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恋は罪悪【ノベル大賞最終落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「人はクセモノ」
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第20話「悪徳」

 *


「登校は昨日だけ?」


 呼び鈴を鳴らす。すぐさま開いた扉の先で、チカさんが笑っていた。揶揄するような口舌にも関わらず、その声音は優しい。何も答えない俺を室内へ誘った彼女は、本のある部屋へ行くように促した。

 緘黙したまま廊下を歩む。チカさんの家に来なかったのは一日だけ。にも関わらず、懐かしさが込み上げた。見慣れた扉を開けば、本の匂いが鼻を突く。すっかり嗅ぎ慣れた紙の匂いは、俺の心を落ち着かせてくれた。

 ベッドに寝転ぶとスプリングが軋む。真っ白な天井を意味もなく眺めていれば、扉の開く音が聞えた。


「寝てたの?」


「そう、ですね」


「そう。昨日は学校に行ってたんでしょ?」


「はい」


「隼君」


「はい」


「伊澄とキスしてるの見たんでしょ?」


 意図しなかった質問に激しく咳き込む。慌てて身体を起こした俺は、口元に手を当て背を丸めた。伺うように彼女を見やれば、呆れたように笑っている。


「わっかりやすーい」


「しか、げほっ……! 仕方、ない、ゴホッ! ゴホッ……! じゃないですか!?」


「女の子と付き合ったことないの?」


「ないですよ!」


「今時の高校生なのに珍しいー」


 扉を閉めた彼女がベッドに腰掛ける。僅かばかり身体が揺れ、人一人分の重量を示していた。


「なんで座るんですか?」


「座っちゃいけない?」


「……そんなことないですけど」


「ですけど?」


「……ッ……彼氏に怒られますよ!」


「彼氏なんていないけど?」


「え?」


 目を剥いた俺が唖然とする。瞬きした彼女は噴出すると、悪戯っ子のような表情を浮かべた。


「彼は新垣(あらがき)伊澄っていうの。伊澄は幼馴染で……んー、昔お世話になったの。近所のお兄ちゃんみたいなもの」


「じゃあなんで……」


 キス、という単語が恥ずかしくて口に出来ない。羞恥で緘黙すれば、彼女が「ああ」と告げた。


「なんでキスしてたかって?」


「恥ずかしくないんですか……」


「あれ見ておきながら私に初々しい反応を求めてんの?」


 そう言われてしまうと何も言い返せない。話の続きを促せば、彼女は躊躇いなく口を開いた。


「お礼みたいなものなのよ」


「何の礼ですか」


「まぁ、色々とね。今でも定期的にココに寄っては世話を焼いてくの。そのお礼がアレ」


「チカさんは好きでもない人と、そんなことが出来るんですか?」


「体売ってるわけじゃないんだしいいじゃない。それに、そんな説教聞きたくなーい。そんなこと言う人は学校にでも行ってくださーい」


「意地の悪い人ですね」


「知ってる」


 彼女は当たり前、とでも言いたげな口吻をしていたが、俺には到底理解出来ないと思った。


 貞操観念というものは人それぞれなのだろう。俺は〝付き合ってもいないのに〟と思うが、彼女は、そう思わなかっただけの話だ。けれども好きな人が、そう(・・)だと些か渦巻くものがある。嫉妬心だったり、やるせなさだったり。そのどれもが無力な自分を責めるもので、俺は自身がどれだけ子供なのかを思い知った。

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