間章3 ~蠢くもの~
ご閲覧ありがとうございます。
今回は短めです
追記 タイトルを入れ忘れていました。
静寂のみが支配する空間は神々しさよりもうすら寒さを思わせる。辺りは一面の白。空間には遮るものが無くどこまでも広がっている様ではないか。
その空間を一人の人物が踊るように廻る。くるくると―。
男とも女ともつかないその人物は口角を持ち上げた。まるで亀裂の様な笑みだ。
「ふふふ。あはは」
広げた両手で自身を抱く。光悦の表情に艶めかしい吐息が漏れた。視線の先、白の彼方から誰かがやって来た。杖を突く老人のようなその姿。だが、その雰囲気はおよそ老人の持つそれでは無い。
「あら、珍しい。あなたが来るなんてね、ロゥ」
ロゥと呼ばれた老人はその言葉に反応するでもなく、淡々と口を開いた。
「ノヴァよ、首尾の程は?」
純白の空間に声が響く。その声は威厳に満ちた老練のようでもあり、若年のようでもある。異様な雰囲気と相まって、得体の知れない雰囲気を醸し出す。
「えぇ、上々よ。私も少し動こうかと」
ノヴァと呼ばれた人物はその声にまるで物怖じせず、楽しみを見つけた子供の様に弾んだ声を出す。
「ふふ。いい玩具を見つけたのよ」
老人はその言葉に不愉快そうに目を細めた。ただそれだけでこの場の空気が一層重くなる様だ。
「…奴が帰ってきたか」
「そうよ。それも反転存在を引き連れてね」
おそらくあの女の手引きでしょうけど。踵を返すとノヴァはその場で再びくるくると廻りだす。
「彼等は私の物よ」
踊る様な動作で楽しげに言う。その言葉にやはりロゥは何も言わず、反応を見せない。それを肯定と取ったのか、ノヴァの笑みは深まった。
「―原初より続く悲願。それには異物は不要」
目を瞑り、老人はただそれだけを言い、そして消えた。ノヴァが目を離した一瞬で文字通り消えたのだ。
「うふふ。さぁ、私を満たしてね」
身体を抱き、あぁ、と艶めかしい息を吐くのだった。
その村はとても小さな村だった。村人たちはその日その日を細々と暮らしていたのだ。特に何かがある訳でもない。唯一あるとすれば村を出て少し行った先にやはり小さな遺跡があるくらいだ。しかしそんなものいくらあったところで生活が楽になる訳でもない。たまに来る学士が少しのお金を落として行くくらいだ。
そんな村を繋ぐ街道にいつの頃からか魔物達が徘徊するようになった。このままでは村に攻め入ってくるのも時間の問題だ。その事にほとほと困り果てた村人たちは国へと討伐依頼を嘆願したいがどうにも出来ない。魔物のいる街道を突っ切って討伐依頼を出す。そんな芸当が出来る者などこの村にはいなかった。
そんな時だった。その騎士がやって来たのは。
白銀に輝くその鎧や剣は一片の曇りもない。それ以上に村人の目を引いたのは彼の顔だ。整い過ぎというほどに整った顔に白い肌。頭髪や瞳までもが白い。それは老人の様な白髪ではなく正に純白と言って良い様なものだ。
誰かが彼をこう呼んだ。
―純白騎士と。
彼は村人の嘆願を眉一つ動かさず頷くことで了承とした。村人たちは喜びに沸いたが、それ故に誰もが見落としていた。
彼がどうやってこの村に来たのか―。
徘徊する魔物達はハウンドやゴブリンといった所為、低級魔族と呼ばれる者達だ。だがそれでも数があれば脅威となる。
彼―純白騎士―は無表情に周りを見る。魔物達の数は三十を超えるだろうか。彼は何も思わず前へ出た。一体のハウンドが飛び掛かってきた。だが―。
―銀閃が走った。
一瞬だった。ハウンドの首が胴体から別たれたのだ。おそらくハウンドは死んだことにさえ気づいていない筈だ。そしてその剣には血糊さえついていない。彼はそれを確認することもなくただ前へ歩み出る。
彼は何も思わない。何故ならこれは断罪なのだから。
神々に抗う愚かな種族の末裔。それだけで断罪するに値する。そしてこれは同時に救済でもあるのだ。
断罪された魂は再び神の下で救済される。断罪による救済。故に彼は何も思わない。ただ断罪を行うのみだ。
ゴブリンの首を切り捨てる―。
ハウンドが左右に別たれた―。
インプが切り刻まれた―。
いつの間にか彼等の足は止まっていた。たった一人の人間にここまでやられるとは思ってさえいなかったのだ。
数を頼みに出来ない。そのことを悟った彼らは一斉に純白騎士を囲む。魔物達の闘争本能が警告を発していたのだ。
この人間は危険だと―。
或いは本能に従い逃げ出していればこれから起こることは防げたかもしれない。だが彼らは人を下に見る。どれだけ強かろうが人間如きが我らに敵うものかと。その傲慢さが本能を否定したのだ。四方から一斉に飛びかかる。これでは流石の騎士も防ぎきれぬと。
だが―。
剣を鞘に納めた彼は手を天に突き出した。瞬間、空に向けた掌から光が爆ぜた。まるで太陽の様に。
太陽。本来、天にあって初めて恵みとなるものだ。それが地表に在ればどうなるのか―。
その日、村を含めた街道一帯が消えた。
後に残ったのは巨大な火口の様なくぼ地だった。
しばらくその国はその地一帯を封印した。天の災いか、魔王と化した上位魔族の覚醒、或いは復活か。いずれにせよ原因は彼らには及びもつかないのだ。
純白の空間。ノヴァは一人歩き出す。楽しそうに。そうとても楽しそうに。手に入れた玩具でどう遊ぼうかと思いを馳せる子供の様に。
「うふふ。あははは!」
すべては順調だ。彼等の思うままに。




