第47話「恋恋」
「レイプのことを言っても、水卜は歯牙にもかけなかった。あの不気味な面で『そうなんですか』で終わり。たしかに〝復讐〟なんてものに正当性はない。それでも経緯次第で、いくらでも免罪になる可能性はある」
「だったら、それを貫いていけば……」
「いいのか?」
「なにがですか?」
「お前は犯罪者の息子になるってことだぞ?」
「……はい」
「一生背負っていく業だ。簡単に返事をしていい問題じゃない」
「分かってます」
「本当に?」
「分かってますよ。でも、俺だけ安全圏にいるわけにいかないじゃないですか」
心配そうな面持ちに、苦笑を浮かべる。どうすれば彼を安心させることができるのか、俺には分からなかった。
「ここまできたら真実を明らかにしましょう。誰も救われなくても。俺達家族が後ろ指を差されても、一夏さんが苦しんでも……それが一番良いような気がするんです。
俺は早く大人になりたい。一夏さんを支えていけるような大人になりたいんです」
「一夏を支えるのは俺だ」
額を軽く小突かれる。僅かな痛みに目を見開けば、柔らかく笑う彼がいた。
「痛いです」
「そんなに強くやってない」
「真実は一夏さんの罪を重くしません。心を救えるかは分かりません。きっと父が話していた真実は、一夏さんを苦しめると思います。でも、彼女を罪から引き揚げることは出来る。
俺は一夏さんに前を向いて歩いて欲しい。明るいフリじゃなくて、俺みたいに見てみぬフリをするんじゃなくて、ちゃんと……ちゃんと前を向いて、未来を見据えて生きて欲しい。俺が出来たんだ。強い一夏さんになら、きっと出来ます」
「俺もアイツの時間を進めたい。それには罪悪感が付き纏うけど……それがきっと俺の責任だから」
「はい。じゃあ俺達も進みましょう。一夏さんを助ける為に……でも今までのようにじゃなくて前向きな気持ちで」
「……本当にいい子に育ったな。クソ親父の血が入ってるとは思えん」
「俺がこんな風になれたのは、一夏さんのお陰ですよ。彼女が貸してくれた部屋で沢山の本を読んで、色んな価値観を学んだんです。そして、考える時間を沢山くれました」
「そうか」
彼女は復讐の為に俺に近付いたのだと言っていた。けれども彼女が、俺という人間と向き合ってくれたからこそ、いい方向に向かうことが出来たんだと思う。
ならば、彼女の未来も明るいものがいい。ヒーローにはヒーローらしく、抜けるような青空のもとに居て欲しいから。
「そういえば二人っていくつなんですか?」
家路を辿る車内で問い掛ける。彼は暫し逡巡してから口を開いた。
「一夏は三十四で俺は三十八だな。いや、三十九か?」
「あ、そっか。一夏さんは父さんと同級生だから同い年……って新垣さん三十八なんですか!? もう四〇じゃないですか!?」
「うるさいな。なんだよ」
「全然見えないです! いってても三十五ぐらいかと思ってました」
「それじゃ一夏と変わらないだろ」
「一夏さんはいってても三〇くらいかと思ってました。そもそも二十五くらいかと思ってました」
「二十五!」
大口を開けてゲラゲラ笑い出した所為で車が左右に揺れる。
「あ、安全運転でお願いします!」
「お前天然かよ。あー、笑った。昔は老け顔って言われてたアイツも今じゃ童顔か」
「だ、だってハードな服着てるから……」
「確かに三〇越してるやつがする恰好じゃないよな。露出度高いし」
「ですよね!」
「まぁ、似合ってるけど」
「ですよね」
帰りの車内は意外と明るかった。久しく笑っていなかった俺は、彼と話す度に笑声を上げていた。




