第29話「罪人」
あの子が僕を好きなこと。きっとはじめから分かっていた。
出逢いが偶然じゃないこと、気付かなくていいのです。
知られたくない。知ってほしいなんて思えません。ただ事実のみを述べさせてください。感情が逆流しそうなのです。
好き。嫌い。好き。
愛の言葉はいつだって吐き気を伴うものでした。
*
「気分はどう?」
「おはようございます」
デジタル時計が午前九時を指している。カーテンの涼やかな音色に瞼を持ち上げれば一夏さんがいた。
「朝ご飯食べる?」
「頂きます」
トースト、目玉焼き、コーンスープ。簡易的な朝食をベッドの上に置いた彼女は俺が食べる様をジッと見てきた。
「どうしました?」
「足りるかな、と思って」
「十分ですよ」
昨夜、足枷を付けられた俺は、大人しくゲストルームで過ごしていた。スマホは取り上げられたが、トイレや風呂場までは難なく足を伸ばせるし、ゲストルームに鍵が掛けられることはない。本当に監禁する気があるのか怪しいものだが、右足に付けられた足枷は重く頑丈に見えた。
「あの、過去の話っていつ聞かせてもらえるんですか? それと一夏さんが送ってくれて構わないので、親に暫く家には帰らないって……」
「隼君のスマホは破壊したよ」
「え?」
「GPSが付いてても厄介だし、まだ見つかったら困るからね。隼君、監禁の意味分かってる? 私は浅沼に復讐する為に君を監禁してるの。アイツが困って、焦って、精神を壊さなきゃ意味がない。生きてるか生きてないか分からないまま、行方が分からないまま、アイツには生き地獄を味わって貰うの」
「でも……そんなことしたら警察に!」
「捕まるだろうね。でも、それでいい。私はもう外の世界で生きていくのには疲れた。好きなことしてる時は楽しいけど、一人の時間はいつも虚しくなる。
どうして、こうなったんだろう。どうして、私がこんな思いをしなきゃいけないんだろう。傷は塞がるどころか、どんどん膿んで私を戻れないところまで追いやる。……もう疲れたの。だからアイツに復讐したら、もう生きてる意味もない」
「自殺、するんですか?」
「さぁね」
彼女がいつも通り笑うものだから、俺の胸は軋む。この皹を、どうしたら埋められるのかが分からなかった。
「私と浅沼は、はじめ普通のクラスメートだった」




