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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第6章「人はダジャク」
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第49話「人跡未踏」

「君達は温いんだよ。監禁者と被監禁者にも関わらず仲良しこよしをして、挙句にストックホルム症候群とリマ症候群だ。

 三〇代女性が男子高校生を監禁。この字面だけで世間はあらゆる憶測と情報が飛び交い、警察庁でも旋律が走った。

 けど、箱を開けてみたら退屈極まりない。被疑者は、あっさり罪を認めるし、被害者は被疑者を庇うし、挙句に叩いて出た埃は微々たるもの。いい加減、楽しいネタでも提供してくれないかな? お腹空いちゃったよ」


「貴方、人として最低ですよ」


「お腹空いたで思い出した。お腹空いてない? てか私がお腹空いちゃったからなんだけどね? 何食べたい? かつ丼、天丼、親子丼、なんて結構メニューあるんだよね。どれにする?」


「……じゃあ親子丼で」


「分かった! ねぇねぇ、かつ丼と天丼一つずつー」


「俺、どっちも頼んでませんけど」


「私が天丼を食べるんだよ」


「俺が頼んだのは親子丼なんですけど」


「浅沼君、空気読みなよ。ココでかつ丼を食べる機会なんて滅多にないんだよ! 体験して、ペロッと吐いて、パーッとサヨナラしよ!」


「真実ならちゃんと話しました! 三人が同じことを喋ってるんですから、いい加減認めてくれてもいいんじゃないですか!?」


「三人が示し合わせて、同じことを話してる可能性も否定出来ないだろう?」


「は?」


「コレ、なーんだ」


 そう言って並べられたのは、この間、新垣さんとドライブした時の写真だった。


「尾けてたんですか?」


「それがお仕事だからね」


「男二人追い回して楽しいんですか?」


「男二人が何か企ててるんじゃないかと刑事さん心配でねー」


「嘘吐かないでください」


「この男には余罪がある」


 囁くように告げた彼が、にんまりと不気味な表情を浮かべる。僅かにビクついてしまったことを彼に悟られていないかどうか不安で堪らなかった。


「君のお父さん、高一の時、不良に襲われて入院してるんだってね」


「そうなんですか。知りませんでした」


「それを指示したのが、この男、新垣伊澄らしいんだ。冴島は『知らない』の一点張りだし、浅沼……あ、君のお父さんの方ね。彼は新垣を知らないという。それなのに君は、こーんなにも新垣を慕ってる。不思議だね? 君の話から察するに新垣は恋敵だろ? どうしてこんなに仲が良いんだい?」


「それは……」


「それは?」


 鸚鵡返しを決めた彼が両肘を附き、忙しなく手を絡ませている。生唾を呑み込んだ俺は意を決して返答した。


「一夏さんを通じて知り合ったんです。幼馴染みらしくて。それで……はじめは仲良くなかったんですけど、この間、心配して会いにきてくれたみたいで、それだけですよ」


「ふぅん」


 つまらない、とでも言いたげな口吻で彼は息を漏らす。


「他に何かありますか? 何回、同じ質問をされても俺の答えは変わりません。一夏さんは俺に酷いことはしなかったし、俺は彼女を愛しています。でも嘘は吐いていません。それが、ただの真実なんです」


 極上の笑みを返したつもりだった。嫌味を飛ばす彼に通じたかは分からない。それでも意趣返しがしたかった。


「分かりました。では、あとは裁判で」











 彼が、その後、俺を事情聴取に呼ぶことは無かった。次に顔を合わせたのは本当に裁判の際で、吃驚を零したのを覚えている。

 裁判で顔を合わせた一夏さんは、表情こそ暗いものの、痩せたり、やつれたりはしていなかった。彼女なりに覚悟をして犯行に及んだのだから当たり前なのかもしれない。


 視線が絡んだのは一度だけ。思わず声を掛けそうになったが、自身の喉を諫めた。だって、そうだろう。法廷の場では、彼女に迷惑がかかってしまうのだから。

 誓いを立て、裁判が進んでいく。一夏さんには情状酌量の余地があると判断され、軽い刑で済んだのだった。

 泣くほど嬉しかったのは、再会の時が近いと思えたからだ。その時には告白の答えが聞きたいと目で訴え、その場を後にした。


 コレは余談だが、新垣さんは結局捕まらなかったらしい。用意周到で頭の良い彼らしい。何一つ証拠を残さなかった彼は裁判の後、消息を絶った。


 元々、何も知らなかったのだが、煙草の匂い一つ残さなかった彼の手腕は見事である。俺は夏休みの間中あらゆる知恵を絞ったが、結局、彼の足取りを辿ることは出来なかった。

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