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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第6章「人はダジャク」
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第48話「人面獣心」

 愛してると言えたとしても、きっとこんな結末だったのでしょう。

 この物語は悲劇ですらないのだ。そんなこと考えたって無駄だから。

 消え去ってこの心ごと。泡になってしまえ。

 叶わなくていい、愛の告白。


 *


「黙秘権を行使します」


「え~、そんなの困っちゃうなぁ」


 全然、困っていないだろう水卜刑事が、机に肘を附いて笑みを浮かべる。目の奥は相変わらず笑っておらず、背筋が粟立った。


 新垣さんと会ってから十日。紐解いた真実の先に、件の〝先輩〟が捕まった。父は結局お縄にはなっていないが、母との関係はギクシャクしたものとなっているらしい。

 一方の俺は、両親と会話することがなくなっていた。父は何か言いたそうな顔をしているが、結局唇を真一文字に引き結んだままだし、一夏さんを悪く言う母に彼女を愛していることを伝えた為、母は母なりに接し方を考えあぐねているようだった。


 新垣さんとは連絡先を交換していない為、彼からのアクションが無ければ会うこともない。少し仲良くなれたような気がした為、残念だったが、新垣さんが捕まった時に繋がっていない方がいいとの判断で、連絡先を交換することは無かった。

 そんな風になってはじめて住所も勤め先も知らない俺は、彼のことを何も知らないのだと痛感する。彼が居たことで救われた気持ちもあり、感謝の念を伝えたくとも伝えられない日々を過ごしていた。


「冴島のこと知りたくないの?」


 我ながら打てば響く鉄のようだと思う。撥ねた眉が俺の心情を表していた。


「『隼君は元気ですか?』って聞いてきたんだよ?」


「……元気ですって伝えてください」


「だからね『残念ながら被害者の現状を被疑者に伝えることは出来ません』って言ったんだ」


 思わず舌打ちをする。睨み付ければ、楽しそうに唇を歪める彼がいた。


「リマ症候群って知ってる?」


「今度は一夏さんがそうだって言いたいんですか?」


「調べてきたんだ?」


「いいえ。でも、この間がストックホルム症候群で、今度は違うのが出てきたってことは、そういうことじゃないんですか?」


「へぇ、意外と賢いんだね」


「賢くなったんですよ。多少は、ね……」


「リマ症候群は、ストックホルム症候群とは逆に、監禁者が被監禁者に親近感を持って、攻撃的態度が和らぐ現象のことを言うんだ。

 被監禁者がストックホルム症候群になっている状況下で、監禁者が被監禁者よりも人数が極端に少なく、かつ被監禁者に比して監禁者の生活や学識・教養のレベルが極端に低い場合に起こるとされている。

 一九九六年から一九九七年にかけて発生した在ペルー日本大使公邸占拠事件では、教育も十分に受けずに育った若いゲリラ達が人質と生活を共にするにつれ、室内にあった本などを通じて異国の文化や環境に興味を示すようになり、日本語の勉強を始める者が出てきたそうだ。

 ペルー軍特殊部隊が強行突入する中、人質部屋で管理を任されていた一人の若いゲリラ兵は、短機関銃の引き金に指をかけていたが、人質への親近感から引き金を引くことができずに部屋を飛び出し、直後にペルー軍特殊部隊に射殺された。

 悲しい事件だよねぇ。そのまま引鉄を引いちゃえばよかったのに」


「何が言いたいんですか」

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