第31話「罪根」
*
伊澄は私に「そんなに辛いなら学校に行かなくていい」と言ってくれた。しかし、当時の私にとって〝学校〟とは学ぶ場所。友達と仲良くする為に行っているわけではない。ましてや高校は義務教育ではなく、自身で選んだ道。少し躓いたからと言って簡単に〝行かない〟という選択は出来なかった。
だからこそ私は学校に通い続けた。増える傷は、伊澄が癒してくれる。それを心の支えに、私は頑張ることを止めなかった。
――それが悲劇に繋がるとも知らずに。
相も変わらず呼び出されては暴行される毎日。その日は夏休み前日の登校日。そんなことすら忘れていた私は、空っぽの教室に一人立っていた。
――終業式くらい行かなくてもいいかも。
疲れ切った身と心で自身の席に腰掛ける。開け放った窓からは生温い風が舞い込み、私の髪を揺らしていた。蝉の合唱に耳を澄ます。普段は騒々しい教室も、誰もいない世界なら心地良いことを知った。
机に突っ伏し、微睡む意識に身を任せる。夢の世界へ迷い込もうとしていた最中、無理矢理身体を起こされた。
「こいつか?」
「は、はい!」
「へぇ、可愛いじゃん」
悍ましい声に背筋が粟立つ。私の口を塞ぐ男の顔は見えなかったが、汗で湿ったシャツが腕を撫ぜるものだから吐き気が込み上げた。
混乱した脳漿で、どうするべきか思惟する。耳介を撫でる吐息に吐き気を催しながら、私は必死に抵抗した。
「暴れんなよ」
そんなに顔を近付けるな。首筋に感じる気配に総毛立つ。そのまま無理矢理空き教室に放り込まれ、ガムテープで口を塞がれた。
男二人がかりで身体を拘束され、身動きが取れない。もがくように手足をバタつかせるも無意味だった。
「おい、見張っとけよ」
「はい」
聞き覚えのある音色に声の主を探る。教室から出て行くのは浅沼で、顔を上げた先には、やんちゃで有名な先輩がいた。その瞬間、全ての符号が一致する。叫び出したい衝動に駆られたが、口唇で堰き止められるものだから、私は一度たりとも怒りをぶつけることが出来なかった。




