突撃! ドキドキルームツアー! 5
お久しぶりです。書籍化の原稿がひと段落付いたのでゆっくり更新していきます。
詩の家を後にした二人が向かったのは、春花にとっては見るまでも無い家だった。
「「お帰り、ママン。ようこそ、朱里」」
インターホンを鳴らすことなく家に入れば、待ってましたとばかりに二人がお出迎えをしてくれた。
「ただいま」
「お邪魔するわね」
春花と朱里がやって来たのは菓子谷家であった。
常日頃から春花は菓子谷家に立ち寄っているし、二人の部屋の掃除も行っているので改めて見る必要はないのだけれど、真弓や千弦の様子も見ておきたかったため立ち寄る事にした。もっとも、唯と一からしたら、春花が立ち寄らないという選択肢は無かったようで、春花が来ることを前提で話を進めていたのだけれど。
「あれー、春ちゃんだ! どうしたにょ~?」
「げぇっ!? やばば!!」
そこでタイミング良く二階から降りてきた真弓と千弦だったけれど、千弦は春花を見るなり慌てて二階に戻っていった。千弦の反応だけでなんとなく千弦の部屋がどうなっているのか分かったけれど、春花は見なかった事にして話を進める。
「ルームツアーしてるんです」
「るーむつあー? にゃんでー?」
「コイツの部屋があまりに寂しいから、いろんな奴の部屋を見て参考にするためよ。まぁ、此処は見慣れてるから、来なくても良いと思ってたんだけど……」
「ノンノン」
「ダメダメ」
朱里の言葉に、唯と一はいやいやと首を振って春花の手を取る。
左右から挟むようにして春花の手を取り、さっさと家に上げる二人を見て、朱里は呆れたように肩をすくめる。
「これだものね」
「にゃはは~。二人とも、春ちゃん大好きだからにぇ~」
双子に呆れながらも、朱里も菓子谷家に上がる。
「あぁ、そうだ。コレ、あけびさんに渡しておいて」
そう言って、朱里は真弓に持参した菓子折りを渡す。
「にゃにこえ~?」
「春花もそうだけど、ウチの連中が随分とお世話になっちゃってるからね。日頃のお礼ってとこ」
「ほえ~。分かった。お婆ちゃん帰って来たら渡しとくにぇ~」
ちなみに、真弓が言う通りあけびは留守にしている。町内会の集まりがあるそうだ。
「って、アイツ等もう二階行ってるし……」
「そうだにぇ~……あっ!? や、やばばっ!!」
朱里の言葉の後に、真弓は何かを思い出したように慌てて二階に上がる。
「アンタもか……」
千弦と同じく、おそらくは部屋の掃除をしていないであろう真弓に呆れながら、朱里も二階に上がる。
二階に上がれば、既に春花は双子の部屋に入っているようで、開きっぱなしの扉から三人の会話が聞こえてくる。
「おっ、意外と汚くない」
双子の部屋を覗き込めば、意外と綺麗にされている事に素直に感心する朱里。とは言っても、白奈の部屋のように完全に綺麗な状態という訳ではない。
服は散らかしてあるし、飲み終わったペットボトルや空き缶が何本か置いてあり、お菓子の袋もテーブルに散らばったままとなっている。
「むふーっ」
朱里の感想に得意げに胸を張る唯。どうやら、こちらの部屋は唯の部屋らしい。
「うん。前より綺麗だね。偉い偉い」
「むふーっ!」
春花がそう言えば、唯は更に得意げになって胸を張る。
「次、一」
ぐいぐいと一が春花の手を引っ張り、自身の部屋へと連れていく。
一の部屋の扉を開ければ、唯の部屋とは違ってゴミや服の脱ぎ散らかした様子は無く、ちゃんと綺麗に掃除がされていた。
「どう?」
得意げに胸を張りながら春花からのお褒めの言葉を待つ一に、唯はじとっとした目を向ける。
「ママン。一、ずるした」
「ずる?」
「してない。一、ずるしてない」
「した。朱里から連絡来た後、すぐ掃除してた」
「してない。ずっと綺麗」
「してた。本当は、唯の部屋より汚い」
「汚く無い。唯の部屋の方が汚かった」
唯と一は春花を左右に挟むようにして口喧嘩を始める。
汚かったと言っている事から、唯の言った通りに一は掃除をしたのだろうということは察しがつく。
「ずるも何も、人が来るんだから掃除すんのは当たり前でしょうが」
朱里が呆れたように言えば、唯はふるふると首を振る。
「違う。ママンの抜き打ちチェック」
「違う。抜き打ちチェックじゃない」
「あー……つまり、何?」
助けを求めるように春花に目を向ければ、春花は心得たように朱里の疑問に答える。
「唯さんは、僕の抜き打ちチェックだと思ったから掃除をしないでそのままにしてた。一さんは、来るって連絡があったから抜き打ちチェックじゃないと思って掃除した、って事かな?」
春花の言葉に、双子はこくこくと頷く。
「アンタ抜き打ちチェックなんてしてんの?」
「抜き打ちって程じゃないよ。あけびさんが上に来られないから、たまにチェックしてるだけだよ」
「部屋、綺麗だと」
「ママン、褒めてくれる」
「なるほどねぇ」
ずる無しで褒めてほしいからある程度綺麗な状態を保ったままの部屋を見て貰った唯と、褒めてほしいから掃除をして綺麗な状態にした一。認識の違いはあるけれど、二人の根幹は春花に褒めてほしいという物だった。
「まぁ、今回はルームツアーなんだから抜き打ちチェックでは無いでしょ。綺麗にしてた方が、ルームツアー的にはポイント高いし」
ポイントの低い部屋である詩の家と比べれば、唯の部屋は綺麗な部類だ。それに、散らかり方だって許容範囲内。普通に生活していたらこれくらい散らかるよね、と言えるくらいだ。
「詩にも見習わせたいわよ。コイツの言う事守ってちゃんと綺麗にしてて偉いじゃない。多少散らかしても、継続していく事が大事なんだから」
朱里が手放しにそう褒めれば、二人は互いに顔を見合わせた後に再度朱里を見やる。
「どうしよう」
「あんまり」
「「嬉しくない」」
「ぶっ飛ばすわよアンタ達」
唯と一の素直な発言に、額に青筋を浮かべる朱里。
二人の行動原理は春花に褒められたいという気持ちからなので、朱里に褒められても大して嬉しくはないのだ。
「でも、朱里の言う通りだよ。人が来るって分かって掃除するのも、ちょっと散らかすだけでちゃんと部屋を綺麗に保てるのも偉いよ」
言って、春花は二人の頭を優しく撫でる。
「「でへへ」」
春花が頭を撫でれば、二人は嬉しそうに頬を緩める。
「……何かしらね。この敗北感は」
嬉しそうに頬を緩める二人を見て、何故だか春花に負けた気がする朱里。ひとえに春花がここまでの信頼関係を築いて来たことに他ならないのは承知しているけれど、自分も魔法少女としてちゃんと信頼関係を築いていたのもまた事実。
二人を取られたなどと思うわけではないし、三人の背景があるのは分かっているけれど、謎に敗北感を覚える。
「……ああ」
敗北感を覚えている朱里に、何を思ったのか春花はおもむろに手を伸ばす。
そして、朱里の頭を優しく撫でる。
「……なにしてんの?」
「? 撫でてほしいのかと思って」
「んなわけ!」
春花の言葉に否定で返すけれど、春花の手を払いのけるような事はしない。
「はぁ……アタシは撫でなくて良いから。コイツ等の部屋も見たし、次に行きましょう」
「うん」
頷き、朱里の頭から手を離す。
「でも、まだ後二部屋あるから。そっちを見てからにしようか」




