第23話「憎悪」
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「じゃあ、また来ますね」
「うん、また明日」
リビングで別れを告げた俺は彼女に向かって笑む。このやりとりに慣れたことが、とても嬉しかった。
明日、また来てもいいのだ。明日、チカさんに会える。会えるだけで、こんなにも嬉しい。こんなにも幸せだ。そんな風に思う自身は不思議だったが、それでもいいと思った。
登校してから一週間。俺は変わらぬ日々を過ごしている。夏休み前には登校しようと思っているが、それまではこの日々を楽しむことにしていた。
夏休み前に何かしたところで、数日すれば自然と散り散りになる。一度、長期の休みに入ってしまえば怒りも治まる筈だ。仮に、そうならなかったとしても、証拠を押さえて提出してしまえばいい。学校側が動かずとも、その後は法的措置なり手はそれなりにある。いっそターゲットになってしまった方が楽に思えた。自身、一人ならば動きやすいし、上手くいけば同情を買える。優しいチカさんのことだ。責任を感じて、もっと面倒を見てくれることだろう。それは一種の〝愛〟だ。どんな感情でも俺を見てくれるのなら十分に思えた。
「勿論〝今は〟ってだけだけどね」
玄関で靴紐を締めながら呟く。帰ろうかと立ち上がれば扉が開いた。
「お、まえ……!?」
彼を認識すると同時に、胸元を締め上げられる。息苦しさは感じたが、俺はソレを表さず怒りで歪んだ顏を見上げた。
「やめてください」
「来るなって言ったよな」
「ここの家主はチカさんです。チカさんがいいって言ったんですから、新垣さんに、そんなこと言う権利はありませんよね」
「ハッ……! お前もアイツに触発されて強くなった気でいるのか!」
「これから強くなるんですよ。牽制するのは勝手ですが、こんなところチカさんに見られたいんですか?」
「気安く呼ぶな……! アイツはお前のせいで!」
「俺のせい?」
先程まで牙を剥いていた彼の瞳が泳ぐ。チカさんが言っていた言葉が巡った。
「俺とチカさんは会ったことがあるんですか?」
胸倉を掴まれたまま問い掛ける。悔し気に眉を寄せる様は肯定を示していた。
「何を知ってるんですか!? 教えてください! 俺は……」
「密談なら、もう少し静かにやったら?」
「チカさん」
舌打ちした新垣さんが俺を解放する。深く呼気を吐きだした彼は、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で謝罪を告げていた。
「チカさん! 俺と会ったことあるんですか?」
「その答えは自分で見つけてって言ったでしょ?」
極点の氷のような眼差しが注がれる。彼女の表情に〝いい思い出〟でないことは明らかに思えた。
けれども、その理論でいくと助けてくれる理由が分からない。共に過ごした〝時〟を信じたい俺は、拳を握り締めたままドアノブを握った。
「チカさん」
「なに?」
背で響く声を噛みしめながら、俺は口を開いた。
「俺、待ってますから。いつか答えを教えてくださいね」
「待て」
「なんですか?」
手首を掴まれ彼を振り仰ぐ。憤怒を宿しているのだろうと思った眼は、哀愁で濡れていた。
「もう来るな。お前の為にも、アイツの為にも」
内緒話のように声を潜めた彼が、力づくで俺を外へ追い出す。本当に刹那的なそれに言い返す隙すらない。瞬きの間に閉じた扉は、虚しさで空気を揺らしていた。
「なんだよ、それ……」
独る俺に応えはない。仕方なしに家路を歩むも、言葉の意味を理解することは出来なかった。




