第24話「因果人」
愛が欲しいと泣けたなら、きっとこんな結末ではなかったのでしょう。
監禁の先に何が待っているのか。そんなこと考えなくても分かっただろうに。
罵られても構わない。どうせなら責め立てて。
僕を嫌いだと叫び散らしてくれ。
*
「チカさん」
「なに?」
「このクリアケース何に使うんですか?」
「衣替え」
「夏なのに?」
「夏だからでしょ」
「普通、もっと早くやるもんですよ」
「うるさいなぁ、やるんだからいいじゃーん」
土曜日に呼び出された俺は買い物帰りに不満を呈する。クリアケースを買ったかと思えば、それを持たされながら延々歩かされたのだ。好きな人じゃなかったらキレて帰っているところである。
「チカさんはそういうところが……」
「隼」
聞き慣れた声に背後を振り仰ぐ。そこにはスーツを纏った父がいた。
「父、さん」
「そんなものを持って何をしてるんだ」
「いや、これは、その……」
しどろもどろに言葉を繰り出すも、冷汗が止まらない。この状況を説明しようにも、いい言葉が浮かばないのだ。焦燥を表すかのように心臓は拍を早める。唇も震えている気がして、俺は気道が狭くなるような錯覚に襲われた。
「久しぶり、浅沼」
「一夏……? なんでお前がココに!?」
「なんでもなにも隼君と出掛けていたからよ」
「俺の息子に何をする気だ!?」
柔らかく笑むチカさんと、憤怒する父。二人の間には立ち入れぬ雰囲気が漂っている。けれども、やっと見つけた蜘蛛の糸を手離す気はなかった。
「どういうこと……? 父さん、チカさんと知り合いなの?」
俺の問いに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる父。一方のチカさんは、涼しい顏で髪を耳に掛けていた。
「チカ、か。上手く擬態したものだな」
「擬態? 私は高校の頃の仇名を使っただけだけど?」
「減らず口は相変わらずだな」
「そんなことを言える立場なの? ああ、浅沼の秘密を隼君は知ってるのかな? ねぇ……」
「やめろ!! 隼は関係ないだろ!?」
「関係ないかなぁ? 私には、そう思えないんだけど?」
「二度と息子に近付くな! 帰るぞ!」
「ま、待ってよ!? 父さん!?」
「説明は後だ! そんなもの捨てていけ!」
父の咆哮に彼女が揺らぐことはない。ひったくられたクリアケースは、父がチカさんに差し出すことで彼女の手に収まっていた。
掴まれた二の腕が痛む。引っ張られていく自身は相当格好悪いに違いない。しかし振り解けなかった。あまりの剣幕に目を瞠るだけの俺は、幼稚園児と相違ない。それでも振り仰いだチカさんは、いつも通り手を振っていた。
――またね。
との言葉を紡いで。




