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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「人はシレモノ」
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第24話「因果人」

 愛が欲しいと泣けたなら、きっとこんな結末ではなかったのでしょう。

 監禁の先に何が待っているのか。そんなこと考えなくても分かっただろうに。

 罵られても構わない。どうせなら責め立てて。

 僕を嫌いだと叫び散らしてくれ。


 *


「チカさん」


「なに?」


「このクリアケース何に使うんですか?」


「衣替え」


「夏なのに?」


「夏だからでしょ」


「普通、もっと早くやるもんですよ」


「うるさいなぁ、やるんだからいいじゃーん」


 土曜日に呼び出された俺は買い物帰りに不満を呈する。クリアケースを買ったかと思えば、それを持たされながら延々歩かされたのだ。好きな人じゃなかったらキレて帰っているところである。


「チカさんはそういうところが……」


「隼」


 聞き慣れた声に背後を振り仰ぐ。そこにはスーツを纏った父がいた。


「父、さん」


「そんなものを持って何をしてるんだ」


「いや、これは、その……」


 しどろもどろに言葉を繰り出すも、冷汗が止まらない。この状況を説明しようにも、いい言葉が浮かばないのだ。焦燥を表すかのように心臓は拍を早める。唇も震えている気がして、俺は気道が狭くなるような錯覚に襲われた。


「久しぶり、浅沼(あさぬま)


一夏(いちか)……? なんでお前がココに!?」


「なんでもなにも隼君と出掛けていたからよ」


「俺の息子に何をする気だ!?」


 柔らかく笑むチカさんと、憤怒する父。二人の間には立ち入れぬ雰囲気が漂っている。けれども、やっと見つけた蜘蛛の糸を手離す気はなかった。


「どういうこと……? 父さん、チカさんと知り合いなの?」


 俺の問いに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる父。一方のチカさんは、涼しい顏で髪を耳に掛けていた。


「チカ、か。上手く擬態したものだな」


「擬態? 私は高校の頃の仇名を使っただけだけど?」


「減らず口は相変わらずだな」


「そんなことを言える立場なの? ああ、浅沼の秘密を隼君は知ってるのかな? ねぇ……」


「やめろ!! 隼は関係ないだろ!?」


「関係ないかなぁ? 私には、そう思えないんだけど?」


「二度と息子に近付くな! 帰るぞ!」


「ま、待ってよ!? 父さん!?」


「説明は後だ! そんなもの捨てていけ!」


 父の咆哮に彼女が揺らぐことはない。ひったくられたクリアケースは、父がチカさんに差し出すことで彼女の手に収まっていた。


 掴まれた二の腕が痛む。引っ張られていく自身は相当格好悪いに違いない。しかし振り解けなかった。あまりの剣幕に目を瞠るだけの俺は、幼稚園児と相違ない。それでも振り仰いだチカさんは、いつも通り手を振っていた。


 ――またね。


 との言葉を紡いで。

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