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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「人はシレモノ」
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第27話「一人静」

「藤崎! 藤崎大丈夫か!?」


「藤崎!?」


 いつの間にか階下に移動したらしい春原が藤崎に寄り添い身体を揺らす。心配しているような顔つきは、先程浮かべていた邪悪な表情とかけ離れていた。


「宮澤! 先生を呼んできてくれ!」


「わ、わかった!」


 動転した様子の宮澤が走り去って行く。恐る恐る階下に足を伸ばせば、春原が俺を見据えてきた。


「俺、なにも……」


「知ってる。俺がシャツ引っ張ったんだし」


「え……?」


「相田」


 優しい声音を携えた春原が相田さんを呼ぶ。さすれば彼女は階段を駆け下りてきた。涙声で謝罪を繰り返す様は痛々しくて堪らない。


「どういうこと? まさか長沼も!?」


「隼は相田を助けようとした。そこで藤崎と揉み合いになり、足を踏み外した彼女が落ちて行った。俺は助けようとしたけど無理だった。二人共、それでいい?」


「そんなこと……」


「分かった」


「隼もいい?」


「でも……!」


「俺を犯罪者にしたいの?」


「……わか、った」


 瞳に水膜を張ったままの相田さんが頷く。春原は俺を見据えると念を押してきた。吐き出すように首肯する俺の肩を叩く彼。「あとで説明して」と言えば、強い眼差しを携え「分かった」と言っていた。









 端的に言えば、長沼の事件に犯人はいなかった。


 委員会の最中、職員室へ向かう相田さんを長沼が捕まえ、感情のまま詰っていたところを春原が見つけたらしい。階段で行われていたそれが不幸を呼ぶなどと思っていない長沼が意気揚々と退散しようとした時、彼女は自ら足を滑らせ転落した。

 しかし、それを彼女が「相田の仕業だ」と吹聴したことでコトが大きくなる。春原の証言で相田さんが無実になれば、それを理由にイジメの内容が過激になった。

 それをどうにかしたいとは思っていたようだ。けれども彼が介入したところで焼け石に水。判断を間違えば火に油を注ぐだけ。どうにか出来ないだろうか、そんなことを考えていれば俺の変化に気付いた。

 そんな俺が登校したことで、何か起こる気はしていたらしい。春原は居なくなった俺を探し、階段で揉める俺達を見つけた。そして、この作戦を思い付いたそうだ。宮澤は相田さんしか見ていないし、目撃者は相田さんと俺の二人のみ。敵になり得ないと判断した彼は躊躇いもなく実行した。


 真相に目を瞠るも、彼を責め立てることは出来ない。帰り道で話を聞く俺は、言葉を返すことが出来なかった。


「幻滅した?」


「……いや、正直助かった、と思う」


「曖昧だね」


 この方法は間違っている。けれども相田さんの気持ちを考えれば、否定することは出来なかった。それでも引っかかるのは、俺がチカさんのことばかり考えているせいだろう。

 正々堂々と、なんて思ってはいなかったが、あまりにも卑劣過ぎる。拳を握るも、胸中で渦巻く言葉を口にすることは出来なかった。


「助けるなって言ってたのに」


「そうだね。はじめは巻き込む気なんてなかった。あの話したのもね、噂好きなで情報通な俺が久しぶりに登校した友達に長沼の件を話さないのは不自然でしょ? それだけで話を振ったんだよ。まぁ、犯人でもなんでもないんだけどさ。当事者になっちゃうと渦巻くものってあるよねー」


「なんであんなこと……」


「あのままじゃ隼が酷い目に遭ってたでしょ? 俺はそうなったら助けられない。ただのクラスメートと友達じゃ〝傍観者〟である時の罪悪感が違う」


「だからって!」


「間違ったことをした自覚はあるよ。でも俺はコレが正しいと思ったし、アレは自業自得だ。因果応報。恨みを買うようなことをした彼女が悪い」


 確かに言ってることは間違っていない。言い返せない俺は間違っているのだろうが、彼は彼なりの正義を貫いただけだ。けれども気持ちを昇華出来ない。顔を歪めるだけの俺に、彼は困ったように笑って行ってしまった。


 傾いた夕陽が彼の背を照らす。寂しそうに見えるのは、そうあって欲しいからなのか、そうだからなのか判断出来なかった。

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