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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「人はシレモノ」
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第25話「雲上人」

 *


「ねぇ、父さん。どういうこと? チカさんと、どんな関係なの?」


「お前には関係ない」


 帰宅したのは昼過ぎだというのに、父が話を繰り出すことは無い。痺れを切らして夕飯後問い掛けるも、素っ気ない言葉が返ってきた。

 母が友人と外出していて良かったと思う。こんな話を大っぴらに出来るのは彼女がいないからだ。2LDKのアパートは話し声まで筒抜けである。今、聞き出せなかったら二度と聞けないような気がした。


「関係ある。チカさんの本名は一夏って言うの?」


「あの女のことを知ってどうするつもりだ」


「好きな人のことを知りたいって思ったらダメなの?」


「お前、あの女と付き合ってるのか!?」


「付き合ってない。今は、まだ片思いだけど……いつか好きになって貰いたいって思ってる」


「ダメだ。二度と、あの女に近付くな。アイツは……」


 そこで閉口した父は、ばつが悪いとでも言いたげに目を逸らす。続きを待ってみるも、彼が話し出すことはなかった。


「アイツは、なに?」


「……どうやって知り合ったんだ。アイツとお前に接点は無い筈だ」


「駅で偶然……それで悩みを聞いて貰ってるうちに……」


「もしかして、学校にも行かず、あの女のところに行ってたのか?」


「学校に行ってないこと知ってたの?」


「当たり前だろ。学校から連絡がくるんだから。母さんは心配してたが、そういう時もあるかもしれないから、と暫く好きなことをさせていることに決めたんだ。夏休みが空けても行かないようだったら理由を聞こうと思ってたんだが……あの女……やってくれたな……!」


 口惜しいとばかりにテーブルを殴りつける父。先程、食事を終えたばかりの食卓には食器が羅列したままだった。

 彼の行動に呼応するかのように、皿とテーブルが鳴る。劈くような悲鳴は虚しく響き、やがて緘黙する俺達に倣った。


「……その出逢いは偶然じゃない。全部仕組まれていたんだ」


「なんでチカさんが、そんなこと」


「……ッ……復讐だよ。アイツは俺に恨みがある。まさか本当に隼に近付いてくるとは……」


「どういうこと? 父さん、なにしたの?」


「それは言えない」


「じゃあチカさんに聞く」


「やめろ! あの女には二度と近付くな!? 殺されるぞ!?」


 唐突に双肩を掴まれ吃驚する。痛いくらいに鷲掴んだ父の両手は震えていた。恐る恐る彼の表情を覗き込む。黒々とした眼は憂懼を塗り込み、怯える様を露わしていた。


「チカさんみたいな優しい人が殺すなんてするわけないだろ」


「アイツの優しさは偽りだ!」


「……じゃあ教えてよ。父さんとチカさんの間に何があったの?」


「……それを話したら、もう二度とあの女と関わらない。そう、約束するか?」


 約束。その言葉に躊躇いが生じる。けれども人間が好奇心に勝てるわけなどなかった。


 ――俺とアイツは……。

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