ズルいこと
「じゃあ、またね~」
「ばいばい」
真尋と日登美を見送って部屋に戻った麗亜に、璃音が立ち上がって尋ねてきた。
「ねえ、あんたらってケンカとかしないの?」
その問い掛けにも、麗亜は戸惑うでもなく「ふ~ん」と一呼吸おいてから、
「するよ」
ときっぱりと答えた。そして続けて、
「ケンカもするけど、次に会う時にはケロッとしてるんだよね。だってさ、人間だもん。気持ちがぶつかることだってあるよ。だけど、あの二人だったら許せるんだ」
と微笑みながら話しかける。
けれど、璃音にはそれが理解できなかった。
「分っかんない! それが分からないっていうのよ。腹立つことがあったら罵り合うのが人間なんでしょ!? リアルでもネットでもそうだったよ!? あんたらおかしいんじゃないの!?」
そう強く問い掛ける璃音にも、麗亜は穏やかな表情を崩さなかった。その上で、静かに問い掛ける。
「でも、そんなの嬉しくないでしょ?」
「…!?」
言葉を詰まらせた璃音に、麗亜はさらに言葉を重ねた。
「確かにさ。イヤだなと思うこととか腹が立つことってたくさんあるよ? でもそれって、自分ばっかりそんな風に感じてるのかなあ。自分が相手にそんな風に感じさせてるってことはないのかなあ。
わざとじゃなくても、相手を不快にさせたり怒らせたりっていうことはあると思うんだ。自分はそんな風に相手を不快にさせたり怒らせてしまってるのに、相手が悪気なくやったことで不快になったりしただけでいちいち頭に血を伸ばらせてて、楽しいとは思わないんだけどな。
そんなことしてたら、いっつもイライラしてなきゃならないよね」
麗亜はこともなげにそう言った。さらに続ける。
「私は完璧な人間じゃないもん。失敗だってするし、自分でも気付かないうちに誰かを不快にさせたり怒らせたりっていうことがあると思う。そういうのって、お互い様だと思うんだ。
私は、ついつい気付かないうちにやってしまったことについては、できれば大目に見てほしいなと思ってる。だったら、他の人がついついやってしまったことも大目に見るべきなんじゃないかな。自分ばっかり許してもらいたいなんて、ズルくないかな。
これって、私のお父さんが言ってたことなんだけどさ。
お父さん、私がわざとじゃないことで失敗しても、ちょっとお小言こぼすくらいで許してくれるんだよ。怒鳴ったりとかしなかった。だってお父さんも失敗するんだもん。自分も失敗するのに他人の失敗は許さないなんて、ズルいんじゃないかな」




