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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「人はクセモノ」
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第19話「醜悪」

「なんかコレ実話らしいよ」


「え?」


「何年か前にあったストーカー? 監禁事件? とかのなんかじゃないかってネットで騒がれてんだよね」


「なにそれ……不謹慎過ぎない?」


「なんか未解決らしくて犯人の手記じゃないかって噂もあんだよ」


「それいいの?」


「いいわけないじゃん。だから真相を~ってので今流行ってんだよ。隼、何か知ってる?」


「どう考えても……」


「あははは! 見た? あの顏! 超傑作」


「ホントだよね~」


 紡ごうとした言葉を遮られる。思わず肩を揺らし背後を仰ごうとすれば、春原に止められた。


「やめとけ。最近、刺激が足りないとかほざいてたからターゲットにされるぞ」


「……まだやってたの?」


「やめるわけないだろ」


「そうだけど……」


 不満を吐き出すかのような口吻で言葉を返す。一瞬、不穏な空気が流れたものの、教室内はすぐに偽りの平和を取り戻した。


「ここからが本題」


「なに?」


「さっきの歌、見立て殺人が起きたらしい」


「え……?」


イジメの主犯(あの)グループの一人がストーカーに殺されたみたい」


 春原の言葉に背筋が粟立つ。目を瞠っていれば、真剣な表情から一転、破顔した彼が俺の額を小突いた。


「なんてな!」


「え!? 嘘!?」


「嘘に決まってんだろ」


「どっからが!?」


「見立て殺人のあたり」


「後半全部嘘じゃん!?」


「嘘に決まってんじゃーん、お前休んでる間ニュースの一つも見なかったわけ?」


「そもそもニュースとか、あんま見ないし」


「俺をほっぽった仕返しだよ」


「悪趣味」


「まぁ、あいつらの一人が怪我したってのは本当。なんか階段から突き落とされたとかで足骨折して入院してる」


「それって……」


「復讐の線を疑うだろ? ところが残念。そん時、相田(あいだ)は俺と委員会の仕事してたんだよねー」


「じゃあ誰が……」


「隼は誰だと思う? まぁ怪我した長沼(ながぬま)

、リーダーの藤崎ふじさきも、腰巾着の宮澤(みやざわ)も結構恨み買ってるからなー、そこんところ含めて学校側も大事にはしたくないみたい。現在進行形で相田は、あの通りだしね」


 春原が目配せした方を見やると、体操服姿の相田さんが顔を伏せながら入室しているところだった。ホームルーム前の教室で体操服を纏っているのは彼女のみ。クラスメートは見て見ぬフリを徹底していたが、その姿は異質極まりなかった。

 肩で揺らぐ髪が、しとどに濡れている。顔を隠し身を縮こせる様は、可哀想でならなかった。


「可哀想だよねー、トイレで水でも掛けられたかな。まだ夏で良かったね」


「そういう問題じゃ……!」


「その程度に収めときなよ。手出しても出さなくても拗れるもんなんだから。それに手出した日には隼が次のターゲットになるよ?」


 言い返せなかった。彼の言っていることは正しい。けれども納得は出来なかった。


 ずっと、ずっと迷っていたのだ。目の前で行われる凄惨なイジメは、見ているだけで胸が痛む。良心の呵責に耐え兼ね、俺は学校に行かないという選択肢に縋りついたのだから。けれども、チカさんの言ったことが脳内で幾度となく反芻された。

 彼女が同じ立場なら、迷いなく相田さんを助けに行くのだろう。いや、彼女でなくとも勇気のある〝俺〟だったなら、既に行動していたのかもしれない。それでも、これはただの〝たられば話〟である。彼女はココにいないし、勇気のある〝俺〟なんてものも存在しなかった。


「隼」


「なに?」


「間違っても助けようなんて思うなよ。俺は友達が苦しむところを見たいわけじゃないからな」


 下を向いた俺が首肯したとでも思ったのだろう。彼は予鈴が響くと同時に、俺の前から退散したのだった。

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