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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「人はクセモノ」
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第23話「憎悪」

 *


「じゃあ、また来ますね」


「うん、また明日」


 リビングで別れを告げた俺は彼女に向かって笑む。このやりとりに慣れたことが、とても嬉しかった。

 明日、また来てもいいのだ。明日、チカさんに会える。会えるだけで、こんなにも嬉しい。こんなにも幸せだ。そんな風に思う自身は不思議だったが、それでもいいと思った。


 登校してから一週間。俺は変わらぬ日々を過ごしている。夏休み前には登校しようと思っているが、それまではこの日々を楽しむことにしていた。

 夏休み前に何かしたところで、数日すれば自然と散り散りになる。一度、長期の休みに入ってしまえば怒りも治まる筈だ。仮に、そうならなかったとしても、証拠を押さえて提出してしまえばいい。学校側が動かずとも、その後は法的措置なり手はそれなりにある。いっそターゲットになってしまった方が楽に思えた。自身、一人ならば動きやすいし、上手くいけば同情を買える。優しいチカさんのことだ。責任を感じて、もっと面倒を見てくれることだろう。それは一種の〝愛〟だ。どんな感情でも俺を見てくれるのなら十分に思えた。


「勿論〝今は〟ってだけだけどね」


 玄関で靴紐を締めながら呟く。帰ろうかと立ち上がれば扉が開いた。


「お、まえ……!?」


 彼を認識すると同時に、胸元を締め上げられる。息苦しさは感じたが、俺はソレを表さず怒りで歪んだ顏を見上げた。


「やめてください」


「来るなって言ったよな」


「ここの家主はチカさんです。チカさんがいいって言ったんですから、新垣さんに、そんなこと言う権利はありませんよね」


「ハッ……! お前もアイツに触発されて強くなった気でいるのか!」


「これから強くなるんですよ。牽制するのは勝手ですが、こんなところチカさんに見られたいんですか?」


「気安く呼ぶな……! アイツはお前のせいで!」


「俺のせい?」


 先程まで牙を剥いていた彼の瞳が泳ぐ。チカさんが言っていた言葉が巡った。


「俺とチカさんは会ったことがあるんですか?」


 胸倉を掴まれたまま問い掛ける。悔し気に眉を寄せる様は肯定を示していた。


「何を知ってるんですか!? 教えてください! 俺は……」


「密談なら、もう少し静かにやったら?」


「チカさん」


 舌打ちした新垣さんが俺を解放する。深く呼気を吐きだした彼は、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で謝罪を告げていた。


「チカさん! 俺と会ったことあるんですか?」


「その答えは自分で見つけてって言ったでしょ?」


 極点の氷のような眼差しが注がれる。彼女の表情に〝いい思い出〟でないことは明らかに思えた。

 けれども、その理論でいくと助けてくれる理由が分からない。共に過ごした〝時〟を信じたい俺は、拳を握り締めたままドアノブを握った。


「チカさん」


「なに?」


 背で響く声を噛みしめながら、俺は口を開いた。


「俺、待ってますから。いつか答えを教えてくださいね」


「待て」


「なんですか?」


 手首を掴まれ彼を振り仰ぐ。憤怒を宿しているのだろうと思った眼は、哀愁で濡れていた。

「もう来るな。お前の為にも、アイツの為にも」


 内緒話のように声を潜めた彼が、力づくで俺を外へ追い出す。本当に刹那的なそれに言い返す隙すらない。瞬きの間に閉じた扉は、虚しさで空気を揺らしていた。


「なんだよ、それ……」


 独る俺に応えはない。仕方なしに家路を歩むも、言葉の意味を理解することは出来なかった。

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