第14話「悪相」
「私はね、君が学校に行かない言い訳を聞きたいって言ったんじゃないの。他の大人が隼君に何を言ったのか、何を言うのか、そんなことは知らない。
けどね、私は隼君の主張を……心を聞きたいって言ったの。くだらない言い訳を考えてる暇があったら今抱えてるもの吐き出してくれない? 面倒臭いのよ」
どうしてこの人は一々偉そうなのだろう。けれども、俺の言葉を待っている彼女は、他のどの人間よりも〝優しそう〟に見えた。
「チカさんは俺の話が聞きたいって言ってくれるんですね」
「初めからそう言ってるじゃない」
「変な人ですね」
「は?」
ガンつけるな女だろう。そんなことを思っても口にしてはいけない。この人なら俺の襟首を掴んで窓の外に放り投げてしまいそうだ。
己の妄想に僅かに噴出し彼女を見据える。相も変わらず怖い顔面はヤクザのように歪んでいた。
「なんとなく行きたくなかったんです」
「なんで?」
「いや……だからなんとなくって……」
「なんとなくでも嫌なことの一つや二つ言えるでしょ」
「まぁ……そうですけど……」
「じゃあ言え」
だから、どうして命令形なのだ。
「イジメを見たくなかったんです」
「違うでしょ?」
「……そうですね。イジメを無視する自分を見たくなかった」
「初めて会った時よりは見れる顔になったわね」
「え……?」
「私ね、隼君とは初対面じゃなかったのよ」
「どういうことですか?」
「答えは君が見つけて。まぁ、今は隼君が学校に行けるようになることが先決かな」
「チカさん!」
「そうだな、今はココに来てもいいけど……」
「さっきのどういうことですか!?」
思わず立ち上がり拳を握る。奥歯をギリギリと締め上げるも、彼女が意に介すことは無かった。
「聞いてます!?」
「あ、ちゃんと私服で来てね。今日は誰にも見付からないように帰ってよ?」
「チカさんってば!?」
「座りなさい。うるさいよ」
スッと表情を失くした顔が俺に指図する。その様があまりにも鮮烈で気圧された。何かに操られるかのように腰を砕く。臀部には先程までの自身の熱が返ってきて気持ち悪かった。
窓の外は澄み切った空が広がっている。抜けるような青は美しく、陽光は彼女を照らしていた。室内に居ると外気が分からない。肌馴染のいい筈の空気なのに、俺の背筋は寒気を携え粟立っていた。
「そんなに知りたいならおいで」
あまりにもあっさりした返答に疑心暗鬼に陥る。煙に巻こうとしているのではないか。と思っていれば廊下へ導かれた。
「ココ、ゲストルームって言ったでしょ?」
「はい……」
そんなに長くない廊下を歩み、突き当りで立ち止まる。向かって右手の扉と向き直り、彼女は色のない声で説いた。
「もう一つ役目があるのよ」
生唾を呑み込み、ドアノブの音に緊張の糸を張り詰める。彼女の思考を探ろうと懸命に脳漿を巡らせていれば、扉は呆気なく開き俺を呑み込んだ。




