第30話「罪因」
*
浅沼はクラスの中心で、けして真面目ではなかったが、その人柄からクラス委員を任されたりしていた。
一方の私は可もなく不可もなく。友達がいないわけではないが、けして明るいグループに属するわけでもない。明らかにタイプの違う私達の認識はお互い〝ただのクラスメート〟だった。
入学から二ヶ月。ゴールデンウイークも過ぎれば本性が顕わになる。私は元々属していたグループのメンバーに疎まれ始めていた。理由なんて些細なものだったのだろう。
音楽の趣味が合わなかった、とか。笑いのツボが違う。口調が気に食わない。交友関係が気に入らない。上げていけばキリがないし、上げていっても、どれが本来の理由かなど分からなかった。
けれども学生時代など、そういうものだ。些細な擦れ違いが大きな亀裂を生み、やがて大惨事へと発展する。いつの世も大した変化はない筈だ。人間とは元来、弱いものいじめを好む種族なのだから。
元々、私は大多数に溶け込むのが得意ではない。だからこそ、その時も「こんなものだろう」なんて諦めていた。
「いつも一人だよね」
そんなことが当たり前になりつつあったある日。屋上で音楽を聴いていた私に話し掛けてきたのが浅沼だった。
「悪い?」
「悪いなんて言ってないだろ。何聴いてんの?」
「別に」
「ボカロでしょ?」
「……なんで知ってんの?」
「俺も好きなんだよね。前、音漏れしてた時に聞こえてさ。ずっと話したいと思ってたんだ」
その後、彼とはそこそこ仲良くしていたように思う。けれども、それも夏休みを過ぎたあたりに変貌した。
私を疎ましく感じ、嫌がらせをしてきていたのは元々仲良くしていた女子達。けれども浅沼と話すようになってから、それがクラスの女子へ伝染していった。
靴を隠され、机の中にゴミを入れられるなんて日常茶飯事。誹謗中傷、暴力まで加わると精神が削られていく感覚を身を持って体感した。
そのうち女子だけではなく、男子からも嘲笑が飛んでくるようになる。そこには浅沼もおり、私はその時〝人なんか信用するものじゃない〟と学んだ。
両親は多忙で、傷だらけの私を気に掛ける人なんかいない。そんな中、私に優しくしてくれたのが伊澄だった。
彼とは暫く疎遠になっていたのだが、偶然帰宅の時間が被った時、私の傷を見て走ってきてくれたのだ。それが、どれほど嬉しかったか他の人には分かるまい。両親の愛情に飢えていたせいもあったのだろう。限界に達した私が号哭するのを、彼は慰めてくれた。
*
「だから私にとって伊澄は大切なの。辛い時にずっと傍にいてくれたから」
既視感を覚える。相田さんと似たような状況に、俺はまるでタイムスリップしているかのような錯覚を覚えた。まるで一夏さんの過去を盗み見ているような幻覚を見たような気がしたのだ。
「続きは明日ね」
一夏さんが、その後、足を運んでくれたのは食事を運ぶ時のみ。リビングに行って続きを催促したい気分にもなったが、俺を縛る鎖が、それを許してはくれなかった。
リビング手前までの長さしかない鎖には、悔しさを抱える他ない。本当に彼女は復讐するつもりだったのだ。鎖の長さで思いの強さを実感すれば、やるせなさが溢れた。




