第二話?『僕、出逢いました』
振り向いた瞬間。僕は死にました。
頭を丸齧りにされ、一瞬の内に頭蓋を割られて、即死でした。
そんな悪夢を見た後、徐々に思考が明瞭になり始めてきたので、眼を醒ますと、真っ赤な血や臓物の撒き散らされた真ん中で僕は倒れてました。
なぜか全身が痛むんだけど…。
狼のような生き物と熊のような生き物に襲われるって言う変な夢も見たし、それの所為かな?
起き上がろうと、手を地面に着くと、ベチャッと生々しい音と粘りっ気のある液体が手に付きました。
余り気持ちが良い物ではないですね。
そして、ついでと言っては何だけど、トンッと何かが指先に触れました。
触った感覚で言うと、ホンノリと温もりのある柔らかい物でした。
それが何なのか分からなくて、気になった僕は、それを掴んで目の前に持ってきてみます。
「これ…」
間違いなく人体の一部…手でした。はい。
……はい?
僕の手と同じような形して…僕の手ですね。
身体を起こして、周囲を見渡してみると、僕の体の一部があちこちに転がっていました。
狼のような生き物や熊のような生き物に食べられる夢は、どうやら、夢じゃなかったようです。
身体はなんともないけれど、制服はボロボロで血痕だらけ。
まさに、それが真実を語ってくれてますね。
痛みが、まだ引きません。
それは兎も角、食べられて死んだ筈なのに、どうして僕は生きてるのでしょうか?
ピンピンしてますよ?
兎に角、ここは血生臭いから、移動しましょう。そうしましょう。
そして、水を探しましょう。
身体にこべりついた血を洗い流したいのです。正直、臭いのです。
それから、歩き続ける事、数時間。
お腹が空いてきました。
そりゃあ、そうだ。
だって、ずっと歩き続けてるんだよ?それに、それに、昼から何も口にしてないんだもん。
森の中は常に薄暗くて、朝か夜かさえ分からないし、非常食の一つも持っていない。
この森にある植物とか生き物だって、見た事ない物ばっかり。
あるのは、この身一つだけ。
服装もボロボロだしね…。
そこに生えてる、いかにも身体に害悪しかないですよって感じのキノコ…食べれるのかな?
赤と黄色の斑点が付いてるけど…。
そう思っていると、そのキノコに小虫が一匹止まって、ガジリッ、と虫らしくない凶暴そうな大口でキノコを食べました。
途端、虫の身体からキノコがニョキニョキと生え始め、虫はフラフラと何処かへと飛び去っていきました。
どうやら、食べれない物らしいです。はい。
空腹感に苛まれながら、更に歩き続けていると、死体を見つけました。
僕を襲った狼のような生き物が、三体。腹から臓物を撒き散らし、黒々とした血の池を作って死んでいました。
正直言うと、
「ぎもち”わる…」
吐きそうになりました。
まぁ、その後に吐いたんだけど。
兎も角、その周辺を吐き気を堪えながら観察する事にしました。
もしかすると、人が近くに居るかもしれませんからね。
周囲は何やら争った形跡があり、木々…と言うよりは、大木に派手な切り傷が付いていたり、地面が抉れていたり、と人間業では出来ないような痕跡が残っていました。
「グォォォォオォォォッ!!」
突然、近くから、獣とは違った威圧感の篭った大きな咆哮が聞こえてきて、僕は、足が竦んで尻餅をついてしまいました。
要するに、腰を抜かしました。
けれど、その後に何か起こる訳でもなく、僕は観察を続ける事にしました。
そんな時、ふと、気が付いた事がありました。
狼のような生き物は黒々とした血の色だけど、その中に赤黒い血痕が混じっていて、それが森の奥へと点々と続いていたのです。
赤黒い血痕は、間違いなく人間の血でしょう。
僕の撒き散らした血と同じような色をしてるので、断言できます。
血痕に触れてみると、まだ生暖かい感覚が残っていました。
どうやら、狼のような生き物との争いは、つい先程の事のようです。
人間業とは思えないような戦闘をする人が、どんな人か…。想像するだけで怖くなりますが、今はそうも言ってられません。
なぜなら、僕はお腹が空いていますから。
背に腹は変えられないです。
僕は、森の奥へ奥へと続く血痕の跡を追います。
そして、ようやく見つけました。
絶賛、狼のような生き物に食べられている最中の人間を。
手足はバラバラで、顔もグチャグチャで、身体なんてあちこち引き裂かれて原型とか一切とどめてません。
僕は、それを腰程の高さもある草むらに隠れて見ています。
少し吐きそうです。
狼のような生き物が立ち去った後、暫く死体を見ている事にしました。
殆どが食べられて残骸しか残ってないけど、狼のような生き物が戻ってくるかもしれないから、念の為です。
そうする事、暫く。
狼のような生き物が戻って来る気配がなさそうなので、僕は残骸の元へと向かいます。
草むらからでも酷かったけれど、この血生臭い、そう簡単には慣れれない。
まぁ、僕も同じ臭いを漂わしてるんだけどね。
兎に角、僕は、死骸の物だろうポーチを漁る事にしました。
理由は、お腹が空いてるから。
何か食べれそうな物とか持ってないかな?っと思ったのです。
だけど、残念な事に、食べれそうな物は何一つ出てきません。
鞘に納められた短剣が一本と、割れた瓶が幾つか出てきただけでした。
少し離れた大木には本物だと思われる長剣が突き刺さっていますが、それも食べ物ではありません。
残念です。
取り敢えず、死体をこのまま放置するのも忍びなく思った僕は、簡易だけど、お墓を作ってあげようと思って、近くに落ちてた肉片に手を伸ばします。
肉片を掴んだ刹那ーー長い銀髪の女性の人がそこに立っていました。
歳は僕と同じぐらいだろうか?
「あ……れ…?」
「………?」
女性は不思議そうに自分の手足を動かし、見つめ始めました。
僕も不思議に思いながらも、女性の身体から視線を逸らしつつ脚からソッと手を離します。
すると、手を離した拍子に勘付いたのか、彼女の視線が僕へと向きました。
僕は、視線を下げたままです。
「……あなたが?」
なんの事を言ってるのかサッパリ分からないけれど、僕は顔をあげれません。
なぜって?
それは、彼女がーー素っ裸だからです。
布の一枚も着けてないので、そう言うのに耐性のない僕からしてみれば赤面モノです。
今にも鼻血が出てきそうです。
なのに、彼女は僕の顔を掴んで無理矢理に持ち上げて視線を合わせてきました。
「私を生き返らせたのは、あなた?」
彼女が発する言葉は、淡々とした口調で、表情の変化もないから薄ら寒いものを感じます。
取り敢えず、答えておいた方が良いでしょう。
精神的に害です。害しかありません。お股のアレが『呼んだ?』と言ってムクムクと起き上がってきてますので…。
「わ、分からない…」
としか、答えれない僕は、圧倒的なコミニュケーション不足ですね。
とは言え、自然と視線が彼女の胸に向くのは、男性特有のものと言いますか、なんと言いますか…はい。
……小さかったです。
女性は、僕の顔から手を離して周囲を見渡した後、再度、僕に目を向けました。
「ありがとう」
どうやら、周囲の状況を見て判断したみたいです。
ニコリと笑みをこぼした彼女の笑顔が、とても美しく見えました。
「い、いえ…はい…」
彼女の感謝の言葉を受け取りましたが、直視はできません。彼女が裸を気にしてないようで、僕が恥ずかしさを覚えます。
だけど、どうしてでしょう?
状況から察するに、この人が先程まで死体だった人なのは確かです。
でも、僕は何もしてません。
肉片を拾い上げただけです。
なのに、彼女は生き還りました。
服は着てないけど、傷跡一つなく蘇りました。
どうなっているんでしょうか?
「あなたが助けてくれた。だから、この命は、あなたの為に使う」
……はい?
理屈が分かりませんでした。
どう言う意味でしょう?
「大丈夫。私は元傭兵。心配いらいない」
僕が不思議がっていると、安心させるかのように言ってきました。
でもね、僕が不思議に思っているのは別の事なのです。
実際に僕が命を救ったのかも定かじゃないのです。それに、もし僕が彼女を助けたとして、そこまでする必要があるのでしょうか?
「私は、セリーナ。よろしく」
そう言って、僕の眼前に手を差し出してきました。
僕は、この手を取っていいのでしょうか?
もし取ってしまえば、彼女を束縛させてしまうのではないでしょうか?
僕が迷っていると、彼女は、僕の腕を掴んで立たせてから、握手しました。
「よろしく」
どうやら、僕に逃げ場はなかったようです。
迷う必要なんて初めからなかったみたいですね。はい。
「よ、よろしく…」
でもね、一つ言わせて欲しいのです。
せめて服着て欲しいのです。はい。
その…セリーナの身体は未熟ながらも魅力的で…はい。正直に言うと、彼女の身体に興奮を覚えてしまいました。




