14話 ~死霊の騎士 その2 死の影~
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「ふふ。久しぶりと言うべきかしら?」
亀裂のような笑みを浮かべたままノヴァはタクミに、いや正確には彼の持つナナシへと語りかける。
(ふん。お前にそんなこと言われたくないわ)
「あら、つれないのね」
「ナナシ。アイツを知っているのか?」
(あぁ。アイツの名はノヴァ。下位神の一柱や)
その言葉にタクミは改めてノヴァを見た。飄々とした態度にローブで隠れた体躯は細身に感じられる。長く伸びた髪を後ろに束ね、切れ長の目は愉快そうにタクミを見る。しかし発せられる重圧は今まで感じたことが無い程のものだ。本物の神、その力は如何様の物か。
「ふふ。私が怖い?」
まるで小馬鹿にするような口調だ。うるせ。と舌打ちしながら答えるもその声は震えていなかっただろうか。
(気をつけぇよ。アイツだけは得体が知れん)
かつて起こした神々の戦い。その渦中にあってノヴァもまたツクヨミと同じように不戦を貫いた。だが彼女と違いノヴァだけはその真意が読めなかったのだ。
(お前の目的は何や?)
「私の目的は唯一つ。上位神の従順な手足となることよ」
クスクス笑いながらそう答えるものの、その目には侮蔑の色が浮かんでいた。どうやらまともに答えるつもりは無い様だ。もういい。と会話を打ち切り、
(兄さん、行けるか)
「当然だろ。あの澄ました顔を泣きっ面に変えてやる」
覚悟を決めた。ぐっ、と腰を落とし、シアーに下がれと語る。心配そうな表情でタクミを見るが、足を引っ張ると悟ったのだろう。彼女は言われるがまま下がった。
「ふふふ。安心なさいな。貴方達の相手はこの子よ」
横に立つ騎士甲冑に、行きなさい。と命じた。騎士は頷くと動き出した。その表情は額当てと面頬に覆われ分からない。ガシャガシャと甲冑が擦れ合う音を響かせながらゆっくりと歩き出す。腰に差した剣を抜くと一気に駆けだした。鈍重だった歩き方と違い、その足は速い。瞬く間にタクミとの間合いを詰めるとその剣を振りかぶった。タクミの頭を捉え振り下ろすが、彼の方が一瞬早く、ナナシを翳しその剣を受け止めた。剣とナナシが十字に交差する。
「―――ィ」
騎士が何かを呟いた。だが声色が小さいのか、兜によってくぐもって聞き取れない。
ギシギシとナナシが軋み、タクミの口から苦悶の声が漏れ出る。やがて耐えきれなくなったのか、彼の片膝が地に着いた。なんという膂力の差か。だがタクミとてそう簡単にはやられはしない。
「くっ…。この野郎!」
ナナシを傾け、力をいなす。ナナシに添う様に剣は滑り、騎士の体勢が大きく崩れた。その隙に転がる様に騎士から距離を取る。
「くそ。なんて馬鹿力だ」
体勢を立て直す騎士を見やる。タクミ自身は中肉中背だ。騎士は自分より少し大きいくらいか。鎧の差を考慮しても自分と体格はそう変わらない筈なのにこの力の差だ。
(相手の方が場数踏んでるな)
「経験の差って奴かよ」
だがそれがどうした。埋められない差のある相手など何度も戦ってきた。経験も力も相手が格上と言うなら、それ以外、自分の持てる武器で勝負するだけだ。
「ナナシ、やるぞ」
(はいな。任せとき)
ナナシを肩に担ぎ、片足を後ろへとずり下げた。騎士に対し斜めに構える。僅かに騎士から訝しむ様な雰囲気が伝わった。何をしようと言うのだ。
タクミは不敵な笑みを浮かべると、上段からナナシを振り下ろした。タクミと騎士の間合いではナナシは届かない筈だ。だが、
「今だ!!」
タクミの叫びと同時、ナナシが伸びた。その一撃は騎士の虚を突くには充分だった。兜を打ち付け、騎士がよろめいて数歩下がる。
「あら、随分面白い使い方をするわね」
ノヴァの目が僅かに見開かれた。
(相変わらず汚い手やな)
「うるせ。行くぞ!!」
この隙を逃さず、タクミが騎士へと飛び掛かる。狙う点は唯一つ。
「ここだ!!」
ナナシを振るい、騎士の小手を思い切り打ち付ける。その衝撃に堪らず剣を手放した。地面に転がる剣をタクミは蹴り、遠くへと追いやる。
今度はナナシを、騎士の顎をめがけ一撃を叩き込む。騎士はのけぞる様に背後へと倒れた。仕上げとばかりにナナシで騎士を押さえつける。
「へっ。どうだ」
パチパチと手を叩く音が聞こえた。ノヴァだ。愉悦に浸った表情を隠そうともしない。
「あなた本当に面白いわ」
ナナシを使った奇襲に急所を狙った的確な一撃。なるほど、力の無いこの少年が打てる最善の手と言えるだろう。しかし―。
「まだまだ油断は禁物よ」
「タクミさん!?」
ナナシが動かない。見れば騎士が両手で掴み、ナナシを持ち上げようとしているではないか。
「なっ!?」慌てて押さえつけるが、騎士の力にタクミでは敵わない。ナナシを弾き飛ばすと、騎士は悠然と立ち上がった。
タクミは何故?と驚愕の表情で騎士を見る。ロインの時でさえ、彼はこれほど早く立てなかった。
「ふふ。この子の秘密が知りたいの?」
なら教えてあげる。ノヴァが目配せをすると騎士はその兜を脱ぎ始めた。そして兜の中から現れたその顔は―。
「うっ…」
「えっ…」
タクミとシアーの息の呑む音がやけに響いた。二人の視線の先、騎士の顔―。
―土気色に染まった髑髏であった。
アンデッド―。死者の肉体を利用して生まれた魔物である。
所々に亀裂が入ったその頭蓋と抜け落ちた歯。頭髪も肉の一片も残っていないその様は、一体どれほどの時が過ぎ去ったのか。
「あはははっ!!どう、素敵でしょう?」
絶句する二人をよそに、ノヴァが心底楽しそうに高笑いをする。
「悪趣味な野郎め」
タクミがノヴァを睨みつけ、忌々しげに吐き捨てる。
「ふふふ。いいの、よそ見をして?」
いつの間にか剣を拾った騎士―骨騎士と言うべきか。―が再びタクミを襲わんとする。ナナシでかろうじて受け止め、鍔迫り合いの形にもつれ込むが、
(兄さん。力比べはアカンで!!)
「分かってるよ!!」
ジリジリと押し切られそうになる。髑髏の顔が間近に迫る。だからだろうか、骨騎士の呟きがはっきりと聞こえた。
「―ユルサナイ」
何?と思う間もなく、身体が傾き始めた。このままでは時を置かず押し切られるだろう。
―こうなれば。
僅かに目を瞑り、心の奥底にある黒い感情を呼び起こす。ドクン。と心臓が大きく脈打つ。視界が広がり、口元が歪に緩む。今の状況が楽しいと感じる。身体の隅々にまで力が行き渡る様だ。この骨騎士でさえ相手にならないと思えた。
―その時だった。
「止めてぇ!!」
シアーの悲鳴のような叫びが響いた。ビクリと身体を震わせ、「シアー!?」と振り返る。その目はいつものタクミの目だった。シアーがそれに安心するのも束の間、
「タクミさんっ!?」
(兄さん!?)
骨騎士がタクミを突き飛ばす。よろめくタクミの前面はがら空きになった。そこをめがけ骨騎士の白刃が走る。
とうとうタクミの胸は斬り裂かれた。袈裟に裂かれた胸から鮮血が飛び出す。倒れていくタクミをぽっかりと空いた黒い眼窩が見やる。
「―ユルサナイ」
その呟きは果たしてタクミに向けたものか。
「タクミさん!!」
倒れたタクミに駆け寄り、血に汚れるのも厭わず彼を抱きかかえる。胸からは未だ血が溢れ出るが、タクミは苦しそうに呻く。よかった、息がある。手を傷口に翳し淡い光が生まれた。回復魔法だ。タクミの表情が僅かに緩む。
「あら。もうお終い?」
骨騎士と共にノヴァがゆっくりと近づく。
(ちっ。この性悪が)
「褒め言葉として受け取っておくわ」
やりなさい。と骨騎士に命ずると剣を振り上げた。このままタクミにとどめを刺すつもりか。回復魔法を止めるわけにはいかない。よしんば止めたとしても、今からでは障壁魔法はとても間に合わない。シアーはタクミを庇う様に抱きしめた。白刃が二人に迫る。シアーは来るべき痛みに備えるかのようにギュッと目を瞑る。
「きゃっ!?」引き倒される衝撃を彼女は感じた。
痛みは何時まで経ってもやってはこなかった。
「…何時まで目を塞いでるんだよ?」
え。と目を開けば、タクミだ。彼女と入れ替わる様にその背中で剣を受け止めていた。ポタポタとタクミの身体から血が滴り彼女の頬に落ちる。
「あ…あぁ…」
シアーは口元が震え、喋ることが出来ない。タクミの顔色は悪く、息も荒い。彼は渾身の力で身体を振る。骨騎士が剣を構え直し、距離を取った。
「ぐっ…逃げるぞ…」
タクミは立ち上がると、シアーの手を引き上げた。茫然自失の彼女を引きずるようにして、二人してノヴァ達に背を向けるが、その足は遅い。
「ふふ。今度は鬼ごっこ?いいわよぉ」
追おうとする骨騎士を手で止め、去って行く二人の背を見やる。別に見逃している訳では無い。何処に逃げようと無駄ということを彼等に教え込むのだ。
「うふふ。せいぜい努力なさいな」
酷薄な表情でノヴァはそう呟くのだった。
建物の影に隠れる様に入り込むと、タクミは壁に身体を預けた。ずるずると滑る様に彼は座り込む。その跡には真っ赤な血の筋が。
「タクミさん!?しっかりして下さい!!」
真っ青な顔で傷口に手を当て、再び回復魔法を発動する。
「…悪い。楽になった」
未だ息は荒いものの、流血は収まりつつある。背中の傷も意外と深くは無い。剣がタクミの血脂で濡れていた。刃が悪くなっていた。刃部の根元に近い所で受けた。それぞれの要因が重なったのだろう。しかしそれが何の慰めになろうか。彼女は俯くと地面に透明な滴が落ちた。
「…ごめんなさい…」
消え入りそうな声だった。私のせいだ。私があの時声を上げなければ、こんなことにはならなかったのに。後悔の念が彼女を苛む。
「…まぁいいけどよ」
彼女は項垂れたままで表情は分からない。ふぅ。と息を吐くと、
「でも、どうして止めたんだよ?」
シアーの肩が震えた。やがてポツリと語りだした。
「…タクミさんがまたいなくなる気がしたから…」
「なんだそれは?」
「あれは、あの目は駄目なんです!!あれを続けていたらタクミさんは何時か死んでしまいます!!」
顔を上げ真剣な表情でタクミに涙声で語る。その目は赤く涙が溢れている。堪えきれなくなったのかポロポロと涙が零れだした。
タクミがいなくなった時、彼女は身が引き裂かれる様な思いだった。彼は何時だって私を助けてくれた。だから私も彼を助けてあげたかった。それなのにタクミは何も言わずに消えたのだ。辛かった。助けになれなかった事では無い。彼が何も言わずに消えたことが、だ。私はそこまで信頼されていなかったのか。
だからヒカルがタクミを連れ戻した時はとても嬉しかった。同時にタクミに信頼される様になりたいと思った。そうすれば何時かタクミもあのような目をせずに済むはずだから。
しかし彼はまたあの目をしようとした。またしても私が原因で。とても耐えられなかった。タクミが自分の命を無下に扱っているようで。
「お願いですからもう止めて下さい。そうでないと、私…」
その後は言葉にならなかった。再び俯き、すん。と鼻を啜る音だけが聞こえるだけだ。
タクミは困ったように目を泳がしていたが、
(兄さん。気を付けェ。来よったで)
その言葉に慌ててシアーを胸元に抱き寄せた。小さな悲鳴が聞こえたがそれどころではない。息を殺し、気配を消す。少しでも気付かれぬようにと。
「あら、今度はかくれんぼ?」
相変わらずクスクス笑いながら、二人を探すように建物を見て回る。
「ここにいるのかしら?」
これ見よがしに声まで出して探していることを強調する。舌打ちをし、シアーを更に強く抱きかかえる。
―コイツだけは守らねぇと。
ヒカルの顔が思い浮かんだ。こんな自分を友と呼ぶのだ、あのお人好しは。ならばシアーを守り切らねばヒカルに合わす顔が無い。
もっともその気持ちの他に、他の感情が少し混ざっていることに彼はまだ気付いてはいないのだが。
「あら、ここにはいないのかしらね」
骨騎士と共に何処かへと去って行った。それを見届け、完全に姿が消えたことを確認すると、
「…あ、あの、苦しいです…」
シアーの苦しそうな声が聞こえた。
「あ、悪い」
力を緩めるとシアーが、ぷはっ。と息を吐く。頬が紅潮しているのは息苦しかっただけだろうか。
「タクミさんは大丈夫ですか?」
「あぁ、魔法のおかげでとりあえず血は止まった」
「…ごめんなさい」
血は止まったものの、未だ開いたままの傷口を悲し気に見やる。傷が大きすぎる為、塞ぎきるのにまだ時間が必要なのだ。もう一度回復魔法をかけようと手を伸ばせば、その手をタクミが抑える。温存しておけと。
「まだ何があるか分からねぇ。今はここから抜け出さないとな」
ナナシを呼び、何か知っていることは無いかと聞く。
(あぁ。この状況はおそらく結界魔法や。それも超が付くほどの上等の、な)
「他には何か?」
(この結界は使い手を倒さん限り解けん。或いは結界外から干渉するか、や)
「ちっ。八方塞がりじゃねぇか」
今の状態ではノヴァを倒すことは厳しい。いや、万全であってもだ。ましてや外からの干渉など出来る筈も無い。
(唯一希望があるとすればあのアンデッドを倒すことくらいか)
ノヴァが先ほど言ったことを思い出す。貴方達の相手はこの子よ。と言ったのだ。ならばあの骨騎士を倒せば或いは。
「よし。ならそれに賭けるぞ」
問題はどうやって奴を倒すかだ。剣の腕だけ見ればヒカル以上の使い手なのだ。そこにあの。と遠慮がちの声が響いた。シアーだ。
「アンデッドは火や聖なるもの。それに回復魔法に弱いとされています」
つまり―。
「私があの骨騎士に回復魔法をかければもしかすると…」
「駄目に決まっているだろ!!」
シアーの言葉を最後まで聞くことなくタクミが止めた。
「それはお前が前に出るってことだろ。そんな危険なことさせられるか!!」
自分でさえ追い詰められたのだ。ましてやシアーが出ればどうなるかなど想像に難くない。というより想像したくない。
「ですが他に方法が…」
「ある!!」
言い切ったタクミにシアーは驚いたように見やる。タクミの表情は苦し紛れのそれでは無く、確かに何か思いついた顔だ。
「お前の言葉に思いついたことがある。俺を信じられるか?」
タクミの目はしっかりとシアーを見ていた。その目は死に向かう目では無く、生きようとする意志に満ちた目だ。ならばシアーに反対する理由などない。
「はい!!」満面の笑みで大きく頷いた。信じられるか?その言葉を心の中で反芻する。
―何時だって信じています。
一番欲しかった言葉を掛けて貰えたのだ。彼女の心は温かいもので満たされた。
「よし、なら行くぞ」
そう言って振り返った瞬間だった。
「―見ぃつけた」
タクミの鼻先にノヴァの顔があったのだ。
「―――っ!?」
「タクミさん!?」
ナナシを振るうがひらりと躱される。その隙を縫って二人は物陰から飛び出た。進路の先には骨騎士が待ち構えていた。
「かくれんぼはもうお終いよ」
二人の背後から悠然とノヴァが歩み出る。シアーを庇う様にタクミは背後に彼女を遣る。その姿にノヴァはすっと目を細めた。
「さぁ。続きを始めましょう」
ノヴァが手を翳すと、それが合図とばかりに骨騎士が進みだした。
(兄さん。手はあるんやな)
「あぁ。っていうかこれしかない」
骨騎士に対してナナシを構える。ナナシに否定の意思を込め、強く握りこむ。
(反魔法?…そういうことか!)
「おぉっ!!」骨騎士に向かって駆け出す。そしてナナシを振りかぶり、反魔法を込めた一撃を振り下ろす。骨騎士は剣で受け止めようとするが、
「くらえ!!」
剣とナナシがぶつかり合った瞬間、骨騎士の身体が大きく震えた。反魔法が骨騎士の魔力を霧散させ、力が抜けた様にその場に膝を突いた。
「はっ。どうだ!」
「へぇ…」
反魔法の一撃で動かなくなった骨騎士を見て、ノヴァが感嘆の息を漏らす。
元来、死体が動くなどありえないのだ。もしそれが動くとなれば、何時かのガーゴイルと同じ、魔力を原動力としていると踏んだのだ。そしてそれは見事に当たったのだ。
「この勝負、俺達の勝ちだ」
骨騎士の傍をすり抜け、ナナシをノヴァへと突き付ける。ノヴァはタクミと骨騎士を交互に見やり、
「ふふ。あははは!!本当に面白いわ、あなた」
でも。亀裂の様な笑みを深めた。
「まだ終わってないみたいよぉ?」
ガシャリと音がした。振り返れば、骨騎士が再び動き出そうとしているではないか。
「何だと!?」
(ちっ。もう一回や。兄さん!!)
その言葉にはっとして、反魔法を込めた一撃を今一度骨騎士へと見舞う。今度こそ骨騎士の肩へと当たったが、それでも動きは止まらない。そして緩慢な動作で立ち上がると、タクミへと向き直った。
「―ユルサナイ」
剣を振り上げ、タクミへと一撃を放つ。その剣筋は相変わらず鋭いものの、動き自体は遅くなっている。確かに反魔法は効果があったのだ。だが―。
「どうなっている。反魔法が効いてないのかよ?」
(いや、確かに効いとるわ。でもアイツそれ以外の要因でも動いとる)
くそ。と骨騎士へと一撃を与える。先程までと違い攻撃を当てることは容易だ。しかしどれほどの痛痒を与えたところで、何度でも向かってくるのだ。このままでは自分の体力の方が先に尽きるのかも知れない。その証拠にタクミの顔色はどんどん悪くなり、息も荒くなっている。胸の傷もどんどん熱を持ち始めている。
「タクミさん!」
堪らずシアーが前に出て来た。そして彼を庇う様にタクミを背に両手を広げた。
「馬鹿野郎!!何やってるんだ!?」
慌てて肩を掴み、自分の背後に遣ろうとする。しかしシアーは動かない。
「このままではタクミさんは死んでしまいます。だから逃げて下さい!」
「何言ってんだ!そんなことしたらお前が死ぬだろ!!」
「ふふ。痴話喧嘩とは余裕ね」
やけに響くノヴァの声にタクミはシアーを無理矢理後ろへ下がらせる。その様子を見ていたノヴァは、やはり亀裂の様な笑みを深くし、
「ふふふ。そんなにその娘が大事?」
「お前には関係ねぇよ」
うふ。と笑い、芝居掛かったように腕を組み、思案するように首を傾げる。やがて何かを思いついたとばかりに人差し指を立てた。
「なら今度はこういう遊びはどう?」
言うや否や、掌をタクミに向けた。タクミとナナシの周囲が俄かに輝き出す。
「テメェ。何をした!?」
(この阿呆。まさか!?)
「うふふふ。この後あなた達はどのような表情を見せてくれるのかしら?」
シアーがタクミへと手を伸ばす。タクミも彼女の手を掴もうとするのだが―。
「さぁ、頑張りなさいな」
その手は互いを掴むことなく空を切った。シアーの目の前でタクミは消えたのだ。
彼女は振り返り、ノヴァを睨みつけた。
「タクミさんに何をしたのですか!?」
シアーが悲痛な叫び声をあげた。しかしノヴァは彼女の気迫に何ら怯む事は無い。
「ふふ。あなた自分の心配をした方が良くてよ」
ガシャガシャという音と共に骨騎士が近づいてきた。その様子をノヴァは楽しそうに見やる。
「さぁ、楽しみなさいな」
「―ユルサナイ」
彼女に死の影が迫る―。
次話は週末の土曜をめどにアップしたいと思います。




