第43話「恋心」
「でも彼女は、誰にも助けを求めたりしませんでした。教師も気付いていたし、クラス内ではイジメをするグループを疎ましがる雰囲気もあったんです。でも彼女は何も言わず、親にも相談しなかったみたいです。
今のイジメって凄く陰湿なんですよね。SNSを使って悪口を言ったり、グループから外したり、あられもない噂を吹聴したり……大人から見たら、くだらないことでしょう。自分達でも、こんなものに振り回されてバカみたいって思うんです。でも、自分が次のターゲットになるかもしれないって思うと、誰も『やめろ』なんて言えなくなるんですよ。むしろ止めに入ろうとする友人に『やめておけ』って言うようになるんです。被害者も傍観者も、SOSが出せないのがイジメなんです。
きっとこういうものに、時代の風潮って無いんでしょうね。SNSが普及して嫌がらせが身近に……だと語弊がありますけど。指先一つで、人を生かすことも、殺すことも出来る。今は、そんな時代です。でも人の心って、そう簡単に変わるものじゃないんだと思います。
だから一夏さんだから助けを求められなかったわけじゃないと思うんですよね。きっと誰でも、そういう状況になったら助けを求められないものなんです。
一夏さんは俺に『ヒーローになれ』って言っていました。きっとイジメられてた子に、新垣さんみたいな人を作ってあげたいって思っていたんじゃないでしょうか? 多分、俺に新垣さんみたいになって欲しかったんだと思います。
イジメられてた子に『助けて』って言ってもいいんだよ。『辛い』って言ってもいいんだよ。俺を通して、そう伝えたかったんだと思います。自分と同じ思いをさせないように」
「どうして、そこまで……」
「分かりません。でも一夏さんは、多分そういう人なんだと思います。彼女は自身の行為を偽善だと言っていました。
そう言われると、なんかモヤモヤして。でも上手く言葉に出来なくて。ずっと残ってたものがあるんですけど。でも今やっと分かりました。
俺は、それで救われる人がいるならいいんじゃないかなって思うんです。例え、それが偽善でも、救われた方が、その人をヒーローだって思ったら、それはきっとヒーローなんですよ」
「滅茶苦茶な理論だな」
「知ってます」
眉尻を下げて笑う彼は、憑き物が落ちたような顔をしている。俺は、それに微笑を湛えながら、自身の出した答えで胸懐を満たした。
「俺が一夏さんを助けたいと思うのは好きだからというのもあります。告白の答えは貰っていないし、諦める気もありません。
でも俺が一夏さんを助けたいと思うのは、そんな一夏さんに救われたからです。俺のヒーローだから助けたいって思うんですよ」
「そうか。なんか、お前と話せて良かったって思うよ。一夏のことが少し知れたし、お前と浅沼が違う人間なんだなって思えた」
赤信号で車が停まる。一人の人間だと認められたことが、ほんの少し嬉しくて目元を緩めた。




