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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「人はクセモノ」
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第18話「悪路」

 *


 騒々しい通学路を緩慢に歩む。そんな俺を追い越す学生たちは、悩みも無さそうな顔で通り過ぎて行った。


 本当は学校など行きたくない。けれども、チカさんの家に居座るよりマシだと思った。どこに行っても居場所と言えるほどの場所はない。座り心地の悪い椅子に長年腰掛けているような自身の人生が、これからどうなっていくのか考えたくも無かった。


「おっはよー、隼」


 肩を叩かれ、伏せがちだった顔を上げる。そこには満面の笑みを浮かべた友人が、いつもと変わらぬ様相で挨拶を繰り出していた。


「おはよ」


「なになに? サボりはおしまい?」


「んー、そんなとこ」


 曖昧に笑む俺に対して、興味無さそうな彼は「ふぅん」と呟き、昨日あった出来事をつらつらと語り出した。適当に相槌を打っているなど思いもしないのだろう。時折、鸚鵡の如く言葉を繰り返す俺に、胡乱な眼差しを向けることはなかった。










「教室とうちゃーく!」


「え、もう?」


「俺の話聞いてなかったっしょー?」


「え、そんなことないよ」


「そんなことあるよ。まぁ何悩んでんのか知んないけど、ほどほどにしときなよー、あんま思い詰めてもいいことないぞ」


 そう言った春原(はるばら)がクラスメートのもとへ駆け足で向かう。友人が多い彼は、どこにいても目立っていた。

 それでも春原はスクールカーストの上位ではない。周囲に溶け込むことが上手いだけの彼はイジメの対象になったりはしないものの、けして一番にはなり得ない人種だった。

 各言う俺も彼のことを、とやかく言える立場ではない。どちらかと言えば〝いじめられっこ〟に分類される人種なのは分かっている。だからこそ俺は周囲に合わせ、卒ない日常を過ごすことに徹していた。


 自身の席に着き、軽く呼気を吐き出す。長らく休んでいたので不審な目で見られることを覚悟していたが、そんなことはなかった。元々、居ても居なくても変わらない人間である。俺が、それを不安に思うのは自意識過剰以外の何物でも無かった。

 肘を附いて昨日のことを想起する。思い出したくもないのに、あの時の全てが脳裏に焼き付いて離れなかった。


 俺はチカさんを好きだと気付いたものの、どうするつもりもなかった。だって、そうだろう。俺は彼女について何一つ知らないも同然なのだ。ましてや恋人のいる年上の女性にモーションを掛けたところで、どうなるかなど分かりきっている。惨めに振られておしまい、だなんて冗談じゃなかった。


「なぁなぁ、この歌知ってる?」


 言葉尻に届くか否かという瀬戸際でヘッドフォンを装着される。さすれば人工的に造られたと思しき声が鼓膜を突いた。


「ボカロ?」


「ああ。なんか有名になったのは最近なんだけど何年も前の歌らしくてさ。知ってた?」


「ううん、てかコレ歌詞物騒じゃない?」


「それな。〝監禁〟ってタイトルらしい」


「え、監禁って、あの監禁?」


 肯定を示す彼が前の席の椅子に跨る。たどたどしい言葉で紡がれる歌詞を辿っていれば、スマホを鼻先に突き付けられた。


「歌詞」


「ありがと」


 差し出されたそれを受け取り、目で文字を追う。専用のサイトには曲名と作詞、作曲家の名前が明記されていた。


「ちゃき、ねぇ」


「ボカロPっていつも変な名前だよねー」


「『騙した挙句に、この僕は……』」


「『あの子を檻に閉じ込めました』」


「……なんでこれ流行ってんの?」


「他の流行ってんのと一緒だろ? 歌詞そのままでもストーリー性を感じるし、深読みしても面白い」


「あ、でもラスサビ前、結構好きかも……って、これ完璧殺してるよね?」


「好きなのをやめたのかもよ? それか恋が成就したとか?」


「出たよ。ハッピーエンド至上主義」


「なんかそれボカロでありそうなタイトルだな」


 軽く噴出した彼が「どう?」と訊ねてくる。どうも何もないだろう、なんて苦笑を浮かべれば、あどけない笑みを返された。

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