第41話「恋敵」
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「なんなんだあのオッサンは……」
「嫌がらせに決まってんだろ」
「新垣さん」
「アイツがパトカーで送らせるのは嫌がらせだ。そして暗黙のメッセージだよ『早く話せ』ってな」
「早く話すも何も俺は事実を話してるだけです!」
「それを俺に言われても困るんだよ。ちょっと時間あるか?」
「ちょっとどころか、たっぷりありますよ。夏休みなんで」
「学生はいいな。長期の休みがあって……一夏の時間は、きっと夏休み前で止まってるんだろうけど」
呟きながら歩む彼の後を付いて行く。暫く歩んでいると車が止められていた。
「乗れ。店じゃ話せないやつだ」
「分かりました」
俺が乗ると同時に動き出す。車を運転する横顔まで絵になるものだから、同じ男として嫉妬を覚えた。
平凡な自身と違って、涼し気で整った顔立ちをしているのだ。悔しく思っても仕方ないだろう。
「新垣さんは、一夏さんの身代りになろうとするんだと思ってました」
「俺だってなれるものならなりたかったよ。でもアイツを迎えに行く奴がいないと可哀想だろ。あの刑事相手だと、どこまで欺けるか分かんないけどな」
「欺くって……新垣さんは何もしてないじゃないですか」
「昔、浅沼……お前の父親を病院送りにした。どこから足がつくか分からないし、お前が監禁されてるのを知ってて黙っていた。そもそも、この復讐の話を知ってたんだ。余罪は、いくつもある」
黙り込む俺に、何か勘違いしたらしい彼が舌打ちをする。
「俺は謝らないぞ。アイツがしたことは犯罪だ。病院送りにしたことは絶対謝らないからな」
「それに関しては何も言うつもりはありません」
「は?」
「俺には関係ないことですし、むしろ好きな人を痛めつけた男が父親で憤ってます。制裁を下してくださって礼を言いたいくらいです」
「へぇ、意外だな」
「意外でしたか?」
「ああ。うじうじ、じめじめ、べそ掻くだけのクソガキだと思ってたからな」
「なんですかその湿ったイメージ」
「俺の嫌いなタイプ」
「俺も新垣さんみたいな人は嫌いです」
「馬が合うな。俺も一夏に近付く男は死ぬほど大嫌いだ」
「俺だって一夏さんに大切に思われている男なんて嫌いです」
「逃げてただけのガキは卒業したってわけか」
独る彼が車通りの少ない道を選んで行く。過ぎ去る景色は、どこも変わらず、都会の街そのものだった。
「スマホ、サンキュ。ちゃんと礼言えてなかったからな」
「そんなことは全然」
「一夏に不利な証言をしないでくれてありがとう」
「一夏さんは捕まるようなことをしてないんだから当たり前です。アレは俺が自分から言い出したんですから」
「そうか」
互いに緘黙したことで静寂が落ちる。ずっと言うべきか言わざるべきか悩んでいたことも、今なら言える気がした。




