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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「人はシレモノ」
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第28話「虞美人」

 *


「夜に来るなんて珍しいね」


「……そう、ですね」


「どうぞ」


「お邪魔します。新垣さんは?」


「伊澄? 今日は、というか暫く来ないけど?」


「なら丁度良かったです」


 俺の言葉に彼女が意味深な笑みを浮かべる。唇は弧を描くのに、瞳の奥は笑ってなどいなかった。けれど、父から聞いた事実を確かめずにはいられない。今日起こった学校での一件を掻き消すかのように、俺はチカさんを見据えた。


「チカさん……いえ、冴島一夏さん。俺と貴女の出逢いは仕組まれたものだったんですか?」


「お父さんから話を聞いたの?」


「はい。俺に近付いたのは復讐……する為ですか?」


「隼君は、もう分かってるでしょ? ココに来ることの意味分かってる?」


「分かってます……でも信じれなくて。だから真実を聞きに来ました。父さんと一夏さんの関係は、イジメの被害者と加害者で間違いないですか?」


「大正解。よく分かりました」


「本当のこと、教えてくれますよね? 俺は貴女の言う正解に辿り着いたんですから」


「浅沼からは何を聞いたの?」


「一夏さんとはクラスメートだったこと。貴女をイジメていたこと。そして退学したこと。それから……後悔してる、って言ってました。何回謝っても赦されない。非道なことをした、と」


「加害者ってのはお気楽でいいわね。謝れば赦されるとでも思ってるのかな」


「父は、そんなこと思っていないと思います」


「アイツが一つ成功したことと言えば、隼君が真面に育ったって点かな。まぁ、それも罪の上に成り立った仮初のものと言っても過言ではないけど」


「俺、真面ですかね」


「少なくとも父親よりは大分マシ」


 吐き出すように語りながら、彼女は本が沢山溢れるゲストルームに俺を誘う。リビングでないことに首を傾げていれば「伊澄が来るかもしれないから」と言った。先程の発言と照らし合わせ、浮き彫りになる矛盾点。疑問を募らせていれば、ベッドに座るよう促された。


「伊澄は全部知ってるの。私が、どういう意図で隼君に近付いたのかも、私の過去も。だから隼君が毎日来てるって知ってから、突然来ることが増えた。どうしても阻止したかったんだろうね。私の復讐を」


「一夏さんは俺をどうしたいんですか? なんで俺に近付いたんです?」


「一番、憎い相手に復讐したいと思う時、何をするのが効果的か考えたの。

 よく憎しみを家族にまで向けるのはお門違いなんて言うじゃない? その理論は分からなくもないし、私もその通りだと思う。でもね、一番ダメージを食らうのは家族を攻撃された時だと思わない? 私は綺麗ごとに準じて生きられるほど、清純には出来てなかったんだよ」


「一夏さんの気持ち分かります……」


「へぇ? 分かってくれるんだ?」


「俺……」


 隣に腰掛ける彼女の手が、俺の片頬に触れる。覗き込むように顔を傾けられ、息を呑んだ。








 ――過去のこと知りたいんでしょ? 事細かく聞きたくない?


 勿論、否と答える術は持っていない。全て解った上で、俺は彼女を受け入れたいと思ってしまっていたから。そして今日、起こってしまった惨劇も、俺の罪も、受け入れて欲しい。そんな風に思った。

 例え理由が復讐でも、それを遂行する為に練られたプロセスだったとしても、彼女が俺に優しくしてくれたのは事実だ。その優しさは紛れもない真実で、俺の心を動かし、恋心を植え付けた。

 だから彼女が望むというのなら、何でも叶えてあげたかった。父の過去に、人として複雑な思惟が渦巻いたが、全てはそこから始まったのだ。そのお陰で彼女は俺に興味を持ち、罪を打ちあけてくれるまでになった。


 きっと俺達は、どう転んでも、こんな未来しかなかったのだろう。出逢いだって仕組まれていて、それでも俺は必ず彼女に惹かれたのだ。

 泣いているように笑うこの人を、慰めてあげたいと思ったに違いない。きっと新垣さんが彼女に心を傾けたのも、そんな理由なのだろう。けれども、最後に選ばれたのは俺だった。俺であって欲しい。

 だからこそ、彼女の復讐を遂げさせてあげたいと思った。それが俺に出来る唯一贖罪であり、愛情表現だと思ったから。


「一夏さんは何をするつもりだったんですか?」


「監禁」


 目を瞠ったのは一瞬だけ。俺は、そのまま足枷を付けられ、彼女に飼われることを誓った。

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