突撃! ドキドキルームツアー! 4
一か月以上空けてしまって申し訳ありません。
書籍化の準備もさることながら、一月に祖父が亡くなってしまったのが結構心にきていましたので、自分の中で充電期間を設けていました。
今日からまた少しずつ更新を再開していきますので、よろしくお願いします。
変態の思惑に気づかぬまま、二人は次のツアー部屋へと向かった。
次の部屋に向かった二人は家主に好意的に迎えられはしたものの、来て早々に帰りたい気持ちでいっぱいになった。
「……よく来た……」
友人の来訪を心から喜んでいる様子を浮かべているのは、この家の家主である詩。
詩は一人でマンションに住んでおり、家族は異譚の被害の少ない地域で暮らしている。これは、詩と家族で決めた事なので特に不仲であるわけではない。被害が多い地域だからこそ、家族に来てほしくなかったのと、詩のためだけに長く続けた職場を転職させるのは申し訳なかったからだ。
後は、誰にも邪魔されない一人暮らしを満喫してみたかったというのも理由の一つではある。
詩が暮らしているのは朱里が暮らすマンションと同程度のセキュリティを誇るマンションである。対策軍からの補助金もあるけれど、家賃はそれ相応である。
別段、そこをおかしいとは思わない。詩は歌手としても活躍しているので、このマンションで暮らしていけるだけのお金は稼いでいる。それに、対策軍が用意したマンションだ。詩以外にも魔法少女は暮らしている。
だから、この場所に問題はない。問題なのは部屋の惨状とその家主の格好である。
「あぁ……ゴミが……」
部屋に入った瞬間、廊下に落ちるゴミを拾い出す春花。ちょうどそこらへんに落ちていたビニール袋にゴミを入れ、流れで掃除を始めてしまう。
最近汚い部屋を見すぎたせいで、条件反射で春花の中のお掃除スイッチが入ってしまったのだ。
黙々と掃除を始める春花を、朱里は呆れたような目で見ながらも、すぐにその呆れた視線を詩へと向ける。
「で、アンタはどうしてそんな格好してるわけ?」
「……服が、無かった……」
「だからって、その恰好は無いでしょうが……」
呆れたように大きな溜め息を吐く朱里に、詩は誇るようにブイサインを朱里に向ける。
詩の格好は、自宅でするにしてもおかしな格好であった。
真っ白な生地に袖や裾は無く、胸元に生地とは材質の異なる素材の四角いワッペンがでかでかと貼られており、そのワッペンには『うおみ』とひらがなで書かれていた。
「よりにもよって、なんでスク水なわけ? しかも白だし」
朱里が指摘する通り、詩が着ていたのは白色のスクール水着であった。
通常の紺色であればまだ分かる。中学の授業で水泳の授業があり、その時の物を着ていたのだろうと理解が出来る。まぁ、来客があることを分かっていながらスクール水着を着る選択をする思考回路は一切理解できないけれど、服が何もなかったのであれば仕方が無いと理解できる。
だが、白色のスクール水着となれば話は別だ。何せ、白色のスクール水着などあえて買わなければ家にあるはずもない代物なのだから。
どうして白色のスクール水着を購入したのかは分からないし、知りたいとも思わないけれど、二人を迎えるのにそれをチョイスした理由だけは知りたい。
「多少汚れててもいいから、普通の服とかなかったわけ?」
「……多少……?」
朱里の言葉に、詩は周囲を見渡す。
三人はまだ廊下にいるけれど、廊下は埃やらゴミやら脱ぎ散らかした衣服やらでまみれている。廊下の端っこには未開封の段ボール箱が積んであり、その上にまで服やら靴やらが置いてある。
廊下でこの惨状なのだ。他の部屋など言うまでも無いだろう。この惨状の中、多少綺麗な服を見つけるのなんて無理な話だったのだ。
「はぁ……アタシが悪かったわよ……」
「……分かれば、よろしい……」
「蹴り飛ばすわよアンタ」
やれやれといった様子の詩に、額に青筋を浮かべる朱里。
「ていうか、よくこんな惨状で人を招けるわね」
「……朱里が、急に言った、から……」
「それはアタシが悪いけど、少し掃除するから日を改めてって普通言わない?」
「……見られて困るもの、無い……」
「招かれて困ってんのよアタシは」
言って、朱里は黙々と掃除を続ける春花を見やる。
既にお掃除スイッチが入ってしまった春花はルームツアーのことなどすっかり忘れて掃除に没頭してしまっている。
「これもゴミ、これも、これも、これも……なんでお菓子の袋が廊下に? あぁ、タグが付けっぱなしの下着まで……どうして、こんなことに……」
ぶつぶつ言いながら掃除を続ける春花。何やら途中で普通の男子高校生であれば見て見ぬふりをするであろう物を発見してしまうけれど、普通に比較的綺麗な場所に置いて掃除を続ける。
その様子を見ていた朱里は呆れた様子で詩に言う。
「見られて困る物は無いんじゃなかったの?」
「……新品未使用、だから、平気……」
「そういう問題じゃないでしょうが。乙女の恥じらいはどこに行ったのよ……」
「……長期出張中……その内、きっと、帰ってくる……」
「早急に帰ってきてもらいなさい。今のアンタに一番必要な物だから」
普通の女子であれば未使用とは言え自身の買った下着など異性に見られたくはないだろう。何せ、買ったということは使用するという事なのだから。
しかして、詩には恥じらう様子は少しもない。唯と一もそうだけれど、もう少し乙女としての恥じらいを持ってほしいと切に願ってしまう。
「エナジードリンクの空き缶……なんでこんなタワーに? あぁ、酷い、酷すぎる……」
真弓の家と似たような状況になってしまっている詩の家だけれど、真弓達とは事情が違う。詩の場合は純粋なずぼらの結果である。なんとなくだけれどそれが分かってしまっているので、春花は素直な感想をぶつぶつ口にしてしまっているのだ。
「アンタの家酷いってさ」
「……まだまだ、こんなもんじゃ、無い……」
「何を威張ってんのよ」
これ以上汚くなる余地があることに特大級の溜め息が出る。掃除に集中していて聞こえていなかったらしいけれど、春花が聞いたら卒倒しそうだと思う。
「春花、掃除はその辺にしときなさい。短時間で終わる汚部屋じゃないわよ、コレ」
どう考えても一日で終わるような惨状じゃない。春花を止めないと次の予定があることも忘れて掃除を続けそうである。実際、ルームツアーのことなんて頭から一瞬で吹き飛んでいるだろう事は、春花の集中ぶりを見れば明らかである。
「え、これを放っておくの?」
しかし、春花は朱里が信じられない提案をしたとばかりに目を見開いて朱里を見やる。
珍しく感情の乗った表情を見た事に驚く朱里だけれど、出来れば別の場面でそういう驚きと感動を覚えたかったと心底思う。
「後になさい。後の予定も詰まってるんだから。また来たら良いでしょ。ね?」
家主である詩に確認すれば、詩もこくりと頷く。
おそらくだけれど、詩は最初からそのつもりで二人を招いたのだろう。詩も部屋が汚いことは自覚している。だが、一人で掃除をするにはあまりにも汚しすぎてしまった。
どうにかしなくちゃなーとは思いながらも、生来の面倒くさがりである詩はその時期をずーっと先延ばしにしてきた。
そろそろ笑良にでもお願いして一緒に掃除でもしようかなと思っていたところで、丁度良く朱里からルームツアーをしたいという提案が届いた。
皆のママである春花が来てくれれば、きっと掃除をしてくれる。そう目論んだ詩は汚い家だろうが二人を招くことにした、という流れなのだろうと朱里は推察する。
詩の目論み通り、春花は部屋を掃除した。けれど、朱里から言わせればそれは見通しが甘いと言わざるを得ない。
「魚見さん」
「……うい……」
「次回来るまでに、廊下のゴミだけはまとめておいてくださいね」
「……うい……?」
春花の言葉に、思わず首をかしげてしまう詩。
そんな詩に春花は続ける。
「廊下じゃなくても良いです。自分が普段生活するスペースだけでも、ゴミをまとめておいてください。それから、無ければ掃除用具も用意しておいてください。安い物で構わないので。とりあえず、それだけはしておいてくださいね?」
優しい声音、しかし、しっかりと圧のある声音で詩に言う春花。それはまるで、悪いことをした子供を優しく叱るような、そんな声音。
そんな春花の様子を見て、朱里は思わずぷっと吹き出す。
「……で、でも……」
「でも、なんですか?」
にこっと優し気な笑みを浮かべる春花。盛大に笑みを浮かべているわけではない。表情の変化の乏しい春花の小さな笑み。だが、その笑みには言いようのない圧があった。
「……あ、あぁ……」
決して逆らってはいけないと思わせる程の圧を前に、詩はぷるぷると小刻みに震える。
春花は皆のママ。詩のその認識はきっと間違えていないし、多くの者がそう思っているに違いない。しかし、ただ優しいだけじゃない事を知らない者が多いのだ。
叱るときはしっかり叱る。それが、春花なのだ。
それを知っているからこそ、朱里は詩の目論みが甘いと思ったのだ。それに、自身の部屋の掃除を他人にやって貰うだけだなんてそんな都合の良い話は無い。詩もタダでやって貰うつもりはなかっただろうけれど、春花にしてみれば対価は要らないから一緒に掃除をしようが導き出される答えなのだ。それが、有栖川春花という人物なのだ。
「できますよね? ね?」
「……ぁぃ……」
笑顔で圧をかける春花に、ぷるぷると震えながら小さく返事をした。
小さいながらも返事が聞けたことで満足したのか、春花は圧を消して一つ頷いた。
「それじゃあ、少しずつで良いので進めてください。後で空いてる日を教えてくださいね。その日に一緒にお掃除をしましょう」
「……ぁぃ……」
すっかり縮こまってしまった詩の返事を聞いた後、肝心の詩の部屋に入ることなく二人は詩の家を後にした。
何せ、見るまでも無いくらいには汚れているはずだ。であれば、何の参考にもなりはしないだろう。
詩の部屋を後にし、二人は次なるお部屋へと向かう。
「……そういえば、魚見さんはどうしてスクール水着だったのかな?」
「アタシとしては、一番にそれに反応して欲しかったわ……」
今更な疑問を口にする春花に、朱里はちょっぴりだけ男の子の自覚を持って欲しいと思うのであった。




