第33話「罪過」
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「高校は、すぐに辞めた。とても行ける状態では無かったから」
「レイ、プ……」
「アイツは、そこを話さなかったんだね」
「はい。一夏さんをイジメていたとしか……」
「汚いところは息子に知られたくないってことか。虫のいい話だね。
イジメてた理由は聞いた?」
「皆がやっていたから、と」
「加害者なんてそんなもんだよね」
新事実を聞かされ、思わず口元に手を添える。先程胃に流し込んだ昼食が逆流してきそうだった。
「今日はココまで。じゃあ隼君の話を聞こうかな」
「俺の?」
「学校で何があったの?」
唐突な問い掛けに目を瞠る。口籠っていれば、彼女が先に言葉を紡いだ。
「隼君の通ってる学校で女子生徒が階段から転落したんでしょ? ニュースでやってたんだけど……」
目配せに息を呑む。春原の為にも口を滑らせるわけにはいかない。けれど、一夏さんのしてることも犯罪だ。そう思えば言ってもいいかもしれない、なんて衝動に駆られた。
「やっぱり前のも、お友達がやったんだね」
「違います! 春原は前のには関わってない!」
「成る程。今回の犯人は春原君なんだ」
自信あり気な顏に、目を剥く。刹那、誘導尋問に引っ掛かってしまったのだと気付き俺は唇を噛んだ。
「教えて。何があったのか」
妖しさに逆らえない。学校での出来事を語れば興味無さげに「ふぅん」と呟く彼女がいた。
「春原君、勇気あるね」
「これって勇気、なんですかね。俺は、これが正しいとは思えないんです……」
語気を弱めながら顔を歪める。自身の主張に自信がない俺は、彼女の顔を見るのが怖かった。
「伊澄はね。私が暴行されたのを知って、した奴らを暴行しに行ったの」
「え?」
「あとから聞いた話なんだけどね。伊澄って、あれでいて結構優秀なの。それでいて人望も厚い……というより交友関係が広いのかな。少し春原君に似てない?」
「そうですね。優秀かは置いておいて、交友関係が広くて、思い切りがいいところなんかは似てるかもしれません」
「だから仲の良い不良に頼んでボコボコにしたんだって」
「そんな話、父は……」
「言うわけないでしょ。固く口止めしたみたいだし、そもそも〝どうして〟そんなことをしたか、みたいなものは言わなかったみたい。だから何が理由でそうされたのかなんて本人達は分かってないんだと思う。浅沼は、もしかしたら勘付いていたかもしれないけどね」
「そうだったんですか……」
スーツ姿の父を思い浮かべるも、そんな過去は似つかわしくないような気がする。それは一夏さんも同じで、今の彼女からは想像出来なかった。
「だから私は伊澄を突き放せない。私の為に彼は犯さなくてもいい罪を犯してしまったから。これは、ずっと胸に秘めておくつもりだし、もう誰にも言わないの」
「どうして俺には教えてくれたんですか?」
「『これが俺の正義なんだよ』」
「え?」
「伊澄も春原君と同じようなことを言ってたの。私は今でも彼に悪いことをしたなって思ってるし、暴力を振られたから暴力で返そうなんてのは間違ってると思う。でも、それでスッキリしたというか……救われた気がしたのも本当だったんだよね。
隼君も、そういうところ無かった?」
押し黙る俺にチカさんが「そっか」と呟いた。
「今は認められないのかもしれない。勿論、世間的に見たら間違ってるのは一目瞭然だよ。でもね、そこに救われた人がいることを忘れないで」
迷いのない瞳が爛々と輝いている。俺も大人になれば、こうなれるのだろうか。そんなことを考えていれば一夏さんが退室して行った。




