらしい声を上げる。
「入って良いですか?」
『だ、ダメですぅ~!!』
春花の問いに、真弓は強めに返答をする。
「じゃあ入りますね」
「ダメって言ったよにぇ!?」
ダメと言われたけれど、春花は構わず扉を開ける。
真弓の部屋はごちゃごちゃだった。脱ぎ散らかされた衣服、ゴミ袋にぱんぱんに詰め込まれたゴミ。読み散らかされた漫画本や雑誌。
何とか綺麗にしようとしたのだろう。部屋の一角には物が無かった。
「千弦の方が先に掃除してた!! 先に千弦の方を見てよ!!」
ある物を隠しながら、真弓は春花に文句を言う。
「姉の定めだと諦めてください」
「やぁだぁっ!!」
必死に後ろ手にある物を隠すけれど、真弓の陰からはみ出しているので、必死に隠したところで意味は無い。
「あぁ……春花、かわいそうだから後にしてあげなさい」
朱里も真弓が隠そうとしている物に気付いたようで、真弓のフォローに回る。そうでなくとも、この散らかし具合だ。女子としての羞恥心があるのであれば、異性に見られるのは嫌だろう。
「ううん、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ!? 見られたら恥ずかちいからにぇ!?」
「そう思うなら、洗濯も自分でやって欲しいですかね」
「え?」
思いもよらない春花の答えに、真弓は思わず呆けた声を出す。
「週二回、洗濯してるの僕ですからね? 下着、ちゃんと洗濯籠に入れてくださいね?」
「え?」
週に二回。春花は菓子谷家の家事を手伝いに来ている。その事実は真弓も知っている。
腰を悪くしたあけびだけでは子供四人分の世話をするのは難しい。それでも、本人はやる気満々だけれど、それで大事があって困るのはあけびだけではない。子供達も悲しむ事だろう。
だから、春花は週二回は菓子谷家に訪問して家事の手伝いをしている。本当であれば子供達だけで家事を分担していけたら良いのだけれど、四人共家事初心者である。いきなり全てをこなせというのも無理な話だ。
それが分かっているからこそ、春花は週二回の家事お手伝いをしている。それに、二人の事を任せたのは春花自身だ。その春花が何もしないと言うのは筋違いだろう。
そうして、春花は菓子谷家の家事を手伝っている。四人では行き届かない掃除や、四人が食べたいけど作れない料理の作り置き。時たま、洗濯物が溜まっていれば洗濯をしている。その中には当然、真弓が背に隠している下着も含まれている。
「う、嘘嘘嘘嘘!? にゃ、にゃんで洗濯してゆのー!?」
既に自身の下着を洗濯されているという事実に、真弓の顔が見る見るうちに赤くなる。
「本当よ。アンタ、なんで女子の下着を平然と洗濯してんのよ……」
「そーだそーだ!! レディの下着を勝手に洗うにゃー!!」
呆れた調子で朱里が言えば、真弓もそれに追従する形で文句を言う。
けれど、春花は平然と朱里に返す。
「いや、僕はちゃんと確認したよ? 洗濯物に下着が入ってても洗って良い? って」
「って、コイツは言ってるけど?」
「聞いてないにょ!! 記憶にございましぇん!!」
「言いましたよ」
「いつ!?」
「四人がゲームしてる時です。ね?」
春花が未だに両サイドを陣取っている唯と一に聞けば、二人はこくりと頷く。
「「言ってた」」
「え……マジ?」
「マジの」
「マジ」
唯と一、真弓と千弦がゲームをしている時に、春花は四人に下着が入っていても洗濯をして大丈夫か訊ねている。
その際、四人は一様に「うん」だの「大丈夫」だのと答えている。そのため、春花は以後洗濯物に下着が入っていても洗濯をするようにしている。
「げ、ゲーム中は卑怯だよーっ!!」
「卑怯も何も、嫌なら自分で洗濯すれば良いだけです。まったく、お部屋もこんなに散らかして……」
「うっ……」
まるで母親のようなお小言を言う春花に、真弓は叱られた子供のように縮こまる。
「まぁでも、お二人で暮らしてる時と比べたら、とても綺麗にしていると思いますよ」
「え……?」
「ゴミ袋を溜めてるのはいただけないですけど、ちゃんとゴミをゴミ袋に入れるようになったのは偉いです」
服や本は散らかっているけれど、ゴミだけは散らかっていない。ゴミ箱に山盛りにはなっているけれど、部屋に散らばっていないし、ちゃんとゴミ袋に入れられている。
あの汚部屋を知っている春花からすれば、ゴミをまとめることが習慣付いているのはとても良い変化である。
「それに、人様に見せられない部屋だという自覚を持ってるのもとても偉いです」
「いや、言い方よ……」
春花のストレートな物言いに朱里が呆れたような顔をする。
「朱里は知らないだろうけど、二人で住んでる時は本当に散らかってたんだよ? それこそ、魚海先輩の部屋みたいな感じで」
「あぁ、あのレベルだったのね……」
「だから、ちゃんと綺麗にしようって意識を持っているのが凄い偉いんだよ。それに、あけびさんから聞いてるけど、家事も少しずつ上達してるみたいだしね」
あけびから連絡があったり、今日みたいに菓子谷家に来た時に直接報告を貰うけれど、真弓も千弦も家事を率先して行っているし、あけびの言う事も素直に聞いている。
子供が二人増えて、手はかかるけれどとても楽しいとあけびがこぼしていたのを良く覚えている。
「なのでとても偉いです。花丸です」
春花が素直に真弓を褒めれば、まさか褒められるとは思っていなかった真弓はきょとんとした顔をするけれど、直ぐに「でへへぇ」っとだらしない笑みを浮かべる。
「でへへぇ、褒められちった……」
嬉しそうに、照れくさそうに笑みを浮かべる真弓。
「なるほど、これが飴と鞭ね」
そんな真弓を見て、朱里が感心したようにこぼす。
「失礼な事言わないでよ」
「感心してんのよ。甘やかすだけじゃないんだなって。アンタ良いお父さんになれるんじゃない?」
「ママンは」
「既に」
「「最高のママン」」
朱里の発言に異を唱えるように食って掛かる唯と一。
「はいはい。アンタ達、本当にべったりねぇ……」
春花にべったり懐く二人を見て、朱里は感心と呆れの混じったような表情を浮かべる。
「でも、春ちゃんが良いお母さんになるっていうのは納得かにゃ。お料理おいちいし。お母さんの味なんて分かんないけど、これがそうなんだって分かるような、すっごい温かい味なんだよにぇ~。あ、お婆ちゃんの味も大好きだよ? 二人のご飯食べると、すっごく安心するんだぁ」
「「同意」」
真弓の言葉を聞いて、こくこくと激しく頷く唯と一。
「お陰で」
「少し」
「「太った」」
「分かゆ!! これが幸せ太りってやつだにぇ!!」
太ったと自覚しているにも関わらず、嬉しそうに笑みを浮かべる真弓。
確かに、春花の料理が美味しくて朱里もついつい食べ過ぎてしまう。毎日トレーニングは欠かさず行っているけれど、それは三人も同じことである。
つまり、消費カロリーよりも多く摂取してしまっている事になる。異譚で戦う上で太りすぎは良くないし、何より健康面でも問題が生じる。
「……アタシも気を付けないと」
春花の美味しいご飯の思わぬ弊害に気付き、思わずそうこぼしてしまう朱里であった。
因みに、千弦の部屋も覗いていったけれど、詳細を語るのはさすがにかわいそうなので、今はまた別のお話。




