呼び声
「やっほ~、麗亜、久しぶり~」
麗亜が開け放ったドアからそう言って入ってきたのは、同じ歳くらいで短髪でボーイッシュな印象の女性だった。気安い感じで手を振りながら部屋に上がる。
「ホント久しぶりだね。元気だった?」
そう尋ねる麗亜に、女性は、
「いや~、仕事が大変でさ~。編集は煩いし。結構大変だよ~」
と苦笑いを浮かべる。しかしそれにしては楽しそうに笑ってもいる。麗亜に会えたからだった。
彼女の名前は門崎真尋。小学校時代からの麗亜の友人の一人で、独身。TRPG好きのややオタク寄りの女性だ。
「日登美も後から来るからさ。一緒に発狂しようよ」
などと物騒なことを言いながらトートバッグの中から一冊の本を取り出した。それは、<ルールブック>と呼ばれる本だった。
「お~! いいねえ!!」
麗亜は嬉しそうに手を合わせながら声を上げた。もちろん今は服を着ている。裸なのは、家族と認めた璃音と一緒にいる時か一人の時だけである。さすがにその程度の常識はわきまえていた。
「日登美が来るまでにキャラシートでも書いとこうよ」
一緒にコタツに入りながら真尋に言われて、「だね」と麗亜も受け取った紙に何かを記入し始めた。TRPGというゲームを行う為に必要な、キャラクターを創作する為の用紙だった。
二人が今から行おうとしてるのは、異形の邪神や怪物らが出てくるホラー系のTRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)というものだった。RPGと言えば今ではテレビゲームのそれが有名だけれども、本来はこちらが原型である。
「いや~、前回は大惨事でしたな」
麗亜が苦笑いを浮かべながらそう言うと、真尋も、
「いあいあ、じゃなくていやいやまったく。せっかくあそこまで育てた探索者をロストするとは。悔しくて一週間まともに寝られなかったよ」
ゲーム中のイベントで二人揃って大失敗をして、それまでお気に入りとして使っていたキャラクターをロスト、平たく言えばゲーム中で死なせてしまい、そのこと差して『大惨事』と言っているのである。
テレビゲームではプレイヤーのキャラクターが死んでも復活させられるのが普通だけれど、TRPGではそういう復活ができるかどうかはゲームを主催している人物がその権限でもって決められることがあり、彼女らは基本的に<復活はなし>というルールでゲームを楽しんでいたのだった。
そういう意味では、ゲームと言えどなかなかシビアな遊びとも言えるかもしれない。




