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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第6章「人はダジャク」
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第50話「人心一新」

 *


「おはよ、隼」


「おはよう、春原」


「その……大丈夫か?」


「ああ」


 世間を騒がせた事件は、未だ健在らしい。春原には事情を全て話してある。これで貸し借りを零にし、俺達は秘密という縁で繋がれた。きっと彼とは、一生の友人になれることだろう。


「昨日、どうだった?」


「どうもなにも、って感じかな」


 登校を一日遅らせたのは、彼に校内の様子を前もって教えて欲しかったからである。苦笑には、ぎこちない笑みを返す他なかった。


「隼の話題で持ちきりだよ。……暫くは、ああいう目で見られるだろうね」


 春原が目配せした方を堂々と見やる。視線の先には、目を剥いた女生徒達が逃げるように去っていった。


「まぁ、仕方ないよね」


「そうだね。お陰で階段の方は誰も気に留めてないよ。でもね……」


 教室の扉を開くと、クラス中の視線が此方を向く。気まずそうな様相は、見ている此方が苦笑を浮かべてしまいそうだった。


「おはよう」


 こういう時は自分から挨拶するべきだろう。些か強くなった精神に感謝するも、やはり応えるものがあった。

 各々が仲の良い友人達と顔を合わせ、苦笑交じりの挨拶を返してくる。それに対して言及はせず、春原を見やった。


「で? どうしたの?」


 一旦話をやめた彼は「ああ」と口を開く。けれども彼の声が発する前に、女の声がそれを阻んだ。


「今、何て言った?」


「……もう、やめてって言ったの」


「は?」


「もう、こういうことはしないで」


「アンタ、私に口答えしてんの?」


「もう、やめて……!」


 頭に包帯を巻いた藤崎が、相田さんの髪を鷲掴む。慌てて駆けよれば、相田さんは痛みで顔を歪ませながらも意思を紡いでいた。


「私、両親にイジメのことを話したの。そしたら、ちゃんと話を聞いてくれた。『やめて』って言ってやめてくれなかったら学校側に訴えて、それでもどうにもならなかったら裁判を起こす。私は、もう言いなりにはならない。だからやめて!」


「アンタ、頭おかしんじゃない!?」


「もう、やめなよ」


「浅沼……」


 相田さんに向かって振り上げた手を掴む。俺の姿を確認した藤崎は驚いたように名を呼んでいた。


「コレって傷害罪が適用されるよ?」


「はっ! おばさんに監禁されてた、ひ弱な男のクセになによ!」


「それは侮辱罪かな」


「はい! こっち向いてー、犯罪者の顏ちゃんと撮らなきゃー!」


 スマホを掲げた春原が藤崎、長沼、宮澤の順にカメラへ収めていく。顔を赤黒くした三人は歯を食いしばって憤怒していた。


「なにすんのよ!?」


「それはコッチの台詞。いい加減、ガキくさいことはやめなよ。ココにいる全員が目撃者なんだよ」


「因みにコレはムービーです!」


 片目を瞑った春原が得意げに鼻を鳴らす。息を呑んだ彼女らは教室を見渡してから、逃げるように立ち去って行った。


「相田さん、頑張ったね」


「あ、ありがとう……うっ……ふ……グスッ……!」


「泣かないで」


 春原が相田さんの頭を撫でる。号泣する彼女を慰めるかのように紡がれる優しい言葉は、とても温かかった。

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