第三話?『僕、町に来ました』
僕の着ていた血濡れの服…制服をセリーナさんに貸しててあげて隠さなきゃならない部分だけ隠してもらった後、不意に彼女から疑問を投げ掛けられました。
「あなたの名前、聞いてない」
はい。名乗ってませんでしたね。
「えっと…僕は”山塚 廻生”です」
「やまかせい?」
なんか違うような…。
「廻生で良いですよ」
「…カイ?」
…はい。
「それでも良いですよ」
呼び名なんて気にしてませんからね。
「カイは魔法使い?」
「…へ?ま、魔法使い…ですか?」
突然、突拍子もない事を聞かれました。
「そう。カイは私を助けてくれた。だから、魔法使い?」
どう言う事でしょう?
何かの比喩でしょうか?
たどすると、僕の答える言葉は、
「えっと…違うと思います」
「じゃあ、聖職者?」
聖職者?
それって、信行者的な事でしょうか?
「それも違いますね」
これは断言できます。
僕は、何かの宗教に入っていた事が無いですから。
セリーナさんは少し考える素振りをした後、言いました。
「カイは不思議な人」
「えっと…」
僕からすると、セリーナさんの方が不思議な人なんですが…。はい。
「これから、どうする?」
はい。どうしましょうか?
特にこれと言ってする事なんて無いですし…強いて言うなら、散歩と言う名の面白そうな事探しでもしたいですね。
「そう…ですね…。取り敢えず、ここを離れませんか?」
血生臭いです。はい。
そう言えば、血の臭いをさせていると、血に飢えた獣が誘われてくるって聞いた事があるんだけど、そんな事はないですね。
血の匂いで誘われてくるのは、凶暴そうな口をした虫だけでした。
それもそれで怖いですが。
そんな訳で、サリーナさんを先頭に僕達は森を進む事になりました。
ちなみに、彼女が先鋒に立ったのは自らの意志です。「ここは危険な森だから、私が前を歩く」だそうです。
服装が際どいので、目のやり場に困ります。
そんなサリーナさんは、木に刺さっていた長剣を携えています。いつでも抜剣できるように、柄に手を掛けているようですが…ここって、そんなに危険な場所なのかな?
それと、僕が勝手に漁ったポーチも腰に着けてます。際どい服装が、それで和らいでいるような気がします。はい。
そんな色々な事を思いながら歩いていると、三匹の狼のような生き物が現れました。
よく出会いますね。
けれど、三匹の狼は現れると同時に一瞬で死に絶えてしまいました。
やったのは、彼女。サリーナさんです。間違いありません。
長剣の刃には黒い血を付着させ、狼達の居た場所から少し通り過ぎた場所に居るのです。
僕の目では捉えれなかったけれど、一瞬で移動して、一瞬で殺したのでしょう。
人間離れしてますね…。はい。
「私は強い。だから、心配いらいない。カイは私が命を懸けて守る」
胸を張って言ってくれたサリーナさん。
無い胸が強調されてます。
でも、その使命感はどこから来るのでしょうか?
僕はサリーナさんにそこまでの事をした覚えはないんですが…。
挙げるとすれば、土に埋めてあげようと肉片を拾い上げたぐらいの筈です。
吐きそうになりながらですけど…。
あの感触は一生忘れられません…。トラウマになってしまってるかもしれません。
そんな事がありながら、サリーナさんが先頭で出会う獣をバッタバッタと薙ぎ倒し、遂に森から抜けました。
「………」
なんと言うか…はい。
言葉が出ないとはこう言う事を言うのだと初めて知った瞬間でした。
「あの丘を越えれば街に着く。どうする?」
「………え?はい?」
余りにも驚きすぎて聴いてませんでした。
だって、だってね、森から抜ければ草原が広がって居たんですよ?
もうね、『どこだよっ!』って言っても良い程に僕の知ってる場所とは違うんだよ?
太陽が爛々と輝き、大地を照らしてくれてます。僕も、太陽の恵みで心身共に清まれます。
いえ、そうじゃなくてですね…はい。
太陽の近くに月があるのですよ。
青い月が太陽と並んでいるのですよ。
でも、サリーナさんは、それが当たり前のように振舞ってるし…。それが普通なのですか?
「今日は青の日。水が安い」
あ、はい。そうなんですか…。
あの月にそんな関係があるんですね。
「どうする?」
「えーっと…何がですか?」
「後少し歩けば、街に着く」
町ですか?
その、あれですか?僕は他国にでも来ましたか?
この際ですから、いつ来たのかは置いておきます。だからね、教えて下さい。
「えっと…ここ、どこの国ですか?」
「…?ダナタック帝国」
僕の疑問に、コテンッと首を傾げて不思議がりながらも教えてくれました。
聞いた事もない国の名前を…。
どうすれば良いのでしょうか?
何かの冗談でしょうか?それとも、ドッキリですか?
でも、サリーナさんの目は冗談を言っているようではないし…。っと言うか、無表情だし…。
そうですね…。
「と、取り敢えず、町に…」
「わかった」
一つ頷いて、サリーナさんは僕の前を臆す事なく突き進み始めました。
僕は、その後を奇怪な景色を不思議がりながら付いて行きます。
それから、小一時間程歩き、丘を越えた辺りで、サリーナさんが言っていた町が見えた。
高く聳える城壁のような壁に囲まれた巨大な町が…。はい?町?
町ってなんだっけ?
僕はてっきり、小さくてこじんまりとした長閑な所を想像してたんだけど…。アレ、絶対にそんなんじゃないよね?
「初めて?」
「えっ、あ、はい」
突然聴かれたから、少し戸惑ってしまいました。はい。
でも、サリーナさんは気にしてなさそうです。
「そう。…商業の街エレノルア。帝国で買い物するなら、ここが一番」
よく分からないけど、ご教授ありがとうございます。
「カイは、冒険者?」
「冒険者?」
冒険者って何でしょうか?
「職業。カイのジョブは?」
ジョブ?日本語に直すと、職業ですよね?
どうして言い換えたんだろう?
まぁ、良いや。
職業と言われても…僕の職業は一つしかないからね。
「えっと…学生?」
これしかないよね。
バイトとか、そんなのした事ないですし。
「…?」
でも、サリーナさんは分かってくれませんでした。
「カイは冒険者じゃない?登録する?」
今更ですけど、イマイチ話が噛み合ってないようです。
今気付きました。
取り敢えず、サリーナさんの言う冒険者の意味が分からないけど、頷いておきます。
たぶん、冒険をする人の事だと思います。はい。
「分かった。任せて」
はい。
何だかよく分からないままだけど、サリーナさんの言葉は自信に満ちています。
とは言え、淡々とした口調は変わらないんですけどね。
そんな会話をしていると、町の門の前に辿り着きました。
巨大な壁に取り付けられた門は、何が潜るのか疑問に思える程に巨大です。
それを見て思い出したのは、ハシゴを伸ばした消防車でした。
消防車のハシゴを伸ばしたら壁の上まで届くかな?って思いました。
はい。変な事を考えましたね。
僕の変な思考は置いておき、その巨大な門の隣に、小さな…とは言っても、車が通れる程の大きさの扉がありました。
そこに居る重たそうな甲冑を着込んだ兵士さんっぽい人が手招きしてます。
手に槍を持ってますけど…それ、ホンモノですか?
手入れされているようですけど、やけに使用感があるのですが…。
手招きをする兵士さんっぽい人にサリーナさんが気付くと、サリーナさんは何も気にする事なく歩いて行きます。
その後ろに僕が付いて行きます。
べ、別に、サリーナさんを盾にしてるわけじゃないですよっ!
兵士さんっぽい人が怖いだけですよっ!
「おかえりさんっ!で、どうだったよ?」
僕の心配は杞憂だったようです。
雰囲気が怖かったのですが、そんな事はなかったみたいです。兵士さんっぽい人の発した声は、かなり親しみ易そうな感じでした。
早とちりして、ごめんなさい。
「失敗した」
兵士さんっぽい人の疑問に答えるサリーナさん。
親しい間柄なのかな?
もしそうだとしたら、僕は邪魔者になるだろうし、話聞いてるだけで良いかな?
「そうか…。まぁ、その、なんだ。気を落とすなって。やっぱり、Aランク一人でなんて無理だって話なんだよ。それに、異例な程に早いとは言え、嬢ちゃんはAランクになったばかりだろ?」
「そう。けれど、次は勝つ」
「その意気込みは流石だが、無理だけはするなよ?その歳で冒険者なんかしてるヤツは生きてりゃ将来は有望なんだからな」
「もう死んだ」
「ん?」
兵士さんっぽい人は、サリーナさんの言葉に首を傾げました。
はい。確かにサリーナさんは死んでいましたね。
自覚していたんですね。
って、そうじゃなくて。
爆弾発言ですよ?
ほら、兵士さんっぽい人だって『何言ってんだ?』的な表情を浮かべてますよ。
「ま、まぁ、人生なんて色々あるさ。気をしっかり持ってりゃ、いつか倒せる日が来るさ」
どうやら、サリーナさんの発言は自己解釈で解決したみたいです。
「で、そこのは、お前のコレか?」
兵士さんっぽい人は、僕に視線を向けてから小指を立てました。
どう言う意味でしょう?
「そう。助けてくれた。私の恩人。一緒に行く」
そして、サリーナさんは、どうして顔を赤らめて恥ずかしそうにしたのですか?
僕の疑問が解決する事なく、話は進みます。
「おぉ!そうか!嬢ちゃんを助けたのか、お前!アイツ等も嫉妬するだろうな!すげぇヤツだな!」
兵士さんっぽい人は、笑いながらドンドンッと僕の背中を叩きます。痛いです。
鉄の部分がモロに当たってます。
「い、痛いです」
でも、僕が痛がる仕草をすると、兵士さんっぽい人はすぐに手を引っ込めてくれました。
「おっと、悪りぃ。いつもの癖だ」
これが、いつもの癖なんですね。かなり豪快な人なんですね。凄く痛かったです。
「悪かったって。だから、そんなに睨まねぇでくれよ」
だって、痛かったですもん。
「今度飯奢るから、それで許してくれよ」
ご飯ですか…悪くないですね。
ご飯に免じて許してあげましょう。
欲を言えば、今すぐに欲しいのですが。
「そんじゃ、手続きに入るか」
兵士さんっぽい人は話を変えました。
彼がそう言うと、サリーナさんは迷いなく銀行のカードらしき物をポーチから取り出して渡しました。
それに兵士さんっぽい人は、サッと目を通してから、僕に視線を向けます。
まるで、僕も渡せって言ってるみたいですね…。
でも、僕、そんなの持ってないですし…。
っと言うか、何も持ってないんですが?
生徒鞄はビルの屋上に置いたままですし。財布もそこに入れてます。
「カイは持ってない。今から登録する」
「おぉ!そうだったか!にしても、冒険者でもねぇのに、よく嬢ちゃんを助けれたな!もしや、またもや期待のルーキー現る、か!?俺も負けてられねぇな!」
豪快な笑いをしながら、またもや僕の背中を叩く…叩く…。
「痛いです…」
「おっと、悪りぃ」
「本当に痛いんですから…」
痛む背中を摩りながら…あ、届かない…。
「よしよし」
僕の代わりにサリーナさんが摩ってくれました。
サリーナさんって、根は優しいんだと思うけど、どうして言葉に感情がこもってないんでしょうか?
まぁ、そんな事がありましたが、サリーナさんが兵士さんっぽい人に硬貨っぽい何かを渡してから、町?に入る事ができました。
最後に、兵士さんっぽい人から「頑張れよっ!」と励ましを貰ったのですが、なんと言うか、別の意味が込められていたような…。




